第8話 【サブスクリプション】王宮がゴミ処理に追われている中、私は健康を自動配信する
「セシリア様、ルミナス王宮のバックエンド(財政)が、完全にクラッシュ(破産寸前)した模様です!」
いつものように、私がふかふかのキングサイズベッドでゴロゴロしながら、自動化ゴーレムにいちごのヘタを取らせていた時のことだ。
シリルが、今や彼の専用デスクと化したあばら屋の隅から、嬉々として最新のログを報告してきた。
「前回の『利権ギルド一斉アカウントBAN』により、王宮の全資金が凍結されたため、アルヴィン王太子は現在、文官たちへの給与が払えず、王宮のゴミ捨て場から自力でゴミを搬出しているそうです」
「あら。王族が肉体労働(手動)だなんて、涙ぐましいリテラシーの低さね」
私は、いちごをパクリと口に放り込みながら、空中ウィンドウをスワイプした。
画面の向こうでは、かつて私を無能と罵った元婚約者が、泥にまみれて大きなゴミ袋を運んでいる。
「まあ、王宮のデスマーチはどうでもいいわ。それよりシリル、最近ソラリス村の『健康管理パラメータ』が少し低下してるのよね。季節の変わり目のせいかしら」
「はい。寒暖差により、村人たちの免疫力が低下しているようです。ポーションの需要が上がっていますが、いちいち無人販売所まで買いに来るのが面倒だという声も……」
「買いに来るのが面倒? ナンセンスね」
私はベッドの上で寝返りを打ち、うつ伏せの状態でホログラムキーボードを叩いた。
「体調が悪くなってから薬を買うなんて、後手に回るバグ対応と同じよ。これからは『予防保守(定額配信)』に切り替えるわ。……クエリ指定:『全村人の世帯』。If『毎月1日』の場合、Then『低級ヒールポーションを自動ドローン配送』。料金は『導管決済』から月額300Gを自動引き落とし(定額サブスクリプション)ね」
パチリ、と指を鳴らす。
「はい、世界初の『健康サブスク・プラットフォーム』のデプロイ完了。シリル、運用(配送管理)をお願い」
「は、はいぃぃぃっ! 定額で、病気になる前に、全自動で健康をデリバリーする……!? 医療ギルドの存在意義を根底から覆す、狂気にして至高のビジネスモデル……! 脳が震えます!!」
シリルがまたキーボードを叩きながら奇声を上げている。
――翌朝。ソラリス村。
「うう、なんだか風邪気味で、畑に行くのが辛いな……」
一人の村人が、重い体を引きずってベッドから起き上がろうとした、その時。
コト、と窓辺に小気味いい音が響いた。
窓を開けると、そこには手のひらサイズの小さな『配達ゴーレム』が、一本の輝く緑色のポーションを差し出していた。
『毎月ノ定期配信デス。体調管理パラメータヲ最適化シテクダサイ』
「えっ……? あ、ありがとう……?」
村人がポーションを飲み干すと、一瞬にして体の重みが消え去り、みなぎるような活力が身体を満たした。
「な、なんだこれは!? 風邪が一瞬で治ったぞ! しかも、買いに行ってないのに、向こうから届いただと!?」
広場に出ると、他の村人たちも一斉に空飛ぶミニゴーレムたちからポーションを受け取り、歓喜の声を上げていた。
「月たったの300Gで、毎月自動で健康が届くんだってよ!」
「やっぱりセシリア様は神だ! 働かなくても、セシリア様のシステムの中にいるだけで、俺たちは絶対に病気にならないんだ!」
ソラリス領の全住民が、セシリアの構築した「定額制の楽園」に完全に取り込まれた瞬間だった。
『チャリン♪ 月額サブスク売上、合計 300,000 G が定期入金されました(継続課金モデル成立)』
「よしよし、これで毎月何もしなくても、固定資産(お小遣い)が自動で入ってくるわね」
ベッドの中で、私は満足げに目を閉じた。
一度システムさえ組んでしまえば、私は寝ているだけで、世界が勝手に健康になり、私にお金を運んでくる。
「セシリア様! この『サブスク』というシステム、王都の医療ギルドや他の領地にも横展開すれば、大陸全体の健康(と富)を完全に掌握できますよ! やりましょう、世界征服を全自動で!!」
「シリル、うるさい。音量を30%下げて。……私はこれから、定期の昼寝(バッチ処理)に入るから」
「失礼しました! 最高の睡眠環境を維持するため、只ちに防音魔法の最適化を実行します!!」
シリルの暑苦しい情熱をシャットアウトし、私は高級ベッドの毛布に深く沈み込みながら、不労所得の波に揺られて心地よい眠りへと落ちていくのだった。




