5-2、干し貝柱のごま油焼き・海苔ソースを添えて、牡蠣のミルク煮、アーモンドミルク寒天
亜鉛と言ったら、貝類だ。
この国では干し貝柱が多用されるから、それは容易に手に入る。
そのほか、海苔でミネラルを補う。この時代の海苔は丸く分厚く、スープにしても形を保つからうまみが強い。
それから、アーモンドなどのナッツをかき集めて。
「はかどっているようだな」
「陛下。また味見しに来たのですか?」
「妃に出す料理だ、わたしみずから確かめねばなるまい?」
はたと気づく。これまで、単に物珍しいから厨房に来ていたわけではなく、妃への、そして霊獣への供物を『毒見する』ために、金栄は瑞希の料理を見張っていたのだ。
「そんなに信用なかったですか」
「ああ、そなたを信じていないわけではなくて……ああもう。そなたといると飽きないから、つい来てしまう、ただそれだけだ」
そんなこと言われたって、本当は心からは信じていないのだろうと、瑞希は落胆する。
落胆? なぜ。
この皇帝はおじいさんに似ているだけで、赤の他人だ。
「それでは、作りますね」
戻した干し貝柱はごま油で焼き付けて、海苔を白湯で煮込んだソースをかける。
肌荒れに脂は禁忌だが、質のいい植物油、つまりごま油やオリーブオイルは適量なら肌に良い。
新鮮な牡蠣は、片栗粉をもみ込んで塩水で洗って汚れを落とし、牛乳に直接小麦粉を混ぜて火にかけて、とろみが出たら牡蠣を加えてミルク煮にする。ここでバターでホワイトソースを作るのは肌に逆効果なため、牛乳にじかに小麦粉を混ぜるレシピに調整する。
アーモンドは粉砕してペースト状になるまで乳鉢ですって、そこに水を加えて煮だしてさらしで絞ってアーモンドミルクにしたら、寒天で固めて涼しげなデザートに。
「今日も不可思議な料理ばかりだ」
「はい。でも、おいしいですよ? 『毒見を』どうぞ?」
嫌味に言ってやれば、眉間にしわを寄せて金栄が味見する。
ホタテの海苔ソース掛けは、海苔の風味が効いていておいしい。どちらも海のものだから相性は抜群だ。
貝柱を焼くのも意外だった。貝柱は煮込み料理という思い込みがあったからだ。
また、牡蠣のミルク煮も美味である。とろみをつけることで牡蠣のうまみが凝縮され、ぷりぷりの食感と臭みのなさはあの下処理のおかげだろう。
アーモンドは咳止めの漢方であるが、それを粉砕して成分を抽出するなど、手間のかかる作業だ。
「アーモンド飲料は、私の国では日常食なので」
「漢方が日常の甘味と」
世界は広いな、と金栄はつぶやく。
まあ、未来の世界の話なんだけど、と瑞希は思いながら、料理を膳に載せていく。
「では、行ってまいります」
「いや、待て。私がいたほうが、雲妃も話が早いだろう」
「……?」
そうして、瑞希は金栄を連れ立って白虎宮へと料理を運ぶ。
白虎宮について、瑞希が声をかける前に、金栄に止められた。
「雲妃、わたしだ」
そば付きの女官もなにも言えず、扉が静かに開かれる。
しかし、そこに瑞希の姿を見つけ、雲妃は顔をしかめた。
「ふたりで謀りましたね」
「いいや。わたしのはかりごとだ」
金栄がにこやかに白虎宮へと入っていく。
雲妃は、金栄には言い返せないらしい。心なしか、しおらしい。
この前の、瑞希に対する態度とはまるで違う。
それもそうか、と思う。
「おじいさんも、男前だったしねえ」
つまり、星の導きで後宮妃になったものの、今は心から皇帝に仕えている、ということだろう。
「雲妃。久しいな」
「陛下……その神女さまが、それほど大事ですか?」
「そなたも知っているであろう? 神女は、霊獣を統べるもの。そなたの味方だ」
「どうでしょうか。後宮妃を欺き殺して、皇后の座を狙っているのやも」
「そのよなことは断じてありません。私には旦那さまがいますので」
瑞希が何回目かもわからないやり取りをしながら、持ってきた料理を卓に置く。
そして、はちみつと酒粕を浸した布を女官に渡す。
「これを、肌に張り付けて四半刻、毎日お風呂上がりに試してください」
「このような得体のしれないものを? 呪いにこのようなものは」
しかし、ここまで呪いを信じているのならば。
「では、私が白虎さまを鎮めてまいりますので、もしそれがうまくいったら、このパックも、お料理も召し上がっていただけますか?」
瑞希の真剣な表情に、雲妃は顔をしかめた。
「そうやって、わたくしの座を脅かすおつもりで?」
「そのようなことは」
「わたくしは、白虎さまと心中すると決めたのです。この肌のただれは、白虎さまのお怒り。お怒りがしずまらなければ、わたくしは白虎さまには近づけませんもの。そのすきに、白虎さまを取り込むのが得策ですわよね。もしや、はなからその腹積もりでわたくしを呪ったのが、神女さまなのでは!?」
強く言われて、しかし否定したのは金栄だった。
「さようなことをなぜ申す!? そなた、見損なったぞ」
「陛下? 陛下こそ……後宮に入ったばかりのころは冷淡でいらしたのに、この神女さまが来てから、人が変わったように……蠱惑の術でもお持ちなのかしら?」
すべては、皇帝への愛情の裏返しなのだ。
瑞希だって、大好きなおじいさんに近づく女、もっと言えば神女なんてたいそうなものが現れたら、危機感も抱くだろう。
瑞希はふと息を吐き出す。
紅妃の時は、子供だから様子見したが、雲妃はもう十九。
「雲妃さま、それでは、いまから私とともに白虎さまのところに行きましょう」
「え、え?」
「部屋にこもっているから余計に不安になるのです。雲妃さまは、白虎さまに直接お聞きになったのですか? 雲妃さまを白虎さまが呪っていらっしゃると、直接言われたのですか?」
「なに、を……」
しかし、瑞希はずんずんと白虎宮を歩き出している。
覆面がはらりと落ちて、赤くただれた肌があらわになる。
雲妃が涙をこぼす。
「じゃあ、じゃあ。このただれが呪いでなかったのなら、わたくしの行いが悪かったというの!?」
「いいえ。行いで肌は荒れません。お食事とスキンケア――肌のお手入れで、それは治ります。見るに、脂っこい食事とビタミン、ミネラル不足が原因です」
「な、なにをおっしゃっているのかさっぱり」
そうこうするうちに、二人は白虎の間にたどり着く。
中から息遣いが聞こえる。ぜえはあと、息苦しそうだ。




