第9話 【囲い込み】王都市民がこぞって辺境のサブスク(月額課金)に乗り換えた件
「セシリア様、信じられない速度でトラフィック(注文数)が爆増しています! ソラリス村限定だった『健康サブスク』の噂を聞きつけた王都市民たちが、非公式にプロキシ(密輸ルート)を経由して、次々と我がプラットフォームにユーザー登録(アカウント作成)を行っています!」
あばら屋の執務スペースで、シリルがディスプレイの狂ったように跳ね上がるグラフを指差しながら、限界オタク特有の早口で報告してきた。
私はといえば、ふかふかのキングサイズベッドの上で、自動化ゴーレムにひんやりとした極上の目元用魔導シートを貼ってもらい、完全にリラックスモードである。
「王都市民がサブスク登録? 王都には王立の医療ギルドがあるでしょうに」
「それが、アルヴィン王太子の失政で魔導インフラが死んだため、医療ギルドの薬草精製釜がすべて停止しているそうです。ポーションの価格は従来の10倍に高騰し、一般市民は風邪ひとつひけないデスマーチ状態だとか」
「あー……。インフラが落ちてるのにまともな医療サービスなんて提供できるわけないわね。あっちの運営、本当に行き当たりばったりだわ」
私は目元シートを剥がし、面倒くさそうに指先ひとつで空中ウィンドウの『アクセス制限』の設定を開いた。
「セシリア様、王都市民からのアクセスは遮断されますか? 密輸ルートの取り締まりはコストがかかりますが……」
「いいえ、ユーザーからわざわざお金を払いたいって言ってるのよ? サーバーを弾くなんて機会損失だわ。王都全域を『サービス対象エリア』へ一括アップデート(拡張)して」
私は寝返りを打ちながら、コードを数行書き換えた。
「クエリ指定:『王都全域の一般家庭』。If『サブスク契約承認』の場合、Then『超音速配送ゴーレム』によるポーション定期デリバリーを許可。料金は王都の銀行口座から『導管決済』で毎月自動引き落とし」
パチリ。
――同刻。ルミナス王国の王都。
「おい、聞いたか? 医療ギルドのポーションを買うのはもう古いらしいぞ」
「ああ、辺境のセシリア様が始めた『サブスク』だろ? 月たったの300Gで、毎月勝手に最高品質のポーションが空から降ってくるんだ」
王都の路地裏では、市民たちが商人ギルドではなく、セシリアの決済端末(魔導スクロール)にこぞって血判(ユーザー同意のサイン)を押していた。
その瞬間、キィィィィン……! と空気を引き裂く音がして、超音速で飛行するミニドローン・ゴーレムが各家庭のベランダにピタリと着陸。驚異的な正確さでポーションをデプロイ(納品)していく。
「本当だ……! 買いに行く手間も、ギルドの行列に並ぶ無駄な時間も一切ない!」
「医療ギルドのボッタクリ薬なんて誰が買うかよ! これからはセシリア様のサブスク一択だ!」
王都市民の実に6割以上が、一晩のうちに王国の医療インフラを捨て、辺境から配信される「定額制の健康」へと乗り換えてしまった。
――翌日。王宮・玉座の間。
「報告します……! 本日の医療ギルドの売上が、前日比で92%減少いたしました……!」
「な、何だと……っ!?」
ボロボロの作業着を着て、ゴミ処理の臭いを漂わせたアルヴィン王太子は、文官の報告に絶叫した。
ただでさえ資金が凍結されて財政破綻寸前なのに、国の主要財源である医療ギルドの税収までが消え失せたのだ。
「市民どもはどこで薬を手に入れているのだ!」
「それが……追放されたセシリア様が辺境ソラリスから提供している『さぶすくりぷしょん』という定額サービスに、市民がこぞって囲い込まれておりまして……。王都の富が、毎秒単位で辺境へ流出しています……!」
「セ、セシリアだと……!? あの無能女が、辺境から一歩も動かずに我が国の経済を干上がらせているというのか……っ!?」
アルヴィンは、目に見えない「システム」という名のバケモノに国を侵食されていく恐怖に、ただただガタガタと震えるしかなかった。
『チャリン♪ 月額サブスク売上、合計 18,000,000 G が入金されました』
「よしよし。これで寝てても入ってくる不労所得がさらに増えたわね」
辺境のあばら屋。
ベッドの上で、私は口座の残高が国家予算レベルの速度でチャリンチャリンと増えていく音をBGMに、満足げに微笑んだ。
私は王都へ一歩も行っていないし、誰とも交渉していない。ただ、便利なシステムをデプロイしただけだ。
「セシリア様……! 王都の医療利権をベッドの上から指一本でディスラプト(破壊)し、市民を完全に従属させる定額課金の魔術……! あなたはやはり、冷酷で至高のシステム統括者(CEO)です!!」
「シリル、うるさい。褒めるリソースがあるなら、王都のサーバー負荷をチェックしておいて。私はこれから、定期メンテナンス(5時間の昼寝)に入るから」
「ハッ! 最高のダークモード環境を維持し、ログの監視を継続します!!」
シリルの忠誠心(熱狂)を適当にスルーしながら、私はふかふかの高級枕に頭を沈め、世界経済を全自動で掌握していく心地よさに包まれながら、深い眠りへと落ちていくのだった。




