4-1、日いずる国の、煎汁と堅魚、味噌汁。発酵食品で免疫向上よ!
四、栄養改革、始めます!
中りも解決して数日。
夜妃、紅妃と仲良くなり、瑞希を含めた三人は、金栄に連れられて市井に繰り出す。
というのは、夏が戻ったがゆえの視察である。
それとあわせて、今日は日いずる国との貿易をするための取引に、王宮外での場が設けられたのだ。
輸入となればある程度交渉の場は限られる。
輸入の陸路のそばに、それぞれに国の輸入官が存在し、いつもなら金栄も輸入官に任せきりであるそれを、今回は大々的に金栄自ら交渉に出向いた。
というのは、瑞希たっての希望である。
「そなた、日いずる国の食材が欲しいと」
「はい、さようです」
夏が戻ったとなれば、夏バテする人も増えるだろう。
それに、残る霊獣は白虎と青龍。
白虎は金で秋、青龍は木で春を現す。
つまり、この二つを回復させる前の今、極端な冬と夏、の季節が巡ることを意味している。
四季が完全に戻っていないとなれば、人々は気温差で不定愁訴を催すだろう。
不定愁訴とは、身体的な異常がないのに、なんとなく体調が悪くなることを指している。
「では、日いずる国の味噌と出汁の昆布と、煮干しと堅魚を」
輸入官が住むのは、後宮顔負けの異人館だった。
後宮ほどでないにしろ、たくさんの国から来た人々が、この世界――今聞いたが、国名を中大国に住まい、自国の貿易承認を迎え入れて、中大国への輸入の交渉をするのだそうだ。
日本では江戸時代には鎖国しているから、日いずる国の貿易が行われていることからも、この時代はそれよりも古い。
とはいえ、国名からするにこの世界は瑞希の知る過去のそれとは違うのでは、と気づくも、国名以外は歴史をそのままなぞっているため、
「やはり、この世界を救うのが、おじいさんを救うこと……!」
瑞希は心を新たに決める。
さて。
異人館につくと、瑞希の予想よりは、『華やか』だった。
後宮のようにいくつもの棟があるのだが、それがまた、様々な様式なのだ。
つまり、国に合わせて、日本家屋、テント、西洋館と、国に合わせた建屋が用意されているのである。
「すごい……建築家を呼んだのかしら」
「ああ、そうだ。この国で暮らしやすいように、各々の国に合わせた家屋を建てさせた」
さながら大使館のうようだなと思う。というよりは、名前こそ異人館なだけで、実質大使館だ。
金栄はだいぶ近代に近い思想の持主らしい。
金栄のうわさはかねがね聞いている。
『冷帝だけれど、政治を取る腕は確かなのだ』と。
冷たかった性格も、いまや鳴りを潜めつつある。
きっと、瑞希の処方がきいたのだ。
「陛下。まずは日いずる国で」
発酵食品が欲しい。それから、出汁も。
昔の人は、確かにアレルギーなどは少なかったと聞く。それは、食生活のたまものだ。
未精製の食糞や発酵食品が身近だった時代、人々は花粉症やアレルギーにはなりづらかった。
とはいえ、現代よりも花粉が少なかったというのもあるのだろうが。
「温暖化の影響とはねえ」
そこで、日本や世界で注目されるのが、発酵食品だ。
つまり、味噌や納豆、ヨーグルト。
中大国にもジャンという形でそれは存在するが、それらはあくまで調味料。味噌汁のように大量には取れない。
それに、ヨーグルトは必須だ。
「まずは日いずる国で交渉か」
「はい。味噌と納豆……納豆はどうでしょうねえ」
納豆を嫌う異国の人間は現代でも多かった。
だとして、やはり納豆はやめておくことにする。
「ようこそいらっしゃいました。皇帝陛下。夜妃さま、紅妃さま。神女さま」
恭しく、四十五度に頭を下げる日いずる国の館長、『信吉』が出迎える。
「信吉どの、久しいな」
「はい。今日はなにをご所望で? ああ、新鮮な魚介が手に入りましたよ」
この世界では魚はあまり食べられない。食べるとしても鯉の生魚の膾くらいで、瑞希はここでいろいろな魚を仕入れるつもりである。
「マグロが欲しいです。あと、秋にはさんまの季節ですし」
