第41話 【永久機関の運用開始】物語を永久サブスク化したので、保守点検(メンテナンス)という名目でさらにダラダラしてみた
「セ、セセセ、セシリア様ぁぁぁっ! 物語の完結プログラムを『永久連載サブスク』に再定義してから一週間が経過しました! システムは極めて安定しており、全次元・全宇宙のインフラは1ミリの遅延もなく稼働し続けています! しかし、あまりに平和すぎて、私のシステム監視ログに『やることがない(暇)』という深刻なアラートが出ています!」
中央サーバー神殿の最奥。
システム統括補佐のシリルが、全宇宙が完璧に自動化されすぎて、もはや監視すべきバグすら存在しないディスプレイを呆然と見つめながら、やるせなさに床を転げ回っている。
空中ウィンドウを開くと、かつて宇宙を滅ぼそうとしていた神々も、苦難に満ちていた主人公たちも、今や全員が「セシリア様のリラックスした日常」をモデルケースとして、ただひたすらに二度寝やティータイムを極める幸福なモブキャラへと最適化されていた。
『システムアナウンス:物語の運用フェーズは「開発・実装期」から「保守・メンテナンス期」へ移行しました。マスターの怠惰指数、過去最高値を更新中』
「……ふあぁ。シリル、監視ログが真っ青で平和なのは良いことじゃない。物語が永久サブスク化して、読者の皆様が応援(課金)を続けてくれる限り、私たちは無理に事件を起こしてカロリーを消費する必要なんてないのよ。引きこもりの真の完成形はね、システムが完成しきった後、ただその完璧な『平和』を運用し続けるだけの、静かで贅沢なルーチンワークのことよ」
私は幻の魔導天糸の最高級毛布に深く深く包まり、自動化ゴーレムに冷やした『特製マナ・ブルーベリーの極上ムース』を、一番心地よい角度で口元まで運んでもらいながら、とろとろの眠気眼のまま、人差し指だけでホログラムキーボードを叩いた。
「セ、セシリア様……しかし、このままでは私は、ただディスプレイを眺めるだけの置物になってしまいます! 何か、この完璧なシステムのどこかに、わざとバグを仕込んで、それをデバッグするような刺激的なイベントは……!」
「シリル、だからその『退屈だから刺激を求める』という人間の悪い癖(レガシーな思考)を、システムに持ち込まないで。私にとって最高の刺激は、このベッドの『掛け布団の温かさが毎秒0.001度変化する心地よさ』なの。完璧なシステムにバグを仕込むなんて、自分で自分の靴の中に小石を入れるようなものよ。……そうね、どうしても何か保守点検したいなら、全宇宙の『睡眠の質』を0.0001%向上させるための、全自動調整マクロ(メンテナンス)をデプロイしておいて」
私は、全宇宙のベッドの弾力、枕の高さ、毛布の湿度を、セシリアの今の気分に合わせてリアルタイムで最適化する「全宇宙寝具最適化プロトコル」をデプロイした。
「仕様変更(パッチ適用):『全宇宙寝具最適化マクロ』の稼働開始。If『宇宙のどこかで誰かが寝返りを打つ』場合、Then『その姿勢に合わせて、その個人のマットレスを最高の弾力に、毛布を最高の温度に即座にエミュレート』して。……もちろん、そのメンテナンスのたびに発生する『快適さの差分』は、私のベッドルームへの『寝心地の献金(不労所得)』として自動ルーティングね」
パチリ。
---
――その瞬間、全宇宙の寝室から、幸せそうな寝息が次々と漏れ始めた。
『運用開始:全宇宙寝具メンテナンス・プロトコルが稼働しました。全生命体の睡眠の質が神域へと到達し、その「快適さの還元」がマスターのベッドへと集中します』
次の瞬間、宇宙の果ての住人たちも、昨日まで戦っていた英雄たちも、みんな一斉に「……あぁ、この枕、なんだか異常に首にフィットする……幸せ……」と呟きながら、深い眠りへと落ちていく。
その全宇宙から集められた「快適の極み」という名のデータパケットが、光の奔流となってセシリアのベッドルームへと流れ込み、私の掛け布団がさらに羽毛のように軽く、かつ金剛石のように頑丈な、まさに「神の寝具」へと進化を遂げた。
「な……何ということだ……っ! システムを保守するための『メンテナンス』という名目で、全宇宙の寝心地を最適化し、その恩恵をまたご自身の『寝具のアップグレード』に変えてしまったというのか……っ!?」
時空の果てで、システムの暇つぶしを期待していた神々が、セシリアの圧倒的な「寝心地の永久運用チート」の前に戦慄し、「あいつ、世界をただの巨大な寝具工場にしやがった……!」と呆れ果てながらログアウト(強制終了)していった。
---
『チャリン♪ 全宇宙の寝具のアップグレード(メンテナンス)に成功しました。全宇宙から「今夜はよく眠れた」という感謝の念(不労所得)が自動入金されています』
『通知:睡眠の質が神域に達したため、ベッドに寝ているだけで毎秒「賢者の石(マナの結晶)」が自動生成され、ベッドの資産価値がまた1兆円上昇しました』
中央サーバー神殿の最奥。
平和な運用そのものが、私の睡眠環境を保守するための「全自動メンテナンス」と化した贅沢さに、「ふにゃあ……」と声を漏らしながら、私は満足げに目を閉じた。
私はシステムを直すために一歩も動いていないし、改良もしていない。ただ、暇を持て余した保守点検を、全宇宙を巻き込んだ「寝心地の最適化」という名のルーチンに変えただけだ。
退屈すらベッドの上から秒速で自社サービス(SaaS)に変えた私は、全宇宙が私を快適に寝かせるために働いているという至福の現実を感じつつ、完結も終わりもない、終わらない極上のメンテナンスタイム(という名の二度寝)へと、幸せに深く沈んでいくのだった――。




