第10話 【ファイアウォール】物理的なサーバー襲撃(騎士団)が来たので、バグとして処理してみた
「セシリア様、お休み中のところ恐縮です。我が本拠地(あばら屋)に対し、王都からアルヴィン王太子直属の『精鋭鉄華騎士団』、約300名が急速に接近中! 物理的な外部アクセス(一斉襲撃)を仕掛けてきました!」
シリルがいつものように、危機的状況のはずなのに目が血走った狂喜の笑顔で、私のベッドサイドへ飛び込んできた。
空中ウィンドウを開くと、鋼の鎧に身を包んだ騎士たちが、抜剣してこちらの小屋へと殺到してくるのが見える。
『無能のセシリアめ! 貴様の不届きなシステムが王国の財政を脅かしている! 根源たるそのあばら屋ごと、物理的に叩き潰してくれるわ!』
先頭で叫んでいるのは、王太子の腰巾着の騎士団長だ。
「はぁ……。あいつら、市場競争で勝てないからって、今度はソースコード(物理拠点)の直接破壊に来たのね。本当に脳のメモリが足りてないわ」
私はふかふかのキングサイズベッドの上で、自動化ゴーレムに冷たいハーブティーをストローで口元まで運んでもらいながら、人差し指だけでホログラムキーボードを叩いた。
「セシリア様、いかがいたしますか!? 我が方の『自動化ゴーレム軍』に迎撃戦闘コードをパッチ適用し、肉片ひとつ残さずデリート(殲滅)させますか!?」
「シリル、だから戦闘(肉体労働)はコストの無駄だって言ってるでしょう。血が流れたら床の掃除タスクが増えるじゃない。……システムに入り込んできた『不正パケット(バグ)』は、システム的に処理(隔離)するに限るわ」
私は、この領地の境界線に仕込んでおいた防衛用魔法陣のソースコードを展開した。
「セキュリティ・プロトコル、バージョン2.0を起動。クエリ指定:『許可なき武装オブジェクト(騎士団)』。If『我が領地への侵入』の場合、Then『マナ・フィードバック(空間バグ)』を強制実行し、座標を無限ループ処理(隔離)して」
パチリ。
――ソラリス領、あばら屋まであと一歩の荒野。
「突撃ィィィ! あの令嬢を捕らえ、全財産を没収するの……だ……? む?」
騎士団長が声を張り上げた瞬間、奇妙な現象が起きた。
世界が一瞬、テレビの砂嵐のように「グリッチ(バグ)」を起こしてブレたのだ。
気がつくと、彼らはあばら屋のすぐ手前にいたはずなのに、なぜか数キロ手前の「領地の入り口」まで一瞬で引き戻されていた。
「な、なんだ!? 空間が転移したのか!? ええい、構わん、もう一度突撃だ!」
地響きを立てて再びあばら屋へ向かって走り出す騎士団。
しかし、あと一歩で小屋に届くというその瞬間、空間がパパパンッ!と音を立てて再びバグる(マナ・フィードバック)。
「……は? なぜまた領地の入り口に戻っているんだ!?」
何度走っても、どれだけ馬を駆っても、あばら屋の手前で空間が強制終了し、初期位置へとリダイレクト(強制転送)される。
物理的な攻撃が一切届かない、完璧な「無限ループ・ファイアウォール」。
「ば、化け物め……! 攻撃が当たるどころか、近づくことすらできん!」
「団長! 終わりません! 走っても走っても、入り口に戻されます! 助けてくれ、無限ロード地獄だああっ!!」
血を流すこともなく、ただひたすらに「同じ場所を走り続けさせられる」という精神的恐怖。精鋭騎士団は、一歩もセシリアに近づけないまま、過呼吸で一人、また一人と泡を吹いて倒れていくのだった。
『通知:不正アクセス(騎士団)を検知。300個のパケットを永久隔離しました』
『通知:敵が落とした高級鋼の武器防具300個を、自動回収(スクラップ資産化)しました』
「よしよし。これでまたゴーレムの原材料がタダで手に入ったわね」
ベッドの上でゴロゴロしながら通知を確認した私は、ハーブティーを飲み干した。
私は指一本しか動かしていないし、声すら発していない。敵は勝手に仕様にハマって自滅した。これぞ完全無人防衛システムである。
「セシリア様……っ! 武力による襲撃を、戦闘すら行わずに『空間の無限ループ』というバグ技で完封し、さらに装備を無料のアセット(素材)として自動回収するなんて……! ああ、あなたのセキュリティ構築能力は、神の領域すらハッキングしています!!」
シリルが壁を叩きながら、感動のあまり白目を剥いて悶絶している。
「シリル、うるさい。ダークモードを維持したまま、騎士団が落とした鉄クズの仕分けタスクを回しておいて。……私はこれから、防衛成功を記念して10時間の定期シャットダウン(爆睡)に入るから」
「ハッ! 最高の睡眠環境を完全保守いたします!!」
王宮の精鋭を文字通り「バグ処理」した私は、手に入れた素材で次は何を自動化しようかと考えつつ、極上の掛け布団に包まれて、再び深い深い微睡みの中へと沈んでいくのだった。




