6-3、後宮妃の選び方
「はあ。桃妃さまは、なぜ私を……陛下を拒まれるのでしょう」
麒麟宮で、麒麟、朱雀、玄武、新たに加わった白虎を世話しながら、瑞希がごちた。
あれから何回も青龍宮を訪ねたが、中に入れてもらえない。皇帝である金栄でさえも。
「あの、神女さま」
「はい」
「あの。白虎さまの乳が、こぼれています」
さらしに牛乳を含ませて吸わせているのだが、いかんせん上の空だった瑞希は、牛乳をさらしに吸わせすぎて、膝の上がびしょびしょだった。
「いけない! 白虎さまはご無事!?」
「大丈夫です。むしろ、嬉しそうで」
『がうみゃ』
膝の上の白虎は、雲妃だけでなく瑞希にもなついている。
雲妃が白虎を瑞希から取り上げる。
「ほら、神女さまはお疲れなので、わたくしがお世話いたしましょうね?」
『みゃうう!』
と、白虎は手のひらサイズで、かわいらしく鳴いている。
「はああ、麒麟さまも玄武さまも、朱雀さまも白虎さまも。かわいらしいったらないですわ!」
雲妃もすっかり麒麟宮での子育てになじみ、ほかの妃とも和気あいあいとやっている。
だというのに、瑞希は青龍宮の桃妃のことばかりだ。
「木が枯れて……このままでは、せっかく育った植物が枯れてしまうわね」
だから、なんとしても桃妃に合わねばならないというのに。
瑞希に焦りがにじんでいる。
と、妃たちが突如立ち上がり、麒麟宮の扉に向かって拱手礼する。
金栄が来たのだ。
「陛下、ご機嫌麗しゅうございます」
妃の言葉が重なった。しかし、瑞希は思案するのみで金栄にあいさつもしない。
金栄は、椅子に座る瑞希の真横に立ち、
「わたしが来たが?」
「わ、え? あ、陛下!」
がた!と立ち上がったせいで椅子が倒れた。そんなことも気にせずに、瑞希は金栄に拱手礼する。
そのまま、瑞希が座っていた上座を譲り、地面に六人で座り込む。
子育てにあたって、霊獣の安全のために、この部屋は土足厳禁であるし、低い卓があるだけで、板張りの床にじかに座る作りになった。
「して。さするに、桃妃の件で悩んでいるようだな」
「はい……どうも、納得がいかぬのです」
桃妃は、話によれば最初は供物をささげたのだという。
なのにそれを、青龍が拒んだ。
「陛下。霊獣に拒まれた後宮妃の前例はあるのですか?」
聞けば、金栄はふるふると首を横に振った。
「妃とは霊獣にとって特別な存在。厳重に、何回も選抜を重ねるゆえに、拒まれるなど異例のことだ」
「なるほど。選抜とは、どのような?」
と聞けば、紅妃が声を大にして、語りだす。
「私の時は、それはもう、大変だったのです!」
夜妃も苦笑している。
妃選びは、大変な国の一大事なのだそうだ。
後宮に召し上げられる下級の妃には、まず学問が問われるのだという。
しかし、後宮の主――霊獣に仕える妃候補は、学問の前に、生まれついた星を読む。
つまり、四柱。
人は生まれた時間で、八つの星を持つ。
例えば、紅妃は『丙午』の年、『丙巳』の月、『丁午』の日、『甲巳』の時間。
この八つのうち、丙、丁、午、巳が火の星のため、紅妃は、後宮に入った時分から、特別な扱いった。
夜妃も同じく、八つの星のうち、水の星が五つなのだという。
「ああ、こんな幼いひめが、後宮妃になれるはずがないわ」
どんなに火の星を持っていても、後宮に入れば下級妃から始まる。
最初のころは、それはもう、ひどかった。
なにしろ、霊獣の星を多く持つというだけで、周りからいじめられるのだから、後宮とは恐ろしい。
そう思うと、最初のころ、紅妃が瑞希に冷たい態度をとったのも致し方ないと思う。
とはいえ、妃は下級、中級、上級ともに五人ずつ。
その頂点が、霊獣の後宮妃。
「あはは。ほら見て、また顔を真っ赤にさせて」
「本当に。火が強いからなんだっていうのよ」
星の多寡は、その人の性格にも影響を及ぼす、とは星読みの考え方だ。
現代で言う占いだ。そして、その思想が継がれたのが薬膳だから、瑞希はあながち、星の数と性格の関係は否定できない。
「ほら、水をかけるとこんなにお弱くなる」
そして、火の強いものは水に弱く、水の強いものは土に弱い。
だとしたら、後宮の主である金栄が土なのだから、それを剋す木の青龍宮の桃妃が、後宮を牛耳るのでは、と、まことしやかにうわさされるくらいだった。
しかし、紅妃が朱雀の妃となる前から、後宮では『呪い』がはびこっていた。
雲妃の肌のただれ、夜妃の慢性的な頭痛、桃妃は部屋から出ずにふさぎ込み――だから、健康な朱雀の気を持つ紅妃は、ほとんど朱雀宮にと決まったようなものだった。




