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2-4、青梗菜の胡麻汚し、鯉の昆布巻き、おはぎ

 昨今は、四季なんてあってないようなものだった。

 霊獣が弱っているから、暑さも寒さも、まともにめぐっていないのだ。

 それが幸いして、瑞希の所望する作物が折よく収穫できた。

 とはいえ、


「ひゃあああ! おじいさん! むし、むし!」

「どれ、はは、黒豆のさやにいたのか」


 瑞希は意気込んで農作業に移ったものの、いかんせん虫嫌いなため、はかどらない。


「ひいいい! おじいさん! 私の背中に今、なにか動いてます! 取って! 取って!」

「はは、芋虫がいるな、どれ」


 と、金栄は皇帝らしからぬしぐさで芋虫を取って、あろうことかそれを瑞希のほうに見せてくるのだった。


「ややや、やめて! 私本当に虫だけはだめなんです」

「ほう? ああ、そちらにカメムシがいるぞ」

「ひぃっ!」


 そんな感じで、金栄の腕にしがみついて離れない瑞希に気をよくして、金栄は瑞希を存分にからかった。

 というのは、農民を元気づけるための金栄の心遣いだ。


「家族がいたころは、俺もにぎやかだったんですがね」

「そうか。今日はわたしとこのものを、家族と思い、過ごされるがよい」

「はは。そんな高貴な息子など、俺にはいませんがね」

「ははは。言うな、そなた」


 瑞希には悪いが、もう少しだけ、知りたいと思った。

 民の苦しさも、楽しさも。

 金栄は、王宮に縛り付けられている自分こそが不幸な人間で、王宮の外で暮らす民は、みな幸せなのだと思っていた。

 けれど、生きる場所は違えど、人間には大なり小なり悩みはある。幸せのかたちは人それぞれで、金栄は改めて、この国を支え治すために、霊獣の気を回復させねばと誓うのだった。



 ぜえはあと肩で息をしながら、瑞希はその晩、王宮に帰り着くなり厨房に立っていた。


「はは、そなた。力尽きたのなら明日でもよいぞ?」

「いいえ。早いほうが良いと。改めて思いましたので」


 市井の水不足は深刻だった。早く玄武さまを回復させないと。

 瑞希はまず、もち米を炊いた。本来もち米は蒸して作るが、今回はもちもちにしたいため炊くことにした。

 もち米を炊いている間に小豆を炊く。

 小豆を洗ったらたっぷりの水とともに鍋に入れて、沸騰したらに三分茹でてお湯を捨てる。

 新たにたっぷりの水を入れて火にかけて、再び沸騰したらお湯を捨てる。これを渋切りという。この工程は、個々人の好みによる。渋い小豆にしたければ渋切りの回数は控える。

 今回は、この世界の小豆が古代のもののため、しっかり渋切りする。

 そのまま、小豆が柔らかくなるまで茹でたら、水を切って砂糖とともに火にかけて、粒あんにする。


「餡に油は入れぬのか?」

「はい。私の世界では、油は入れません。なので、日持ちします」

「餡とは、油でしっとりしたものが美味であろうに……」


 と、なんとなく気に入らないようなので、瑞希はあんこをひと匙、金栄に味見させる。


「ん……甘い、なるほど、油がないはないで、これはなかなか」

「これもいいでしょう? もたれないので、胃にも優しい。陛下は最近は、おなかの調子はいかがです?」

「腹? ……そういえば、腹は痛くならぬな」

「ならよかったです」

「わたしの呪いは、やはり麒麟さまのものだった、のか?」

「呪い? 腹痛のことですか?」


 青梗菜を茹でてよく絞ったら、醤油をかけてまた絞る。これを醤油洗いといい、和え物を作る際に行う水っぽくならないためのコツである。

 青梗菜は黒ごまに砂糖、しょうゆを混ぜた胡麻汚しにする。


「そうだ。麒麟さまが回復なさったから、腹痛も収まったのだ」

「ああ、まあ……それは違います、とだけ言っておきましょうかね」

「なんだ、含みのある」

「いえ。まだ確証のないものはなにも言えませぬので」


 戻した昆布で臭み抜きした鯉を巻き、楊枝で止めて、昆布の戻し汁、水あめ、酒で煮る。


「昆布巻きは時間がかかるので、陛下は政務に戻ってよろしいですよ」

「いや、いい。玄武さまのことだ。わたしに大いに関係はある」


 そういうまじめなところは好ましい。

 いや、ほだされるな。おじいさんにそっくりだからって、皇帝は皇帝。これ以上踏み込むべきではない。


「昆布が柔らかくなったら醤油を加えてさらに煮込んで。昆布巻きの完成です!」


 おお、と金栄が歓声を上げた。

 胡麻汚しを食べると、あまじょっぱい味付けが癖になる。青梗菜などは、トンポーローの付け合わせにするか、茹でただけとか蒸したものとか、こういった味付けは未経験で、だけれどおいしいと感じるのだから、瑞希の腕は確かなのだ。

 そして昆布巻き。

 この世界にも、鯉を食べる文化はあるが、それらは生の魚を薄くそいで、膾(なます)にするのが主流である。

 甘くこっくりと茶色く煮付けた昆布巻きを口に入れる。


「甘くこくがあり……昆布のうまみと、鯉のうまみ。なるほど、これは美味である」


 最後に、炊けたもち米を半殺しにして――半殺しとは、半分つぶすの意味だ。

 その米で、あんこで包んで、周りにすった黒ごまをまぶせば、おはぎの完成だ。

 ちなみに、粒あんがおはぎで漉し餡がぼた餅だ。


「もち米を……甘味に……?」

「ほら、お団子があるでしょう? それと同じですよ」


 恐る恐る口に入れると、もち米の食感が残り、油を入れないあんことの相性がいい。


「いくつでも食せるな」

「そうでしょう? さて。運び出すとしますかね」


 瑞希はよいしょ、と全を持ち上げる。


「そなたはやはり、面白いものを作る」

「まあ、亀の甲より年の功、ってね」

「いつも思うが、そなたはわたしと同じ年頃だというのに、なんだその、達観した物言いは」

「はあ、いや。まあ、この姿は二十五のものですが。人生経験は八十二はあるますので」

「はあ? そなた、やはり神女とるだけあって、年を取らぬ、のか」

「まあ、そういうことにしておきましょうかね。さあ、玄武さまのところに行きましょう。気に入っていただけたらいいのですが」


 水の気を含む料理をふんだんに使った、瑞希の料理は、玄武の口にあうだろうか。



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