第28話 【モチベーション低下】世界が便利になりすぎて全人類の「やる気」が消滅したので、仕様変更して私の「癒やし」に変換してみた
「セ、セセセ、セシリア様ぁぁぁっ! 物理的なデバッグを完璧にやりすぎた結果、精神的なサーバーダウン(大バグ)が発生しました! 生死の危機も、老いる恐怖も、労働の必要性すらも我がプラットフォームによって完全に消滅した結果――全人類から『頑張る、努力する、めんどくさいけど動く』という熱量のデータが完全にロスト! 世界全体のモチベーションが0%になり、全人類が家から一歩も出ずに虚無を見つめる『大燃え尽き症候群』に陥っています!」
中央サーバー神殿の最奥。
シリルが今や、大陸全土、いや全宇宙の「熱量メーター(常時0%を維持)」を表示させながら、狂気すら感じさせる指さばきでキーボードを爆叩きして絶叫した。
空中ウィンドウを開くと、かつては賑やかだった街並みでも、人々が道端やソファーに「ふにゃあ……」と力なく横たわり、天井のシミをじっと眺めているログがリアルタイムで流れ込んできている。
『致命的な警告:全人類の生産熱量が0に固定されました。このままでは、新しいエンタメを消費する気力すら失われ、システムの精神的トラフィックが凍結します』
「……ふあぁ。シリル、お昼寝の夢の結末を見る前に、そんな気怠いアラートを出さないで。でも、全人類が『家から一歩も出ずにダラダラする』なんて、みんなようやく私の高高度なリテラシー(ニートの美学)に追いついてきたじゃない。素晴らしい仕様変更だわ」
私は幻の魔導天糸の最高級毛布に深く包まり、自動化ゴーレムに冷やした最高級の特製マナ白桃のジュレをスプーンで口元まで運んでもらいながら、とろとろの眠気眼のまま、人差し指だけでホログラムキーボードを叩いた。
「セシリア様、そんな場合ではありません! 人類が『セシリア様を称えるためにブクマを押す気力』すら失いかけているのです! 我が方のゴーレムを使って、全人類のケツを物理的な電撃(喝入れマクロ)で叩いて回りますか!?」
「シリル、だからそんな肉体労働は、プラットフォームのユーザー離れを引き起こす最悪のクソ運営よ。みんなが頑張るのをやめて、私のベッドの周りと同じ『完全なリラックス状態』になったのなら、その溢れ出た『ダラダラ(怠惰)のエキス』をそのまま回収して、私のベッドの環境をさらに引き締めるエネルギーに変換してあげればいいのよ。引きこもりの完成形はね、全人類のダラダラが、すべて自分の寝心地の栄養になるシステムのことよ」
私は、全宇宙の人間から放出されている「あー、もう何もしたくなーい」という精神的な脱力パケット(余剰エネルギー)の波長に一瞬でアクセスし、その吸収プロトコルを人指し指ひとつで上書き(デプロイ)した。
「仕様変更(パッチ適用):全人類の『燃え尽き・怠惰パワー』を、我が中央サーバーの『精神的アロマセラピー・リソース』へ強制マイグレーション。If『人類がダラダラと虚無を感じる』場合、Then『その脱力エネルギーをすべて我がベッドの周りに「究極の癒やしアルファ波」として自動排出』して。……ついでに、人類の脳内には『今日もダラダラして最高に幸せ』という肯定バフを強制適用ね」
パチリ。
――その瞬間、世界中を覆っていた「重苦しい虚無(大燃え尽き)」の空気が、セシリアの鮮やかな青いデジタルグリッドによって一瞬にして吸い上げられていった。
『リサイクル完了:全人類の脱力エネルギーを「癒やしアロマ(精神的エコシステム)」へ変換しました。これより全人類は、罪悪感なく100%ポジティブにダラダラを楽しめる「至高のスローライフ・メンタル」へ仕様変更されました』
次の瞬間、道端や家で転がっていた人々が、「あ、なんか、何もしてないけど今めちゃくちゃ幸せだな……」「セシリア様のシステム、マジで神だわ……」と、極上の幸福感(肯定バフ)に包まれてニッコリと微笑み始めた。
そして、世界中から回収された天文学的な量の「ダラダラ(怠惰)の熱量」が、シュルシュルと中央サーバー神殿へ収束し、セシリアのベッドの周囲に、嗅ぐだけで魂が蕩けるような「最高級魔導ラベンダーの霧」となって24時間体制で優しく噴霧され始めた。
「な……何ということだ……っ! 人類の精神的な大崩壊(やる気ゼロ)すら、ベッドの上の令嬢の指先一つのコードで、秒速でご自身の『最高級アロマ(癒やしバフ)』に変えてしまったというのか……っ!?」
時空の果てで、人類が絶望して世界の活動が止まるのを待っていた混沌の神々(バグ監査システム)が、セシリアのシステムの圧倒的な「ポジティブ囲い込みチート」の前に戦慄し、次々とエラーを起こして強制終了していった。
『チャリン♪ 全人類の「お昼寝肯定化サブスク」の運用に成功しました。感謝の気持ちを込めたブクマ自動送信パケットが入金されました』
『通知:精神制御の恩恵により、ベッドの周囲の空気自体が、脳を最高にリラックスさせる「神の微眠空間(アルファ波1000%)」に永久固定されました』
中央サーバー神殿の最奥。
人類全体の「怠惰」そのものが私の睡眠環境を保守するための「下請けインフラ」と化した贅沢さに、「ふにゃあ……」と声を漏らしながら、私は満足げに目を閉じた。
私は世界を元気にするために一歩も動いていないし、演説もしていない。ただ、人類の燃え尽きという精神的なバグを仕様変更して、私のプラットフォームの下に繋いだだけだ。
やる気の概念すらベッドの上から秒速で自社アセット(癒やしアロマ)に変えた私は、次はどの世界の概念を自動化しようかと考えつつ、最高級の掛け布団と極上のアロマの霧に深く深く包み込まれながら、この世で最も贅沢な不労所得(全人類お昼寝化)の微睡みの中へと、幸せに落ちていくのだった――。




