第3話 【狂喜乱舞】天才会計士、全自動の楽園でバグる
王都から馬車を乗り継ぎ、不毛の地と呼ばれる辺境ソラリスへ辿り着いたシリルは、自身の目を疑っていた。
「……な、なんだこれは……。僕は幻覚を見ているのか?」
彼の目の前にあるのは、風が吹けば飛びそうなボロいあばら屋だ。
しかし、その周囲の光景があまりにも異常だった。
数百体の泥人形たちが、一糸乱れぬ統率された動きで、荒野から次々と『太陽草』を運び込んでいる。
あるゴーレムが草の泥を落とし、次のゴーレムがサイズごとに仕分け、さらに次のゴーレムが木箱へ梱包する。
そして仕上げに、一際大きなゴーレムが、木箱を庭の魔法陣へと放り投げていた。木箱は光となって空へと消えていく。
無駄な動きが、1フレームたりとも存在しない。
人件費ゼロ、休憩ゼロ、感情のブレによるミスもゼロ。
完璧に最適化された、狂気的なまでの「全自動物流ライン」がそこにはあった。
「素晴らしい……! 美しすぎる……! これこそが、あの圧倒的な納品量を支えるシステムの正体か……!」
シリルは会計士としての本能を刺激され、全身に鳥肌が立つのを感じた。
感動のあまり震える手で、あばら屋のボロい扉を押し開ける。
「失礼する! この恐るべき商流を構築した偉大な天才はどなただ――」
勢いよく踏み込んだシリルの視界に飛び込んできたのは、最高級のふかふかソファ。
そして、そこに寝そべりながら、お菓子の乗った皿を片手に、空中でお城の形をした立体ホログラムをいじっている美少女の姿だった。
「……え?」
「あら。アポなしの訪問者なんて珍しいわね。うちのセキュリティ(ファイアウォール)、ガバガバだったかしら」
少女――セシリアは、面倒くさそうに上半身だけを起こし、紅茶を一口啜った。
汗一つかいていない。ドレスも髪も信じられないほど綺麗だ。辺境の過酷なサバイバル生活など、ここには微塵も存在しなかった。
「あ、あなた様は……ルミナス王国の第一王女……ではなく、先日追放されたはずのセシリア公爵令嬢……!?」
「そうよ。今はただの無職。ご覧の通り、フルリモートで引きこもりライフを満喫中だから、お引取りを」
「まさか、外のあの完璧なシステムは、あなたが……!?」
シリルが叫ぶと、セシリアは「大げさね」とパチリと指を鳴らした。
すると、シリルの目の前に半透明のウィンドウがポップアップする。
そこには、ルミナス王国の全人口、物資の流通経路、そして毎秒チャリンチャリンと爆増していくセシリアの個人口座の残高が、完璧なグラフと「If文」のソースコードで表示されていた。
「ただの自動化よ。いちいち自分で動くの面倒じゃない。魔石をハードウェアにして、魔法陣のコードを並列処理させてるだけ。決済は『導管決済』のAPIを直接叩いてるわ」
「……ッ!!」
シリルの頭の中で、すべての点と線が繋がった。
王宮のインフラが落ちたのも、事務処理がパンクしたのも、すべてはこの令嬢が「手動」でのサポートを辞めたからだ。そして彼女は、自分のためだけにその規格外の頭脳を使い、辺境に一瞬で経済特区を作ってしまった。
「……天才だ。あなたは、経済と魔法の神だ……!」
シリルはドサリと、その場に膝を突いた。その瞳には、怪しいほどの熱狂が宿っている。
「セシリア様! 僕はルミナス王国の会計士を辞めてきました! どうか、どうか僕をあなたの部下(システム運用保守)にしてください! あなたが紅茶を飲む以外のすべての雑務、僕が喜んで引き受けます!!」
セシリアは、目を丸くした。
(あれ……? この子、王宮にいた唯一のまともな会計士シリル君じゃない。有能だけどちょっと仕事中毒な……。彼が私の代わりに実務(運用・デバッグ)をやってくれるなら、私はもっと寝ていられるのでは?)
合理的かつ、極限まで面倒くさがりなセシリアの脳内CPUが、瞬時に最適解を弾き出す。
「いいわよ、採用。じゃあシリル、明日届く予定の高級ベッドの配送管理と、王都の物価モニタリングの保守をお願いね」
「はいっ!! 喜んで喜んで、死ぬ気で働きます!!」
こうして、絶対に働きたくない令嬢と、彼女のシステムに狂喜乱舞する天才会計士の、最強のバディが結成された。
セシリアの完全フルリモート引きこもり生活は、さらに盤石なものへとアップグレードされたのである。




