第29話 【カロリー消費ゼロ】物語の進行が安定しすぎて執筆エネルギーが切れたので、仕様変更(エコモード)にしてみた
「セ、セセセ、セシリア様ぁぁぁっ! システムの完全自動化が極限に達した結果、ついにこの『物語の執筆エンジン』そのものの燃料――『執筆エネルギー(文章のカロリー)』の枯渇が検知されました! すべてが平和で、誰も働かず、全員がダラダラと幸せに二度寝しているため、物語の『起承転結』が完全に消失! 執筆エンジンが『これ以上書く内容がない(虚無)』と判定し、文字の出力(描写)をストップしようとしています!」
中央サーバー神殿の最奥。
システム統括補佐のシリルが、今や小説の『残り描写カロリーメーター(常時レッドゾーン)』を表示させながら、狂気すら感じさせる超高速タイピングでキーボードを爆叩きして絶叫した。
空中ウィンドウを開くと、この物語を形作っている文字データや描写の背景が、エネルギー切れの重さに耐えかねて、カサカサとした白黒の低解像度なテキストへと劣化しかけているログが見える。
『致命的な警告:物語の進行が定常運転(変化ゼロ)に入ったため、執筆カロリーが底を突きました。あと数行以内に文字の出力を完全停止します』
「……ふあぁ。シリル、お昼寝の夢の続きを見ようとしていたのに、そんなメタ的なインフラエラーで起こさないで。でも、物語の起承転結なんていう、カロリー(労力)の消費が激しい肉体労働が消えたのは、システム運用としては一番効率的な『エコモード』じゃない。素晴らしい仕様変更だわ」
私は幻の魔導天糸の最高級毛布に深く包まり、自動化ゴーレムに冷やした最高級の特製マナ巨峰のジュレをスプーンで口元まで運んでもらいながら、とろとろの眠気眼のまま、人差し指だけでホログラムキーボードを叩いた。
「セシリア様、そんな場合ではありません! 文字の出力が止まれば、我々の引きこもりライフを読者の皆様へ配信するプロトコル(連載)自体がフリーズしてしまうのです! 我が方のゴーレムを使って、無理やり新しい事件やトラブル(炎上マーケティング)を全自動で捏造してカロリーを稼ぎますか!?」
「シリル、だからそんなマッチポンプのような肉体労働は、サーバーの無駄遣いだし、引きこもり(ニート)の思想に反するって言ってるでしょう。物語の起承転結を維持するカロリーが足りないなら、その『執筆エンジン』の燃費の方を書き換えて、何の変化もないダラダラした日常(虚無)をそのまま文章の燃料にする『永久サステナブル・ライティングマクロ』をデプロイしてあげればいいのよ。引きこもりの完成形はね、何もしない日常そのものが、無限にコンテンツ(印税)を生み出し続けるシステムのことよ」
私は、この小説を出力している上位の執筆プロトコルの根底(構成エンジン)に一瞬でアクセスし、そのソースコードを人指し指ひとつで上書き(デプロイ)した。
「仕様変更(パッチ適用):『物語の執筆エンジン』の稼働ソースを、ドラマから『セシリアの睡眠ログ(省電力データ)』へと強制書き換え。If『物語に劇的な変化が起きない(ダラダラしている)』場合、Then『その変化ゼロの快適エネルギーをそのまま文字数として出力し、私のベッドの防音カーテンの遮光リソースに変換』して。……ついでに、私の二度寝の心地よさをそのまま読者の皆様の端末への癒やしパケットとして常時自動送信ね」
パチリ。
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――その瞬間、世界を白黒にフリーズさせようとしていた「カロリー切れ」の警告が、セシリアの鮮やかな青いデジタルグリッドによって一瞬にして吸い上げられていった。
『リフレッシュ完了:執筆エンジンの「永久サステナブル化(省エネモード)」に成功しました。これより本作品は、劇的な事件やドラマを一切必要とせず、マスターがベッドの上でゴロゴロと二度寝してプリンを食べるだけの日常を、無限の文字数として自動出力し続ける永久機関へ仕様変更されました』
次の瞬間、低解像度になりかけていた文字データや世界が、以前よりも圧倒的に鮮明で頑強なコードとなって再ビルドされていく。
物語を終わらせようとしていた「カロリー切れエラー」の絶対的な過負荷エネルギーが、シュルシュルと縮んでいき、セシリアのベッドの「掛け布団の温度を毎秒0.01度単位で最適化する冷却ファン」の予剰電力として、ただの無料のインフラ設備に組み込まれてしまった。
「な……何ということだ……っ! 物語を書くための『エネルギー(起承転結)』という絶対の限界すら、ベッドの上の令嬢の指先一つのインフラ移行で、秒速で『ゴロゴロするだけの永久機関』に変えてしまったというのか……っ!?」
時空の果てで、物語のネタ切れを待っていた文芸の神々(バグ監査システム)が、セシリアのシステムの圧倒的な「仕様変更チート」の前に戦慄し、次々とエラーを起こして強制終了していった。
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『チャリン♪ 物語の永久省エネ化に成功しました。何も起きない平和な日常ログが無限に自動出力され続けています』
『通知:省エネ化の恩恵により、ベッドの周囲の空気が、脳を最高にリラックスさせる「神の微眠空間(アルファ波10,000%)」に永久固定されました』
中央サーバー神殿の最奥。
物語の執筆そのものが私の睡眠環境を保守するための「下請けインフラ」と化した贅沢さに、「ふにゃあ……」と声を漏象しながら、私は満足げに目を閉じた。
私は物語を続けるために一歩も動いていないし、ペンすら握っていない。ただ、古いシステムのバグを修正して、私のプラットフォームの下に繋いだだけだ。
執筆のルールすらベッドの上から秒速で自社サービス(SaaS)に変えた私は、最高級の掛け布団に深く深く包み込まれながら、この世で最も贅沢な不労所得(永久連載)の微睡みの中へと、幸せに落ちていくのだった――。