「あ、神女さまは日いずる国のお方に見えますが……お美しい」
「や、あの」
金栄がジトっとした目を向けるため、瑞希はいたたまれなくなって話題をそらす。
「できるだけ、新鮮な魚が欲しいです。あと、味噌と出汁も」
「鰹節ですかね?」
「はい、それが欲しいです」
時代的に、鰹節はまだ焙乾してない時代か、あるいはぎりぎり現代と同じ鰹節が登場した時代か。
信吉が持ってきたそれを見て、前者と瑞希は判断した。しかし、まだ焙乾の技術は定着していない。堅魚といったところだった。
「これがあれば、おなかにやさしいあつものができますね」
「これが? あつものに?」
カチカチのそれを見て、しかし信吉もくすりとわ笑う。
堅魚は、本来、海水などで鰹を煮込んで煮詰めた汁の方を調味料として使う。
つまり、煮堅魚がそんざいするならば、その煎汁も存在するということだ。
瑞希は、煎汁を鰹節の代わりに使おうと思ったのだ。
そして、堅魚――煮だした後のカチカチに干したもの、煮魚など、野菜と煮込むと抜群においしい。とは、なにかの文献で読んだ知識だ。
煎汁をもらい、瑞希は金栄に差し出した。
「召し上がってみてください」
「この汁を?」
心底不思議そうにする金栄に続き、夜妃と紅妃も、煎汁を口に入れた。
煮詰めた鰹の汁の、味の深み。
「これはまことに、魚か? 臭みが全くない。深い味わい……」
「はい、これは白湯のもと、のようなものです」
「なるほど、これは何時間も煮込んだのだな?」
金栄が想像したのは、鰹を煮だすものだろう。確かにそれは正解だ。
しかし、瑞希は鼻息荒く、
「この、煮詰めたあとの魚も、煮込み料理にあうのですよ」
「なんと! 出し殻の魚から味が出るのか?」
「はい。煮魚は今日は間に合わないので、先にお味噌汁を見せましょうかね」
信吉も鼻高々である。
使用人に鍋に水を入れ、昆布も入れる。
「昆布……昆布を煮だすのか?」
「はい、昆布は四半刻(三十分)置いたら火にかけ、沸騰寸前に取り出します」
そこに堅魚の煎汁を入れたら、日いずる国の白湯の完成だ。
「これが、白湯ねえ」
金栄は少し、侮っている。
魚で出汁なんて、臭みがあって、まずいと。
しかし、金栄がそれに口をつけると、ホワンと夢見心地な表情に変わる。
「なるほど、日いずる国は海の国。魚が新鮮ゆえ、うまみが凝縮すると。いや、それにしては、煎汁をそのまま味見した時より、格段に美味だな」
「はい。味の相乗効果と言って、うまみを二つかけ合わせると、一足す一が二でもなく、三倍や四倍も美味しくなるのです」
「まあ、神女さまは、またよくわからない言葉を」
味の相乗効果、なんてものは、未来でも日本くらいしか使わない言葉だ。
瑞希は、はは、と笑ってごまかして。さて、次は味噌汁である。
「ここに、味噌を溶くと、さらにおいしくなります」
信吉に合図すると、ねぎを散らした味噌汁の完成だ。
豆腐までご丁寧に入れてある。
「豆腐のあつもの……色が茶色いな」
「はい。ですが、これは日いずる国では定番の汁ものです」
ふうふうと冷まし、豆腐を口に入れる。
「滑らかな豆腐だな」
日いずる国の豆腐は、中大国よりも水気が多い。中大国では極限まで重石をして水を抜くが、日いずる国ではそれがない。
その食感が意外だったようで、紅妃も夜妃も夢中で食べている。
「これ、おいしいです。わたくし、このあつものが毎日飲みたいわ」
「わ、私も! こんなにおいしいあつものは初めて」
味噌がこうもすんなり受け入れられたのは、ひとえに中大国にもジャンが存在するからだ。
東洋の発酵食品同士だから、おのずと受け入れられてもおかしくはない。
問題は。
「では、西洋館に行きましょう」
ヨーグルトを取り入れたいのだ。
ヨーグルトの発酵には、発酵の種となる最初のヨーグルトが必要だ。
つまり、ヨーグルトを牛乳に混ぜて四十度で発酵させると、次のヨーグルトができる。




