第6話 【バックエンド】王都の物流が死にかけている中辺境はドローン(物理)で空を飛ぶ
「セシリア様、大変です! 悪徳商人たちの口コミ(パケット)により、我がソラリスの無人販売所の噂が爆発的に拡散しています。隣領だけでなく、遠方の商隊までがこぞって押し寄せ、サーバー……いえ、販売所の処理能力が限界を迎えつつあります!」
「あー、やっぱり? 物理的な窓口を一つに絞ると、アクセス集中(大渋滞)でサーバーダウンするのよね。……よし、じゃあアーキテクチャの根本的な見直し(スケーリング)をしましょう」
私はキングサイズベッドの上で、自動化ゴーレムにいちごのタルトを口元まで運んでもらいながら、指先で空中に新たなシステム構成図を描いていった。
これまでは村の入り口に買いに来てもらっていたが、それでは効率が悪い。
買いに来させるのではない。こちらから非対面で『プッシュ通知(配送)』すればいいのだ。
「物流の自動化コードをアップデート。If『注文の確定』の場合、Then『空飛ぶコンテナ・ゴーレム(ドローン仕様)』を出撃させ、指定座標へダイレクト納品」
パチリ。
――同刻。王都ルミナス王国・中央物流ギルド。
「報告します! 王太子殿下の増税と書類決裁の遅延により、街道の馬車がすべてストップ! 王都へ運び込まれるはずの食料や魔石が、完全に途絶えました!」
ギルド長の悲鳴のような報告に、応援(という名の監視)にやってきていたアルヴィン王太子は、書類の山に埋もれながら顔を真っ青にしていた。
「バカな……! 馬車がダメなら、人力でも何でも使って運ばせんか! このままでは王宮の晩餐会の食材すら底を突くぞ!」
「無理です! 現場の労働者たちは、不眠不休のデスマーチに耐えかねて全員ボイコット(ストライキ)を起こしています! ああ、かつてセシリア様が裏で回してくださっていた『自動ルート最適化魔法』さえあれば、こんなことには……!」
「あ、あの無能女の名前を出すな! あいつは辺境の荒野で飢え死にしているはずだ!」
アルヴィンが机を叩いて荒れ狂った、その時だった。
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン……!!
王都の上空から、不気味な風切り音が鳴り響いた。
アルヴィンやギルド長が慌てて窓の外を見上げると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「な……なんだ、あの鳥の化け物は……!? いや、違う、あれは……コンテナだ! 物流コンテナが空を飛んでいるぞ!?」
雲を突き抜けて飛来したのは、背中に巨大なプロペラ(魔力翼)を生やした、箱型の『自動化ゴーレム』たちの超巨大編隊だった。
その数、数百、数千。
彼らは王都のストライキなどどこ吹く風で、規則正しいグリッド飛行を維持しながら、王都市民や大手商会の庭先へと次々と急降下していく。
ドスン! ドスン! と、正確無比な着陸。
コンテナのハッチが自動で開き、中からソラリス領特産の新鮮な野菜や高品質な太陽草が、注文主の元へ寸分の狂いもなく届けられていく。
『決済完了。毎度ありがとうございます(音声合成魔法)』
ピコーンと機械的な音を鳴らすと、空飛ぶコンテナたちは再び驚異的なスピードで辺境の空へと去っていった。
人手不足、物流停滞、物価高騰――王都を苦しめるすべての「バグ」を、上空から完全無視して通り過ぎる圧倒的なテクノロジー。
「な、なんだあの物流網は……! 王国のギルドを完全にバイパス(迂回)している……! 誰が、一体誰がこんな真似を……っ!?」
アルヴィンは、その空を埋め尽くす全自動の光景に、ただただ恐怖で震えることしかできなかった。
『チャリン♪ 口座に 5,000,000 G が振り込まれました』
『通知:王都の物流シェアの40%を掌握しました』
辺境のあばら屋。
ベッドの上でホログラムの売上グラフが垂直に立ち上がっているのを見て、私は満足げに紅茶を啜った。
「よしよし、空中ドローン配送(物理)は大成功ね。これで王都までお買い物に行かなくても、欲しいものが全部秒速で部屋に届くわ」
「セシリア様! 王都の既存ギルドを文字通り『上空から踏み潰す』プラットフォーム掌握劇……! 脳の処理が追いつきません、美しすぎます!!」
隣でシリルがまた狂ったように帳簿を叩いて歓喜している。
「うるさいわよシリル。画面の輝度(明るさ)を下げて。目がチカチカして寝られないから」
「ハッ! 只ちにダークモードに移行します!!」
王国の経済崩壊を完全に他人事として眺めながら、私は快適になったベッドの敷布に包まり、幸せな三度寝へと突入するのだった。




