↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
19/45

3-8、市井の呪い?違うわね、これは原因があるはずよ!

 急激に気温が上がったことで、農民は上を下への大騒ぎだ。

 水は潤った、土も肥えた。さらに気温が上がり、農作物は豊作だ。


「ああ、困った、困りましたな」


 今日も麒麟宮では、麒麟さまをはじめとする、霊獣たちがおしゃべりをする。


『もう、それは私のだって言ってるでしょう?』

『みー! みー!』

『わたしの供物を取るな、麒麟』


 といった具合で、それはもう騒がしい、いや、かわいらしい。

 兄弟げんかは日常茶飯事で、麒麟宮には夜妃、紅妃、瑞希が集まりお茶を飲むようになっていた。


「紅妃さま、夏バテはもうよろしいですか?」

「ま、まあ。神女さまのお料理のおかげ、と言わなくもないのですけれど。とにかく、今はどんなものも食べられますわ」

「それはよかったです。夜妃さまは、頭痛はいかがです?」

「よくなっているわ。神女さまのすとれっち。あれがよく効きますの」


 麒麟宮の主は金栄であるはずなのに、いつの間にか主が瑞希にすげ変わっている気がする。

 金栄などそっちのけで、女子会と子育てよろしく、ワイワイと今日もにぎやかだ。

 そんな中、内官が山積みの上書を金栄に持ってきたのだった。


「流行り病、だと?」

「はい、陛下。民の間で、不審な発疹が」


 発疹、と聞いて、立ち上がったのは瑞希である。


「中り(アレルギー)ですか?」

「さ、さようでございます、神女さま」


 内官が恭しく瑞希にこうべを垂れた。

 中り、だとしたら、夏ゆえの食中毒だろうか?


「どのような方が?」

「それが……医官も、共通事項も、食物でもないと」

「食べ物ではないのに、中るのですか?」


 症状からして、食物アレルギーか花粉のアレルギーか、なにかの植物にかぶれたか。

 最近、金栄の政のおかげで、民の暮らしは幾分かよくなったと聞いている。


「今年は農作物が豊作だから……なにか、毒植物を誤食した……?」

「おい、声に出ているぞ。妃たちが不安がる」

「申し訳ありません」


 しかし、この流行り病、なにか裏がありそうだ。


「陛下。外出ってできますか?」

「そなた、立場をわきまえろ。神女がそうそう王宮外になど」

『がるる』

『なんでしゅか』

『わたしのお姉ちゃんの言うことが聞けないの?』


 しかし、麒麟と朱雀、玄武の圧に金栄は押し負けた。


「あ、ああ……許可しよう。しかし、条件付きだ」

「条件?」


 それがまさか、こんなことになるなんて。



 金栄は民を思う名君だ。それは最初に会った時にはわからないことだった。

 なにしろ、初めて会った時は冷淡で、しかしそれは、『あれ』が原因だと、断定できそうだと瑞希は思う。


「なぜ、貴族のふりを」

「最近、盗賊が出ているそうでな。輿に乗るにはそれなりの身分は必須」

「し、しかし! こんな! 夫婦のようにふるまう必要はありましたか!?」


 前にも同じようなことがあったというのに、瑞希は料理のこと以外は無頓着だ。

 市井をめおとが通る、「お似合いねえ」「いやあ、若いとはいいものだな」なんて、民に言われる始末。


「だから! 私はおじいさん一筋だとあれほど!」

「はっ、またその話か。老人の妾などどうでもよいではないか。わたしのほうがどんなにか男前」

「いいえ、いいえ。顔は同じでも、おじいさんのほうが男前でした! 断じて!」


 こんな孫ほども年の離れた男の子にだまし討ちされるなんて、自分はなんてのんきな!

 瑞希はばれないようにため息をつく。


「さて、と。まずは、あの家か」


 金栄は知らん顔で話を進める。

 市井に出て、実際に中った家を調査することにしたのだが、いかんせん、みな『隠したがる』。

 つまり、家で『中った』ものが出たとなれば、その家は村八分にされる。なにしろ原因がわからないから、移されたらたまらないと、肉も野菜も買えなくなってしまうのだ。


「あの」

「ひっ、うちは誰も中ってないですよ! 貴族が寄ってたかってなんなんだ!」


 最初の家には、鶏が飼われていた。毎朝卵を産むからと、最近は農民でも鶏を飼うものも増えてきた。

 加えて、軒下には干し肉。


「肉……それ、私も食べていいですか?」

「なん、図々しいにもほどがある!」


 しかし、瑞希が金子を渡すと、案外あっさりと干し肉と交換してくれた。


「そなたまさか、それを食すのか?」

「食べますよ、じゃなきゃ、原因がわかりませんもの」


 がぶ、と豪快に肉にかじりつく瑞希に苦笑しつつ、輿は次の家に向かう。

 猫が家の下で寝ていた。


「本当に、どこから聞いてくるんだか。うちは……確かに中ったよ。でも、私だけで、旦那と子供は中ってない」

「同じものを食べたのに?」

「そうさ。だからね、これは」


 奥さんが、瑞希の耳元に顔を寄せる。


「霊獣の呪いなんだってさ。後宮の青龍さまは病んでいらっしゃる。青龍さまは春で木を司るだろう? だから、村人は木を切り倒して対策しているのさ」


 市井まで霊獣の話が及んでいるとは。


「ありがとうございました」


 何件か回って、中った食材をもらって、瑞希と金栄は王宮へと帰っていく。



「さて。これをどう証明するかなんだわねえ」


 中った食材を片っ端から食べてみたものの、瑞希に異常は出ない。

 金栄も食べると言ってきかなかったのだが、腐っても皇帝に毒味させられるはずがない。


「だったら、私に免疫があるから?」


 でも、食中毒に免疫は関係ない。

 免疫と言えば。


「最近、肉食が増えた」


 朱雀さまが回復したことで、夏が来て作物は豊かに実り、肉を食せるくらいには豊かな暮らしになってきたのだ。

 中には、家畜を買う人間も出てきた。


「家畜……鶏と、あと、猫もいたわね」


 管理栄養士としての知識を総動員する。

 食物アレルギーには、後発的に発症するものが多々存在する。

 先の、スパイスとブタクサの花粉症のように。


「鶏と、猫……あっ!」


 思い出した、鳥を飼育していると、加熱不十分な卵や鶏肉のアレルギーがでる、バード・エッグ症候群。猫を飼育していると起こる、ポークキャット症候群。

 つまり、裕福になったことで、家畜からのアレルギーを発症する人が増えたのだ。

 さらに不運だったのは、


「免疫……日本のように、発酵食品は普及していないし」


 アレルギーなどは免疫を高めることで症状を軽くすることができる。ヨーグルトや味噌、納豆、ごぼうなどだ。


「でも、原因が分かったのだから、なんとかなるわね」


 早速金栄に中り(アレルギー)の原因を伝えて、家畜に近づく際は、面紗で口を覆うこと、肉で中ったひとは、今後肉を避けることを触書として出すのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。