3-4、朱雀は太陽、強すぎる火は妃を殺す
紅妃のもとに瑞希が戻ると、赤かった顔は通常通りに戻っており、食事も半分は平らげていた。
「神女さま。あなたがこの料理を?」
「はい」
「……陛下にお話は伺っていたけれど……ここまでの腕とは」
紅妃のそばには、金栄がいる。紅妃の手を握って、落ち着かせている。
案外、そういう優しいところはおじいさんにそっくりだ。
「ありがとう、おいしくなくもなかったわ」
「まあ、素直じゃなくてかわいい」
「かわいいなんて……! 神女さまは……」
金栄が立ち上がり、瑞希から電解水を受け取る。
金栄はそれを茶杯に注ぎ、紅妃に飲ませる。かいがいしい。
「神女さまは、後宮の妃の中から皇后を選ぶ唯一の主だからって。だからほかの後宮妃さまも、取り入るために必死だったのだと思っていたのに。でも、違うのね。神女さまは、神女にふさわしいお方なのね」
何気に今、重要なことを言われた気がする。
瑞希が金栄に目で問うと顔をそらされてしまった。
「あの、私が皇后を選ぶって、その話はどこから?」
「え? それは……この国の伝統です。ならわしなので。誰もが知っていますよ、この国の人間は」
「ん? え、じゃあ、陛下もご存じで?」
「んんっ、さて。わたしは政務があるゆえ、帰るとするかな」
「え。えええ!? ちょ、待って。陛下!?」
後宮の妃が、妙に瑞希によそよそしかった理由を、ここで初めて知ってしまう。
神女は、霊獣の主。
霊獣をお世話するのは、後宮妃。
だったら、後宮妃を統べるのは、神女。
「ちょっと、陛下!? なんで私にだけ話してくれなかったのですか?」
朱雀宮をあとにする金栄を追いかけて、しかし、金栄は、誰もいない場所までくると、瑞希を振り返り、その手を取った。
「そしてまた、神女も皇后候補であるからだ、と言ったら?」
「ん?」
ふ、と儚く笑われて、瑞希は言葉にできなかった。
「なん、だって、私はおじいさん一筋って」
「まあ、わたしもそなたは選ばぬが。そういう裏があるから、後宮妃は、そなたを無碍にできぬ」
「なぜ……」
「そなたが万が一皇后になったら、後宮妃なんてどうとでもできるからな」
そんな重要な秘密を、後ろ手に言い放つなんて、この皇帝はどうかしている。
「言っておきますが! 私には旦那さまがおり! 旦那さまを助けるためには! 皇帝を助ける必要があるだけなのですからね!?」
それに、歳の差だってあるのだから!
ぷんぷんと怒りながら、瑞希は朱雀宮に帰っていく。
この際、皇帝のことなんて置いておこう。
まずはそう、朱雀の霊獣さまの気を回復させなければ。
「全く。冗談にもほどがあるわ!」
ふい、と朱雀の間へと足を向け、瑞希はずんずんと歩いていく。
朱雀の間の真ん前まで来て、その熱気に充てられる。
「ここに、紅妃さまは、毎日……」
それに、先ほど金栄だって、ここにきて紅妃を助け出した。
命がけだったに違いない。
「薬膳でも、火の気は厄介なのよね」
火は五行の中で最も強い、太陽を現す。
瑞希は、朱雀の霊獣を一番に回復させるべきだったと思い知る。
これだけ強大な力だ、四季の崩れは、おおよそ朱雀の霊獣の影響がほとんどだろう。
「紅妃さまも、よくおもちになったわね」
そうして、瑞希は朱雀の間に足を踏み入れる。
瞬間、拒絶されたかのように炎が噴き出した。しかし、燃えるわけではなく、ただ、『熱い』。
「うっ……見えない……」
朱雀の力が暴走しているのか、部屋は炎で包まれてなにも見えない。
瑞希は手探りで前に進む。
一歩。
『来るな』
二歩。
『帰れ』
三歩。
『来るな!』
しかし、目の前に朱雀がいることに気づき、瑞希は足を止めた。
見上げると、神々しい太陽がそこに、在った。
「朱雀さま。お初にお目にかかります。瑞希と申します」
『知っている。五行神女の、異世界人』
「そこまでご存じで……っ、ならば、私にその『気』を回復させるお料理を、作らせていただけませんか?」
しかし、朱雀から返事はない。
ふ、と炎が消える。
消えたかと思うと、朱雀の姿が、はるか下――手のひらサイズの霊獣となり、瑞希の足元にたたずんでいる。
『わたしは太陽。近づけば、みな死ぬ。今の後宮妃だって……来るなとあれほど言っているのに、わたしがいくら気の弱った霊獣とは言え、近づけば暑気を受けて最後はみな、死ぬ』
朱雀はだから、瑞希を拒んだ。
そして、紅妃のことも、大事に思っている。
「大丈夫です。私が火の料理をささげれば」
『ならぬ! 火が回復すれば、朱雀の後宮妃は……朱雀の後宮妃が短命なのは、わたしのせいだ』
「え……?」
『火に近づきすぎて、その命を削られる。だからもう、わたしにかまうな!』
ぶわ、と火の熱気に押し出されて、瑞希はいつの間にか朱雀の間の外に追い出されていた。
「なん……短命? 紅妃さまは、それを承知で?」
だったら、神女の瑞希に、どうしろというのだろうか。




