↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
2/6

1-2、呪い?違います、栄養不足です!しゃぶしゃぶとレモンカスタードと鯉のねぎまで解決しましょう!

 瑞希はその足で厨房を借りて、料理を始める。

 皇帝は土を補うために炭水化物を多めにとっているはずだ。そうすると、体内ではビタミンB1が不足する。

 糖質を代謝するためにビタミンB1は必須だ。また、糖質をエネルギーに変えるにはクエン酸回路を回す必要がある、つまり、クエン酸。手っ取り早く、檸檬などのかんきつが必要なのだ。


「じゃあ、料理人さまたち。手伝ってくださいな」

「なんだ、女が偉そうに」

「まあまあ、そのようなことをおっしゃらず」


 生きてきた時代柄、瑞希には慣れっこな扱いだった。女は料理場には立てない。管理栄養士だって、その地位が認められたのはここ何十年かだ。

 瑞希は、新鮮な豚肉を薄く切ってもらう間に、大根を下す。

 その傍らで、鉄鍋にごま油を熱して薄切りにしたニンニクを入れてチップにする。

 豚肉に含まれるビタミンB1の吸収を助けるのが、ニンニクやネギに含まれるアリシン。ちなみに、ビタミンB1はチアミンと呼ばれる。

 そしてニンニクの学名がアリウム・サティブムで、この二つを組み合わせると、アリチアミン、で、もじってアリナミンができた、という話がある。

 つまり、栄養ドリンクのように元気を出すには、豚しゃぶにニンニクチップを載せるのは理にかなっているのである。

 さらに瑞希は、鯉を串に刺して、ねぎを間に挟んだねぎまを作る。

 ねぎまとは、現代では焼き鳥のことをさすが、本来ねぎまは、ねぎとマグロ、の意味だった。

 しかし、古代中華ではまぐろは一般ではない。さらに、鯉は膾(なます)にして食べる文化があるので、それを応用することにした。

 鯉は泥臭いため、塩を振って出てきた水分をよくふき取り、酢を振って臭み抜きをしてから、串に刺して焼く。

 味付けは焼き鳥のあのこっくりとした照り焼きだ。照り焼きなら、鯉の臭さが和らぐし、食欲も増進する。

 みりんがあればよかったのだが、それらはないため、水あめで代用する。

 じゅう、とねぎまの焼ける音と、なんとも言えない甘辛いにおい。

 鯉のビタミンB1とねぎのアリシンは、先ほどの豚肉に通じる。

 さらに、水炊きを作って檸檬と中華しょうゆで食べてもらうとして、甘いものをとレモンカスタードを用意した。これは、マントウにつけて食べたらおいしいだろう。

 レモンカスタードは作り方はいたって簡単。

 卵黄に片栗粉と薄力粉をすり混ぜたら、人肌に温めて砂糖を溶かした牛乳を加えて混ぜて、濾しながら鍋に戻して火にかけて、もったりしたら最後にレモン汁とレモンの皮のすりおろしを加え混ぜる。

 さらにバターがあったら理想的だったが、なかったので今日はあっさりしたレモンカスタードにした。

 このレモンカスタードは、檸檬パイのフィリングの応用だ。

 クエン酸回路を回さねば、この皇帝の症状は治まらないだろう。

 すべてを見ていた料理人たちが、あっけにとられてなにも言えない。


「まるで呪術だ。何者だ、あの小娘は」

「本当に……あのような食べ物、見たことがないわ」


 女官たちまでもがざわついて、瑞希はさて、料理を皇帝の部屋に運んだ。



 皇帝はけだるげに部屋の卓について瑞希の料理を見た。


「まるで想像もつかない料理だ……このようなもの、食せるはずもない」

「しかし。皇帝? 陛下? には、この『食養生』が必要なのです」

「ほう、食養生」


 食事療法、を中華風に食養生、と表現するだけで、相手の態度が変わるのは瑞希の経験則だ。

 栄養士として独身の頃は病院で栄養指導をしたものだ。

 その中で、やはり女の言うことなど聞かない患者は多く、どうやったらこの知識を伝えられるか、考えた末に、瑞希は相手に寄り添うすべを自然と身に着けた。


「まずかったら、そなたの命はないと思え」

「大丈夫です。おじいさんはその料理が好きでしたから」

「おじいさん?」

「あ、いえ……召し上がれ?」


 そうして、皇帝は最初に豚しゃぶの大根おろしニンニクチップ添えを口に運んだ。

 生の大根は生薬としては食すが、基本的にこの国では野菜は蒸す、煮るなど加熱するのが常だ。

 しかし、なんだこの深みは。


「豚肉の脂っこさを、大根が中和している……ニンニクを揚げることで、風味も増しているな」

「さすがおじいさん、よくわかっていらっしゃる」

「こら! 皇帝陛下になんて口の利き方を!」


 しかし、内官の怒号など気にせず、皇帝は瑞希のことなどそっちのけで、出された食事の箸が進む。


「これは?」

「鯉のねぎまです」

「鯉……全く臭みがないな。それにこの味付け……なんとも腹が減る」

「そうです。メイラード反応、またはアミノカルボニル反応と言って、アミノ酸、つまり肉とカルボニル基、つまり炭水化物。この場合は甘味ですね。それらが反応して茶色くなることで、食欲を増す香りと味が出来上がるのです」

「……? ? そなた、なにかの呪文か?」

「あ、いえ」


 次に皇帝は、マントウにたっぷりのレモンカスタードをつけて食べる。


「酸い……! しかし、甘くてトロリとして、これはマントウにあうな」

「はい。マントウには練乳が定番ですが、檸檬には糖質を代謝する作用があるので」

「なるほど、どれも美味であった」


 ごくり、と皇帝が食後にまた、煎じ薬を飲んでいる。

 先ほど聞いたところによれば、あれは加味逍遙散。イライラに効く薬だ。

 そりゃあそうだ、糖質に偏った食生活では、ビタミンB1もカルシウムも、トリプトファンが含まれる肉も不足する。


「して、そなた。麒麟さまに献上する料理を作ることはできるのか?」

「皇帝陛下!? しかし、このような素性のしれぬものなど」

「黙れ。このものの料理を見たか? やはりこのものが、五行の神女なのだ」


 皇帝は少し冷淡なところがあるように見える。それも、きっと糖質過多な生活のせいだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。