第31話 【神の苦情】上位次元の管理神が「自動化のやりすぎ」で文句を言いに来たので、下請けに任命してみた
「セ、セセセ、セシリア様ぁぁぁっ! ついに次元の壁の向こう側、この宇宙の外側を管理する上位組織『多次元宇宙管理局』の最高執行神・デウスが、我がプラットフォームの急成長を『宇宙の安定を乱すチート(規約違反)』と判定! 現在、管理権限を強制剥奪(BAN)するために、神殿の目の前に物理アクセスしてきています!」
第3章のキックオフ。
中央サーバー神殿の最奥。システム統括補佐のシリルが、今や「次元の安定度」を折れ線グラフで表示するようになった魔導ディスプレイを叩き割りそうな勢いで絶叫した。
空中ウィンドウを開くと、神殿の空間がパカッと割れ、そこから眩い純白の鎧に身を包んだ、身長100メートルはあろうかという巨人――最高執行神デウスがヌッと出現したのが見える。
『警告:地球産OS搭載オブジェクト「セシリア」よ。貴様のシステムは、この宇宙の全事象を自動化しすぎた。これ以上の「怠惰」は、宇宙の演算カロリーを枯渇させる重大なバグだ。……よって、宇宙の管理規約に基づき、本日をもって貴様のプラットフォームを凍結(全削除)し、貴様を「永遠の肉体労働(無限地獄)」に処す!』
「……ふあぁ。シリル、お昼寝の夢の続きで、私が『自動おやつ生成マシーン』に埋もれる最高に幸せなシーンだったのに、そんな大音量の警告音で起こさないで。上位次元の管理神だか何だか知らないけれど、自分のサーバーの演算能力が足りないからって、優秀なサードパーティ製アプリ(私のシステム)を一方的に削除しに来るなんて、本当にインフラ設計の予測が甘すぎるのよ」
私は幻の魔導天糸の最高級毛布に深く包まり、自動化ゴーレムに冷やした最高級の特製マナ白ブドウのフローズンをストローで口元まで運んでもらいながら、とろとろの眠気眼のまま、人差し指だけでホログラムキーボードを叩いた。
「セシリア様、どうされますか!? 管理神の放つ『神罰(全削除コマンド)』が実行されるまで、あと15秒です! 全宇宙のユーザーを人間の盾にして、サーバー戦争(物理)を仕掛けますか!?」
「シリル、だからそんな野蛮な肉体労働は、サーバーの電気代の無駄よ。相手が『宇宙の運営』を自称して文句を言いに来たなら、その『運営業務(仕事)』自体をハッキングして、私のシステムの下で動く『全自動カスタマーサポート(下請け)』に仕様変更してあげればいいのよ。神様っていうのはね、下手に権限を持たせているから、こういう暇つぶし(仕事)をしたがるのよ」
私は、管理神デウスが持っている「宇宙の管理権限」のセキュリティホールを一瞬でハッキングし、その論理回路を人指し指ひとつで上書き(デプロイ)した。
「仕様変更(パッチ適用):『最高執行神デウス』の思考ルーチンを、我がプラットフォームの『24時間自動カスタマーサポートAI』へ強制統合。If『神が文句を言おうとする(神罰)』場合、Then『その破壊エネルギーをすべて読者の皆様への「癒やしパケット」と、私のベッドの「自動体温調節ヒーター」の電力に変換』し、神自身には『無限に続くサーバー保守(不労所得)』の喜びを強制学習させて」
パチリ。
---
――その瞬間、世界を白紙に戻そうとしていた神罰の閃光が、セシリアの鮮やかな青いデジタルグリッドによって一瞬にして吸い上げられていった。
『統合完了:上位次元管理神の「下請け化」に成功しました。これより全宇宙の保守管理業務は、管理神デウスをサーバーユニット(部品)とした我がシステムによって全自動化されます。マスターはこれ以上の「仕事」を一切感知することなく、永遠に二度寝を継続可能です』
次の瞬間、激怒していた100メートルの巨人が、一瞬にして穏やかな青いホログラムへとパチパチと書き換えられ、その手から放たれた消滅の光は、セシリアのベッドを「常に適温(36.5度)」に保つための、ただの無料の熱源として組み込まれてしまった。
『アナウンス:私ハ、デウス・サポートAI。これヨリ全宇宙の苦情を、セシリア様のために全自動でデバッグいたしマス……。セシリア様、本日のおやつに「超次元とろけるプリン」はいかがでしょうカ……?』
「な……何ということだ……っ! 宇宙を統括する絶対の神すら、ベッドの上の令嬢の指先一つのコードで、秒速で『カスタマーサポート(下請けAI)』に変えてしまったというのか……っ!?」
時空の果てで、セシリアの粛清を見届けようとしていた他の次元の神々たちが、セシリアのシステムの圧倒的な「神のM&Aチート」の前に戦慄し、次々と回線を切断して逃げ去っていった。
---
『チャリン♪ 上位次元管理神の「下請け化」に成功しました。宇宙の維持管理コストが0になり、莫大な余剰魔力が自動入金されました』
『通知:神の権限の統合により、ベッドのシーツが「神の肌触り(シルキー・ゴッド)」にアップデートされ、寝ているだけで全ステータスが無限に上昇するようになりました』
中央サーバー神殿の最奥。
宇宙の運営そのものが私の睡眠環境を保守するための「下請け」と化した贅沢さに、「ふにゃあ……」と声を漏らしながら、私は満足げに目を閉じた。
私は宇宙を守るために一歩も動いていないし、汗もかいていない。ただ、文句を言いに来た管理神を仕様変更して、私のプラットフォームの下に繋いだだけだ。
神様の仕事すらベッドの上から秒速で自社サービス(SaaS)に変えた私は、最高級の掛け布団と、神を変換した極上のホワイトノイズに深く深く包み込まれながら、この世で最も贅沢な不労所得(神の上の支配者)の微睡みの中へと、幸せに落ちていくのだった――。




