↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
31/45

6-4、妃たちとお料理します!管理栄養士の知識は呪文だわ……

「だから私は、疎まれて……焼き印を押されたこともあったのよ」


 それでも、さすが朱雀の妃だ。


「ここに」


 と、腕をまくり上げたため、金栄が顔をそらす。律義な。

 しかし、紅妃のそこに、傷跡なんてない。


「ここにあった焼印は、朱雀さまが初日に消してくださったの」

「そんなこともできるのですね」

「そうなの。だから私、朱雀さまをなんとしても助けたかったの」


 だから、気をうまく扱えない朱雀のもとに通い続け、結果、暑気を受けて夏バテの状態になってしまったのだ。


「でも、瑞希お姉ちゃんのお料理で回復して……お食事のありがたみを知ったの。それに、お姉ちゃんの料理のおいしさときたら……! 私のそば付きの女官たちにも評判なの。それでね」


 紅妃の苦労話は、あっさりと紅妃自身の手で終わらされた。あとくされのない、いい性格だ。

 いじめられたことを、今はもうすっかり乗り越えている。というよりは、気にも留めていない。

 好ましい少女だ。屈託のない笑顔も、かわいらしい。

 あと五年もすれば、金栄も驚くほどの素敵な女性に育つだろう。


「それで、お姉ちゃん。わたしにもお料理を教えてほしいの!」

「え。ええ!?」

「無理かしら? でも、そうでもしないと、女官たちに、おいしいお料理をふるまえないし」

「え、っと。その話だと、紅妃さまが、下のものに料理をふるまうと?」


 そんなこと、普通の後宮妃はしないというのに。どこまでもお人よしで、人間臭い。

 しかし、雲妃も、夜妃も、うん、とうなずく。


「わたくしも、教えていただきたいわ」

「わたくしも。肌のぱっくも、自分で作れるようになりたいし……なにより、自分で霊獣さまに供物を作れてこそ、後宮妃として一人前ですもの」


 かくして、瑞希は三人の妃に料理を教えることとなった。


「久しいわねえ。このわくわく。腕が鳴るわね」


 瑞希はノリノリである。



 麒麟宮の厨房に移動して、まず前掛けをして手を洗う。


「手指に傷があるときは、絶対に料理をしてはなりません」

「なぜ? 包丁で傷くらい、料理人なら」

「いいえ。黄色ブドウ球菌という食中毒菌が、手の膿には存在します。この菌は、加熱すれば死にますが、菌が生み出した毒素は加熱でもなくなりません。普通の食中毒菌は、中心温度七十五度で一分で死にますが、黄色ブドウ球菌だけは別です」

「ええと、はい。つまり、手の毒がついてしまうので、料理をしてはならぬと」


 夜妃は呑み込みが早い。そして、瑞希の言いたいことの要点をまとめる才能があった。


「わかったわ。じゃ、お姉ちゃん、次は?」

「次は、立ち方。まな板に対して、利き腕の足を半歩後ろに引いて立ちます」


 そうすると、右手がまな板の右から左、全体を使えるようになる。

 まな板に対して平行に立つと、右手がまな板に対して斜めになるから、有効的な使い方ができない。


「本当だわ、この立ち方だと、まな板の右から左に向かって、手を動かせる!」


 雲妃が包丁をもって、実際に切るしぐさをする。


「お姉ちゃん、早く包丁!」

「紅妃さまはせっかちね。じゃあ、包丁をもって」


 中華包丁は、切る、つぶす、ができる大きな包丁だ。その重さを利用すれば、食材はきれいに切りそろえることができる。

 そばにあった手頃な生姜を切っていく。

 基本的に、中華の薄切りは縦ではなく横にスライスする。

 スライスしたら、端からとんとんとリズミカルに千切りにする。鮮やかな手つきにみなが見とれた。


「すごい……! 生姜の千切りがこんなに均等に、細く」

「はい。包丁は基本中の基本。千切りの練習は欠かさずに」


 それから、中華鍋を持ってきて、軽くチャーハンを作ることにする。


「昨日の残りの焼き豚を角切りにして。長ネギはみじん切り。ご飯はもうすぐ炊けるから」


 先に卵を鍋に入れて、素早くかき混ぜたらご飯を加える。それを、豪快に振って、ご飯をパラパラにするために、火にあてるようにあおる。

 これがまた、一苦労だ。

 女には中華鍋は重く、隣の妃たちはひとたびすらあおることができない。

 そうこうするうちに、パラパラのチャーハンの出来上がりだ。


「ささ、熱いうちに召し上がれ?」


 出された、山の形を模した料理を、レンゲで口に入れる妃たち。


「んふう! おねえちゃん、これ、お米のお料理の中で一番好きです」

「これは……癖になりますわね。パラパラの食感がいいわ」

「わたくしも……肌が気になるので、たくさんは無理ですが……米料理の一品に加えたいです」


 雲妃の肌荒れは、油や糖質を制限するように、と指導したばかりなのに、雲妃はそれをちゃんと守っているようで、瑞希はそれがなんだかうれしかった。

 栄養指導をしたところで、それを守るか守らないかは個々人による。

 けれど、食事とは生きること。生きる上で食事を制限されたら、誰だって耐えられなくなる。


「雲妃さま。おそらく、肌のほうも、それほど厳しくしなくとも。亜鉛とミネラルを摂られれば、糖質と脂質はほどほどにすれば食べられますよ」

「まあ、そうなの? よかった。食養生、少しだけつらかったのです」


 そりゃあ、糖質と油はうまみの塊だ。制限なんてできるはずもない。

 十九歳といえばまだまだ食べ盛り。


「それでは、今日はこの辺で」


 その日以来、少しずつ瑞希の料理を妃に教える時間ができていく。

 けれどなにぶん、青龍さまの体調が、気がかりだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。