3-7、火を抑える水と、弱める土。朱雀さまには玄武と麒麟!
さて。
料理を膳に載せ、三人で朱雀様のもとへ行く――そのそばには、霊獣の玄武さまと麒麟さまの姿もあった。
「本当に、大丈夫なのだろうな」
金栄が念押しする。
瑞希は「はい」と答えたものの、確証はない。
五行とは、かかわりあって生きている。相生と相剋の関係だ。
そして、火を抑える水の玄武さまと、火を漏らす(よわめる)土の麒麟さま。
どういうめぐりあわせか、運よくこの二つの霊獣さまが、いま、気を回復して瑞希のそばにいる。
朱雀の間に来て、しかし、中から聞こえたのは、朱雀の取り乱す声だった。
『紅! 紅!』
紅妃が中にいるようだ。
慌てて三人と霊獣は、朱雀の間に足を踏み入れる。
ぶわっと熱気が三人を押しだす。
しかし、瑞希は玄武と麒麟を抱き上げると、迷わず朱雀のもとに走った。
『来るな! 早く紅を連れて外へ!』
「大丈夫です! 朱雀さま! こちらに!」
瑞希は玄武と麒麟を、朱雀の大きな足の上に座らせる。
玄武の水、麒麟の土が、朱雀の暑気を抑え込む。
朱雀の間の熱気が、収まっていく。
「紅妃さま!」
「……神女、さま?」
意識はあるようだった。
瑞希は、料理を持つ金栄と夜妃に頼んで、朱雀に供物をささげてもらう。
「朱雀さま、お召し上がりください」
『しかし、わたしが回復したら。また紅が暑さで』
「それはもう、解決済みです。見てください。玄武さまと麒麟さま。三人で一緒にいると、朱雀さまのお力が中和されるのを感じませんか?」
ふと、朱雀は足元の玄武と麒麟を見やる。
ふたつの霊獣のおかげで、部屋のなかが通常の気温に戻ったことを感じ取る。
朱雀の目から、涙がこぼれる。
『ああ。ああ。わたしは、ようやく、供物を食べてもいいのだな』
瑞希が持ってきた供物より先に――朱雀は、紅妃の持ってきた供物、火の気を含む、セロリと香辛料の煮込み料理を口に入れる。
ほろほろと、朱雀の目から涙がこぼれる。それは、炎の形をしていた。
『おいしい、おいしい。紅、見ているか』
「朱雀、さま。召し上がっていらっしゃるのですね」
よろめき立ち上がり、紅妃が朱雀に歩み寄り、その額に頬を寄せた。
供物を食べ終えた朱雀は、見る見るうちに体が縮み――
『うみゅう』
「か、かわい……!」
麒麟よろしく、赤子へと変貌したのだった。
「朱雀さま!?」
「紅妃さま。大丈夫です。供物を召し上がると、どうやら気の回復具合に合わせて、赤子や幼児に姿かたちが変わるようなのです」
ほら、と指さす先の玄武や麒麟を見て、紅妃は、朱雀を抱き上げた。
『わたしは、紅をまもりゅ』
「まあ、朱雀さま……!」
おしゃべりができるということは、人間でいう三歳児くらいだろうか。麒麟様よりは年上だ。
「朱雀さまの火の影響もありますので……朱雀さまを、麒麟宮で預かりたいのですが」
「そんな……! 朱雀宮の霊獣さまを、神女さまに預けろと」
「いや……まあ」
『紅、わたし、紅、傷つけたくない。わたし、力使いこなせるようになったら、ここにかえりゅ』
「ああもう、朱雀さまに言われたら断れませんわ。わかりました。ですが」
ずい、と紅妃が瑞希に詰め寄る。
「こ、こうなりましたら、わたくし、毎日朱やに供物をささげに、麒麟宮に伺いますわよ?」
「あ、ええと。はい、どうぞ」
「陛下は、よろしいですか?」
「む。まあ、麒麟宮は実質、麒麟さまの住まい。わたしの管轄とはいえ後宮に変わりはない。問題はない」
かくして、暑い暑い夏が始まる。
残すところは白虎の雲妃と青龍の桃妃。
どのような妃なのだろうか。




