第5話 【無人販売】完全自動の物販プラットフォームを構築したら、隣領の商人が泡を吹いた件
「セシリア様! ソラリス村のネットワーク稼働率、依然として100%を維持! さらに、村人たちが自動化ゴーレムの『If文』を理解し始め、簡単な農作業ルーティンを自分たちでバッチ処理(一括設定)し始めました!」
「へえ、なじむのが早くて助かるわね。オープンソースにして正解だったわ」
私はふかふかのキングサイズベッドの上で、自動化ゴーレムが絶妙な力加減で揉んでくれる足マッサージに身を委ねていた。
村全体のインフラを最適化した結果、我が家の周囲は静まり返り、理想的な引きこもり環境が完成した。
しかし、システムというものは拡大を好む生き物だ。
ソラリス村が「全自動で超高品質な農産物・薬草を大量生産するチート拠点」に変貌した噂は、あっという間に隣の領地へと漏れ出していた。
「セシリア様、ファイアウォールに不審なアクセス(物理)です。隣領の悪徳商人ギルドが、我が領の特産品を安値で買い叩こうと、交渉人という名のゴロツキを送り込んできました」
シリルが空中ウィンドウを開き、不敵な笑みを浮かべる。
画面には、ソラリス村の境界線で「おい! この村の太陽草を全部よこせ!」と門番ゴーレムに凄んでいる、いかにもな悪徳商人の姿が映っていた。
「交渉なんて対面でするの、コストの無駄ね。パケットの無駄遣いだわ」
私はマッサージを受けながら、手元のホログラムキーボードを叩く。
「対面プロセスを全廃。村の入り口に『自動対外トレード・サーバー(無人販売所)』を設置。価格設定は王都のリアルタイム相場から10%のアドバンテージを上乗せした動的価格に設定。……はい、デプロイ」
パチリ。
ソラリス村の境界線。
凄んでいた悪徳商人たちの目の前で、地面から巨大な石造りの建造物がヌッと出現した。
それは、窓口も店員もいない、不気味なほど洗練された『無人販売所』だった。
「な、なんだこれは……!?」
商人が驚いていると、建造物の表面に魔力の文字が浮かび上がる。
『Welcome。購入希望の商品をスロットに選択してください。現時刻の太陽草のレートは1本2,000Gです。なお、現金の直接投入、または「導管決済」のみ受け付けます。値切り交渉のパケットは自動破棄されます』
「ふ、ふざけるな! 1本2,000Gだと!? いつもは300Gで買い叩いて――」
商人が建物の扉を無理やりこじ開けようとした、その瞬間。
建物の防衛セキュリティ(If文)が作動した。
『Warning:規約違反(不正アクセス)を検知。「契約の鎖」を起動します』
バチィィィンッ!!
空間から飛び出した半透明の魔力の鎖が、悪徳商人の体を瞬時に縛り上げる。物理的なダメージはないが、規約に同意して代金を支払うまで、一歩も動けなくなる呪いのパックだ。
「ぎゃあああ!? 動けん! なんだこの魔法は!?」
「だ、旦那! 諦めて表示されてる金額を払うしかありません!」
商人は泣く泣く、手持ちのゴールドを無人販売所のスロットへと放り込んだ。
チャリン、と音が鳴ると同時に鎖が解け、完璧に梱包された最高品質の太陽草が、コンベアからスルスルと流れてくる。
「ひ、人手を一切介さずに、適正価格での決済とセキュリティ防衛を同時にこなすだと……!? どんなバケモノがこのシステムを組んだんだ……!」
悪徳商人は、その圧倒的な効率の前に、恐怖で泡を吹いて気絶するのだった。
『チャリン♪ 臨時収入 200,000 G が入金されました』
「よし、動的価格システムもバグなしで稼働してるわね」
ベッドの上で通知を受け取った私は、満足して寝返りを打った。
隣領の商人がどれだけ脅しをかけようが、私の組んだシステム(物理規約)の前には無力だ。私は一歩も動かず、声すら発していない。
「セシリア様……! 悪徳商人を一言も交わさずに完全自動でカツアゲ……いや、合法的に市場価格で決済させるなんて! 経済工学の極致です! 僕は一生あなたについていきます!」
「うるさいわよシリル、バグの監視に戻りなさい」
シリルの暑苦しい熱狂を適当にあしらいながら、私は次の二度寝のスケジュールを脳内で構築し始めるのだった。




