6-2、流行りのマーラータンですよ!
厨房に、瑞希と妃三人がそろい、まずは春雨を茹でる。
「太い春雨がこの時代にあるのは幸いでした。最初に、ごま油でホワジャオを熱して、ニンニクと生姜を炒めて、豆板醤を炒めて白湯を加えたところに」
味付けはオイスターソースと醤油、それからチーマージャン、つまり練りごまみそだ。
チーマージャンを使わないレシピもあるが、白ごまは金の気の食べ物のため必須だし、なにより練りごまを入れると美味さが別物になる。
春雨は茹でて、スープの中で最後に煮込めば完成だ。具材は、白きくらげに山クラゲ、豚肉にきのこ、里芋のスライスだ。
未来では、ブンモジャなどじゃがいもからつくるもちもち麺が入るが、この時代にじゃがいもは早いので、太い春雨だけだ。
「ふわあ、おいしそうだわ」
紅妃が待ちきれず、卓について箸を持つ。
夜妃も卓につき、雲妃は白虎とともに卓に座った。
「じゃあ、召し上がれ!」
久々の料理はいい息抜きで、瑞希は自分が生きている意味を実感した。
自分には、やはり料理しかないのだ。
「ああ、おいしい! 辛いのにごまがまろやかにして。春雨ももちもちで最高ね」
紅妃がはふはふとほふる。
夜妃もスープをれんげにすくい、上品に飲んでいる。
雲妃は、スープを白虎に飲ませ、白虎はご満悦に『ぷみゃ』と鳴いた。
「さあ、残るは青龍の桃妃さまね」
そのころ、後宮で妙な呪いが流行りだす。
体中から血が出て死にゆく人間が、出たのだという。
青龍は木を司る。他の五行の霊獣は力を取り戻したから、木の気がことさら弱まっている。
植物が謎の病気で枯れ、実った農作物が腐っていく。
民の暮らしが危ぶまれているのだと、瑞希は金栄から又聞きした。
「しかし、後宮にまで呪いが発生するとは」
金栄は、青龍宮に向かう道すがら、しみじみと瑞希に言った。どこか他人事なのは、これが『呪い』ではないと確信しているからだ。つまり、瑞希ならこの呪いの正体を明かせると信じているのだ。
むずがゆくもあり、うれしくもある。
「陛下。おそらくこの呪いは、『壊血病』です」
「壊血病?」
「はい。船乗りに多い病でした。船では新鮮な野菜を摂れぬため……ビタミンCが不足すると、体内でコラーゲンがつくられにくくなり、皮膚が弱くなり血が出る病です」
「なるほど。ゆえに、木のものを摂れば治ると」
「はい。ですので、青龍宮に行くのが近道かと」
ひとえに、植物が枯れてしまうのが原因なのだ。つまり、青龍さまの回復がカギとなる。
しかし、金栄は気乗りしない。
「あねう……桃妃は、供物などささげぬだろうからな」
「なぜです?」
「……許嫁が、いた」
「……許嫁が?」
金栄と桃妃は、姉と弟のように育ったと聞いている。てっきり、思いあっているのかと思ったのだが、勘違いだろうか。
「しかし、桃妃は、一度は供物をささげはした」
「そうなんですか?」
「ああ。だが……青龍さまに拒まれて。それで、それ以来、後宮から出てこない」
それで金栄は気乗りしないのだ。
つまり、金栄ですら、青龍宮には入れてもらえないのだろう。
だとして、青龍が桃妃を拒む理由はなんだというのだろうか。
「陛下。霊獣さまが供物を拒むというのは、なにか理由が?」
「それがわからぬから、困っている」
ふむ、と瑞希が思案する。
青龍は木を司る霊獣だ。
木は春を司る。
食べ物なら、野菜やすっぱいものだ。
「とりあえず、桃妃さまい会えたらいいのですが」
「期待はするな」
しかし、言葉通り、その扉はなかなか開かない。




