第11話 【経済制裁】王国が関税を引き上げてきたので、独自の電子マネーで経済圏を隔離してみた
「セシリア様、王宮のアルヴィン王太子から、我がソラリス領に対する『経済包囲網(アクセス遮断)』の布告が出されました! ソラリス発の全商品に対し、一律1000%の関税を課し、さらに王国通貨の流通を物理的に差し押さえるとのことです!」
シリルがいつものように、国家存亡の危機のはずなのに興奮で声を上ずらせながら報告してきた。
空中ウィンドウを開くと、王宮の文官たちが血眼になって「辺境の不届きな商品をボイコットせよ!」と王都の市場で触れ回っている姿が映し出されている。
「はぁ……。武力がダメなら次は経済ブロック(関税引き上げ)ね。でも、あいつら致命的な勘違いをしてるわ」
私はふかふかのソファに横たわり、自動化ゴーレムに冷えたぶどうの皮を剥かせながら、退屈そうに指先でホログラムキーボードを叩いた。
「セシリア様、いかがいたしますか!? 王国通貨の流入が止まると、一時的にキャッシュフロー(資金繰り)が滞る恐れがありますが……」
「シリル、中央集権的な国家通貨にしがみついてるからそうなるのよ。あんな不便な硬貨、持ち運ぶのも管理するのもコストの無駄だわ。王国が決済を拒否するなら、こっちで新しい決済プロトコル(独自の経済圏)を完全解禁するまでよ」
私は、以前から仕込んでおいた古代魔法のインフラを起動した。
「導管決済のアカウントを、ソラリス領およびサブスク契約中の王都市民へ完全強制適用。これより、我がプラットフォーム内の取引はすべて新デジタル通貨『ソラリス・マナ(SM)』のみの受け付けとします。ルミナス・ゴールドとの互換性を遮断(ペッグ引き離し)して」
パチリ。
――同刻。王都の市場。
「ふははは! 見ろ、これが王太子の知略だ! 辺境のポーションに関税を1000%課してやったぞ! これで誰もあんなサブスクなど――」
物流ギルドの役人が勝ち誇ったように叫んだ、その瞬間。
王都市民たちの手元にある決済端末(魔導スクロール)が一斉に青く輝いた。
『通知:ルミナス・ゴールドの取り扱いを終了しました。これより当プラットフォームは電子マネー「導管決済」のみで稼働します。なお、王都市民の皆様には一律10,000SMをエアドロップ(無料配布)しました』
「な……なんだって!? 買い出しに行かなくても、手元の端末の中に『デジタルのお金』が勝手に振り込まれたぞ!?」
「しかも、このお金を使えば、関税なんて一切無視して、今まで通りの値段でポーションも白いパンも空から届く!」
セシリアの『導管決済』は、物理的な国境や関税のチェックポイント(検問所)を完全にバイパス(迂回)して、空中ドローンで直接ユーザーへ届くシステムだ。
国がどれだけ「関税を払え」と言おうが、システム上での取引(SM決済)には一切介入できない。
「おい、だったらもう王国の硬貨なんていらないじゃないか!」
「価値が暴落していくゴールドより、いつでも美味しいものや薬が買える『ソラリス・マナ』の方が信頼できるぞ!」
王都市民たちはこぞって王国の鋳造貨幣をゴミのように投げ捨て、目に見えない電子マネーでの経済生活へと完全移行してしまった。
――翌日。王宮・財政部。
「アルヴィン殿下! 大変です! 我が国の通貨『ルミナス・ゴールド』の価値が、昨日の一晩で紙クズ同然にまで大暴落いたしました……!」
「な、何だと……っ!? 関税をかけて、我が国の財政を立て直すはずではなかったのか!?」
アルヴィン王太子は、空っぽになった国庫の金庫の中で、ガタガタと震えながら絶叫した。
市場から国家通貨の信用が完全に失われ、今や王宮の発行するお金では、小麦粉一袋すら買えなくなってしまったのだ。国を包囲したつもりが、自分たちの経済が完全に内側から隔離されてしまった。
「市民どもは誰も我が国の通貨を使っておりません! 全員がセシリア様の『どうかんけっさい』で生活しています! 我々がいくら関税を課そうとしても、取引のデータすら捕捉できないのです……!」
「セ、セシリア……! お前はどこまで俺を、この国をコケにすれば気が済むんだァァァッ!!」
アルヴィンは、目に見えない「デジタル経済」という名のチートの前に、自国の崩壊をただ眺めることしかできなかった。
『チャリン♪ 導管決済の月間アクティブユーザー数が100万人を突破しました』
『通知:ルミナス王国の経済支配率が70%に達しました』
辺境のあばら屋。
ソファの上で、私は口座の新しい仮想通貨の残高が天文学的な数字になっていくのを見ながら、満足げに紅茶を啜った。
私は王都へ一歩も行っていないし、演説すらしていない。ただ、便利な電子マネーのインフラをデプロイしただけだ。
「セシリア様……っ! 国家の特権である『通貨発行権』をベッドの上からハッキングし、一瞬にして王国通貨を紙クズに変える経済工学の魔術……! あなたは冷酷にして至高の、異世界中央銀行(総裁)です!!」
シリルが床に頭を打ち付けながら、感動のあまり涙を流して悶絶している。
「シリル、うるさい。褒めるリソースがあるなら、サーバーの決済ログの監視を続けて。……私はこれから、経済戦の勝利を記念して、12時間のバッチ処理(深い昼寝)に入るから」
「ハッ! 仮想通貨の相場を完璧に維持しつつ、最高の睡眠環境を完全保守いたします!!」
王国の経済を文字通り「システム隔離」した私は、次のお取り寄せでどんな高級家具を買おうかと考えつつ、ふかふかのクッションに顔を埋めて、再び幸せな微睡みの中へと沈んでいくのだった。




