↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
12/35

3-1、夏らしくない夏に夏バテする朱雀宮の紅妃

三、朱雀宮の紅妃


 夏だというのに、夏らしい暑さがこない。

 だというのに、朱雀宮の主、紅妃(こうひ)は夏バテに臥せっているのだった。

 瑞希が朱雀宮を訪ねると、ぐったりとした紅妃は椅子に座り、女官にうちわであおがれていた。


「紅妃さま。神女? の瑞希にございます」

「……」

「紅妃さま?」

「聞こえているわよ。ああもう、なんなの、陛下といい、神女と言い。わたくしだけじゃ、朱雀様を助けられないとお思い……で……」


 椅子を立ち上がったかと思えば、そのまま紅妃はへなへなと椅子に座ってしまう。

 立ち眩みを起こしたようだった。

 聞いた話、紅妃は夏バテで食事もままならないのだとか。

 それなのに、毎日朱雀のために供物を作り、ささげているのだから根性だけは大したものである。

 しかし、今までの経験からすると。


「紅妃さま。朱雀様にはなにをお供えで?」

「いくら神女でも、無礼が過ぎるわ。わたくしの料理に文句でも?」


 少しやりにくい子だ。

 後宮妃のかなでも最年少、十五歳と聞いている。

 ちなみに、夜妃は二十一で、皇帝は二十三らしい。どちらも歳下――この体よりも若い。


「ですが、朱雀様には、火の食べ物をささげませんと」

「そんなのわかっているわ!」


 ばしゃ、と菊花茶を瑞希の顔にかけられて、瑞希は面食らった。


「お、女の子なのに、強い……!」


 昔の女は、会社ではお茶くみ、コピーしかやらせてもらえなかった。

 結婚したって、旦那に「おーい」と言われたら、なにを所望するのか察してその場にもっていかねばならない。

 とはいえ、瑞希の夫はそういうことはなかった。


「瑞希、お茶を入れるけれど、瑞希も飲むかい?」

「あなた、お茶は私がやるのに」

「瑞希は俺の姫君だからね」


 そういえば、昔からそんな、よくわからなないことを言っていた気がする。

 あの時から、おじいさんは自分の先祖が皇帝だと知っていたのだろうか。

 だから、死んだあとこの世界に瑞希を飛ばしたのだろうか。


「紅妃さま。夏バテはともかく、食べねば治りませぬゆえ。私に料理を作らせていただけませんか?」


 しかし、紅妃は首を縦には振らなかった。

 そば付きの女官がおろおろしている。


「……今日は帰りますね。それでは」


 食い下がっても無駄だ。こういう子は、食い下がれば食い下がるほど心を閉ざす。

 瑞希は朱雀宮を出て、息を吐き出した。


「思春期、ね。娘を思い出すわ」


 十五と言ったら、まだ子供と大人のはざまの年齢。

 右も左もわからない少女に、説教をするつもりもないし、諭すつもりもない。


「まあ、一応」


 と、向かったのは、朱雀宮の洗濯場だった。



 洗濯の下女を捕まえて、瑞希は紅妃の現状を聞きだす。


「紅妃さまのお好きな食べ物はありますか?」

「紅妃さまの……ああ、でも。朱雀宮の主にふさわしく、火の気がお強く」

「火の気、とは」

「四柱(しちゅう・星読み)です。なんでも、八個ある星の内、七個が火なのだとか」

「ああ。ええと、四柱は確か、薬膳でもあったわ……四柱推命ね。なるほど、ありがとうございます」


 次の女官は、


「冷たいものをお好みです……ここだけの話、朱雀さまは弱っていらっしゃるとは言え、火の霊獣さまなので、朱雀の間で供物をささげた後は、大汗をかいていらっしゃって」

「なるほど……! それで夏バテを……!」


 この国の四季は、霊獣が弱っているためにかってないようなものだった。

 しかし、なぜ紅妃が夏バテを起こしたのかと言えば、朱雀の霊獣が火のように熱いからだ。


「まじめな方、なのね」


 紅妃は、供物をささげ、食べ終わるまでずっとそばにいるのだという。

 そういう責任感から、他者を遠ざけるようになってしまった。

 つまり、努力に見合った結果が出ないのは、自分のせいだ。それを他者に助けてもらうなんて、後宮妃としてあってはならない。そう、考えているのだろう。


「夏バテ、ね。じゃあ、私も腕によりをかけないと……!」


 その足で、金栄に頼んで食材を調達してもらい、瑞希は翌日、厨房に立った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。