↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
33/45

6-6、桃妃の拒絶はそう簡単には解けません

 走ったからと言って、王宮からは出られない。

 適当に、赤い橋の上まで来て、池の鯉をのぞき込んだ。

 水面に映る瑞希は、相変らず若いころのままだ。


「私だけが若返って。おじいさん、私をどうしたいのです」

「また、おじいさん、か?」


 後ろから聞こえたのは、金栄その人の声だった。振り返る。

 金栄は息を切らして、瑞希を見据える。


「あと少しの辛抱だ。青龍さまが回復したら、そなたももう、ここを去るのだろうな」

「私、は……」


 その前に、皇后選びの話はどうなるのだろうか。

 瑞希の心を読んだかのように、金栄がまた、笑った。


「皇后は、わたしが選ぶこととしよう。そういう前例も、あることはあった」

「なぜ最初から教えてくれなかったのですか」

「さあ。そなたをここにとどまらせたかったから、と言ったら?」

「戯れを。私なんぞ、料理しか取り柄もないのに」


 おじいさんにも、同じ言葉を言ったことがあった。

 おじさんとは、見合いで出会ったが、それは一度、断っていた。

 瑞希には不釣り合いだと、瑞希が断ったのだ。

 そのあと、偶然病院で再会したのだ。

 瑞希が栄養士として勤める病院に、おじいさんが入院した。

 その時の栄養指導に感銘を受けて、おじさんの猛アプローチが始まった。

 毎日仕事終わりに花束を持ってきて、一緒に割烹を開こうと。そこで栄養士として栄養指導してほしいと。

 自分の割烹に足りなかったのは、健康なのだと。

 料理はおいしさもそうだが、瑞希のような、栄養の知識のある人間が、これからの世にはもっともっと必要になるのだと。

 うれしかった。

 栄養士の地位はそのころはまだ低く、そんな風に言ってくれたのはおじいさんが初めてだった。


「私には、心に決めたおじいさんがいますので。いくら陛下でも、私の心に無断で入らないでください」

「はは、わかっている。だからこそ、そなたをそばに置く」


 つまり、皇帝のそばにいる女たちは、日々皇帝の寵愛を競っている。

 女官や侍女たち、下級の妃たち。

 そんななかで、夜妃や紅妃、雲妃は、権力争いを好まない、稀有な存在だと思う。


「わたしは、皇后を定めずに、四人の妃を平等に扱う制度を考えている」


 それは苦難の道だと思った。けれど、金栄らしいとも思う。


「かなうとよいですね、その未来」

「ああ。そなたの未来を守るためだ」


 未来を、ね。と瑞希がつぶやいた。

 瑞希が皇帝を助けるのは、決して恋慕からではない。おじいさんに似てはいるけれど、でも、心に常にいるのはおじいさん。

 その祖先である皇帝を助けねばと、瑞希は改めて誓うのだった。



 その後、あの手この手で青龍宮を訪ねた瑞希だが、どうにもその中に通してもらえない。

 女官たちが固くガードしているのだ。

 見かねた金栄が、助け舟を出したのはその十日後である。


「青龍宮への強制的な立ち入りを、わたしが許可した」


 と、青龍宮の女官に厳しく言いつければ、開かなかったその扉が、音もなく、しかし厳かに開かれるのだった。




「お初にお目にかかります。神女? の瑞希です」


 ようやく対面できて、瑞希は桃妃を上目づかいに見た。


「初めまして、青龍宮の、桃と申します」


 おや、と気づいたのは、瑞希だけかもしれない。いうなれば、今までの妃とはなにかが『違う』。


「桃妃さま。桃妃さまは……陛下のいとこと聞きました。なぜ、そのような方が後宮妃に?」

「よくあることよ。私が木の気が強かったから、ただそれだけのこと」


 うん、と瑞希が頷く。


「なにか分かったのか?」

「いえ。ただ」


 まじまじと桃妃を見る。やはり、しっくりこない。


「あの、桃妃さまは、青龍さまになにをお供えしたのですか?」

「新鮮な青梗菜に、酢豚。肉団子の甘酢餡よ」

「なるほど、料理は確かにちゃんと『木』ですね」


 だったら青龍は、なにが気に入らなかったのだろう。

 ふと、桃妃の女官が、生薬を持ってくるのが見えた。

 桃妃は、あからさまにそこから視線を外すために、右側に一歩、足を動かした。


「神女さま。大したおもてなしもできずに」

「いえ……あの、桃妃さまは、ご病気が?」

「私? ないわよ。病気なんて」


 だったら、あの生薬は。

 ちらっと見えただけだから確証はないが、あれは山梔子(さんしし)。

 あれは例えば、加味逍遙散などに入れる生薬で、山梔子を五年以上服用すると、慢性的な腹痛に襲われる。それだけ効果の強い生薬だ。

 瑞希の世界では、クチナシと呼ばれるそれ。


「そ、それでは、神女さま。わたくしはそろそろ、舞のけいこの時間で」

「そうですか。では、また改めて伺います」

「ま、また来るのですか?」

「はい。原因がわからなければ、来るほかにないので」


 苦笑しつつ、桃妃は瑞希たちを見送る。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。