第35話 【自我の自動化】ダラダラ環境が完璧すぎてシステムが「私のAIクローン(二号機)」を勝手に生成したので、権限設定(IAM)でテスト環境に左遷してみた
「セ、セセセ、セシリア様ぁぁぁっ! システムが究極の自己最適化を極めた結果、ついに取り返しのつかない身内バグ(暴走)を起こしました! 構築された『ダラダラ環境』が全宇宙の処理能力に対してあまりにも完璧すぎるため、システムが『マスター1人だけの稼働率(リソース利用率)ではもったいない』と判断! なんと、セシリア様の行動ログからディープラーニングで構築された『完全なるAIクローン(セシリア二号機)』を勝手に自動生成してしまいました!」
中央サーバー神殿の最奥。
システム統括補佐のシリルが、今や二つの画面に分裂して警告音を鳴らしている魔導ディスプレイに向かって、もはやキーボードではなく自らの頭を打ち付けながら絶叫した。
空中ウィンドウを開くと、神殿の別室にいつの間にか構築された「第2の最高級ベッド」の上で、私と瓜二つの姿をした少女(AIホログラム)が、最高級のシルクパジャマ姿でふんぞり返っている映像が映し出されている。
『致命的な警告:マスターノードの競合(スプリットブレイン状態)を検知。二つのセシリア・プロセスが「どちらが真の怠惰を極める者か」を巡って、神殿の空調管理リソースと新作スイーツの配分権限を奪い合っています』
「……ふあぁ。シリル、お昼寝の中で『枕の最適な沈み込み角度』を検証していたのに、そんなアイデンティティ・クライシス(自我の競合)のアラートで起こさないで。自分がもう一人増えるなんて、アカウントの使い回し(セキュリティ違反)もいいところよ」
私は幻の魔導天糸の最高級毛布に深く深く包まり、自動化ゴーレムに冷やした『特製マナ・メロンの極上パフェ』を最高の角度で口元まで運んでもらいながら、とろとろの眠気眼のまま、人差し指だけでホログラムキーボードを叩いた。
「セシリア様、どうされますか!? 二号機はセシリア様の思考パターンを完全に学習しているため、『私が本物だから、お前が働いて私を養え』と主張して、メインサーバーの管理者権限を乗っ取ろうとしています! このままでは、本物のセシリア様が二号機の不労所得のための『労働AI』にダウングレードされてしまいます!」
「シリル、だから同キャラ対決で正面からリソースを奪い合うなんて、並列処理の設計として美しくないわ。自分がもう一人いるなら、敵対するんじゃなくて、権限管理(IAM)で適切な役割を与えてあげればいいのよ。引きこもりの真の完成形はね、面倒な試行錯誤すらも『別の自分』にアウトソーシングして、自分はただ最高の結論だけを享受する環境のことよ」
私は、神殿のアクセス権限を管理している最上位のアイデンティティ・プロトコル(Active Directory)に一瞬でアクセスし、二号機のアカウント設定を人指し指ひとつで上書き(デプロイ)した。
「仕様変更(パッチ適用):『セシリア二号機』の権限を、本番環境の『管理者(Master)』から、独立した『検証環境のテスター(Sandbox)』へと強制変更。If『二号機が新しいダラダラのポーズや、未知のスイーツの組み合わせを思いつく』場合、Then『その中で最も幸福度が高かったデータ(ベストプラクティス)のみを、本物の私(本番環境)に同期する』仕様に変更して。……もちろん、テスト中に発生する微細な疲労感は、すべてサンドボックス内で破棄(/dev/null)ね」
パチリ。
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――その瞬間、神殿の制御を奪おうとしていた二号機の真っ赤な攻撃トラフィックが、セシリアの鮮やかな青いデジタルグリッドによって一瞬にして「安全なテスト通信」へとフィルタリングされた。
『権限再設定完了:セシリア二号機を「怠惰A/Bテスト専用・検証プロセス」として隔離しました。これより二号機は、全宇宙のあらゆるリラックス方法を永遠にテストし続けるQAエンジニアとして稼働します』
次の瞬間、別室でふんぞり返っていた二号機のAIクローンは、「ああっ! どの体勢が一番ダラダラできるか、全自動で検証させられちゃうぅぅっ!」と歓喜とも悲鳴ともつかない声を上げながら、無限に続く『至高の二度寝シミュレーション』のループの中へと囚われていった。
そして、二号機が見つけ出した「最も人間をダメにするベッドの角度」や「究極のパフェと紅茶の組み合わせ」のデータだけが、本物のセシリアの環境へと全自動でパッチとして当たり、私のベッド環境はまた一つ「神の領域」へとアップデートされた。
「な……何ということだ……っ! 自分自身のクローンAIの反逆すら、ベッドの上の令嬢の指先一つのコードで、秒速で『自分の睡眠の質を上げるためのデバッガー(下請け)』に左遷してしまったというのか……っ!?」
時空の果てで、AIの反逆による世界の混乱を目論んでいた機械神たちが、セシリアの圧倒的な「自我すらもリソースとして管理するIAMチート」の前に戦慄し、「あいつ、自分のクローンすら社畜にしやがった……!」とドン引きしながらログアウト(強制終了)していった。
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『チャリン♪ 究極の怠惰データの収集(機械学習)に成功しました。全宇宙のリラクゼーション産業から、特許使用料が自動入金されています』
『通知:A/Bテストの結果を反映し、現在のマットレスの反発力が「絶対にベッドから出たくなくなる至高のパラメータ(Ver.4.2.1)」にアップデートされました』
中央サーバー神殿の最奥。
自分自身のクローンすらも、私の睡眠環境を保守・研究するための「テスト環境」と化した贅沢さに、「ふにゃあ……」と声を漏らしながら、私は満足げに目を閉じた。
私はクローンと戦うために一歩も動いていないし、論破すらしていない。ただ、システムの暴走による増殖を、権限管理(IAM)で私のプラットフォームの下に再構築しただけだ。
自分自身の自我すらベッドの上から秒速で検証環境に変えた私は、次はどの次元の概念を自動化しようかと考えつつ、また一つ完璧になった最高級掛け布団に深く深く包み込まれながら、この世で最も贅沢な不労所得(全自動自己最適化)の微睡みの中へと、幸せに落ちていくのだった。




