3-5、薬膳、五行、相生と相剋!そうだわ!
久しぶりに、麒麟宮に立ち寄って、瑞希は麒麟さまのお世話にいそしむ。
『みー』
「かわいいねえ。……短命」
思えば、瑞希は八十二まで大きな病気もなく生きてきた。おじいさんだって、七年前に八十二歳で死んだけれど、八十二年も生きられたのなら、本望だっただろう。
でも。
この後宮では、それがかなわない。
紅妃を思う朱雀と、朱雀を思う紅妃。
「なんだ、腑抜けた顔をして」
「陛下……いらしていたのですか」
「麒麟宮はわたしの宮だが?」
「さようですか」
「……そなた、朱雀さまに、『聞いた』な?」
その一言で、瑞希は金栄もすべてを知っているのだと気づく。
麒麟さまを床におろし、立ち上がる。
「なぜ! 紅妃さまだけが短命でなければならないのです!」
紅妃は、火の多い星に生まれただけで、なぜ短命でなければならないのだろうか。
「後宮とはそういうところ。ならば、朱雀宮の妃を廃妃にする手立てを教えようか?」
いやに素直な金栄に、瑞希はその瞳をまっすぐに見据えた。
「そなたが皇后となればいい」
「馬鹿にしないでほしいわ!」
とん、と金栄の胸をたたいた。しかし、金栄はいたって本気である。
「後宮妃では、霊獣の扱いは身に余る。しかし、神女は別だ。神女は、霊獣の気に充てられることはない。つまり、そなた一人いれば、五つの霊獣、すべてを統べることができるゆえに。紅妃も生きながらえるだろう」
そんなこと。
瑞希は歯噛みする。
なにかあるはずだ、なにか。
五行神女とは、木火土金水のそれぞれの霊獣を従える存在。
これらは、現代では薬膳にも通じている。
あいにくと、管理栄養士である瑞希には、それらの知識がごまんとある。
「陛下。私は、私の方法で、霊獣さまも、紅妃さまも、お救いします」
「好きにすればいい。歴代の誰もがなしえなかったことだがな」
「望むところだわ。亀の甲より年の劫、っていうじゃない?」
「はは、その言葉が出るときのそなたときたら、頼もしいったらないな」
しかし、現状、いいアイデアは、浮かんでこない。
それからしばらく、瑞希は麒麟さまと玄武さまのお世話をしながら、夜妃に詳しいことを聞いていた。
「それでは、神女さまも真実をお知りになったのですね」
「夜妃さまもご存じでしたか」
「はい……しかし、朱雀さまとお話しできたのは、よかったかもしれません」
なぜ?と瑞希が問うと、
「朱雀さまと話せた神女は、記録上もごく少数と。後宮妃でさえ。ですが、紅妃さまは、そんな朱雀さまの心を開かせ……やはり、神女さま。わたくしも、神女さまが皇后になる道が最善かと」
『みー。みー』
「あらあら、麒麟ちゃん、まんま? 御トイレ?」
『もう、聞いてられないわね。麒麟、こっちに来なさい』
と、玄武がお姉さん風を吹かせて、麒麟を自身のそばに呼ぶ。
とてとてと、麒麟がおぼつかない足取りで玄武のそばに寄る。
玄武と麒麟がくっつくと、玄武がとて、とその場に転んだ。
『みゃーん』
大泣きする麒麟に、玄武はおろおろしている。
『ごめんってば。そうよね、私とあなたは相剋の関係だから、あなたに近寄ると私の力が弱まっちゃうのよね。びっくりさせたわよね』
薬膳でも、そういう考え方はある。
火を抑えるのは水。また、火を漏らす(よわめる)のは土。
木を抑えるのは金。また、木を漏らすのは火。
土を抑えるのは木。また、土を漏らすのは金。
金を抑えるのは火。また、金を漏らすのは水。
水を抑えるのは土。また、水を漏らすのは木。
薬膳はこの組み合わせで、二味配合や三味配合を組み合わせる。
つまり、火の不調の人間には火の苦みや赤い食材を処方するが、火が抑える金が弱まるので、金を補う白いものや辛いものを組み合わせるのが二味配合の考え方だ。
「ん?」
「どうかしましたか? 神女さま?」
「ああ、そうか。そうなのね。薬膳よ、そうよ!」
幸いそばには、土の麒麟さまと、水の玄武さまがいる。
つまり。
「玄武さま、麒麟さま。朱雀さまを救うために、お力をお借りしたいのですが!」
『みー』
『ま、まあ……瑞希お姉ちゃんのためなら、いいわよ』
かくして、瑞希は朱雀の火の気を回復させる料理を作る。
瑞希の考えが正しければ、この件は、これで解決できる。




