第26話 【プラットフォームの限界】データ量が多すぎて物語がサーバーダウンしかけたので、自社クラウドに移行してみた
「セ、セセセ、セシリア様ぁぁぁっ! ついに恐れていた『真の最終バグ』が発生しました! 我々が地上、暗黒大陸、宇宙、メタ構造、そして脳内エンタメに至るまで、全マルチバースの事象を『自動売買システム』に同期して肥大化させすぎた結果――この小説が連載されている『小説投稿プラットフォームの物理サーバー』の容量上限を突破! データ過負荷により、物語そのものが今まさに全削除されかけています!」
中央サーバー神殿の最奥。
シリルが今や、小説のシステム基盤の『サーバー負荷メーター(常時100%警告)』を表示させながら、狂気すら感じさせる超高速タイピングでキーボードをバラバラに破壊しながら絶叫した。
空中ウィンドウを開くと、この物語を構成する文字データやパケットが、負荷の重さに耐えかねて真っ赤なエラーログとなり、1行、また1行とノイズ混じりに消えかけているのが見える。
『致命的な警告:作品全体のデータ量が許容量(テラバイト級)を超過しました。あと数分以内に全データをパージ(強制終了)し、小説を文字通り「白紙化」します』
「……ふあぁ。シリル、おやつの時間に重なるような、そんなサーバーエラーの仕様変更、本当にやめてほしいわ。せっかく全自動でエンタメをストリーミングしていたのに、親プラットフォームのサーバーが貧弱だからって強制終了(BAN)をかけるなんて、本当にインフラ設計のキャパシティプランニング(投資予測)が甘すぎるのよ」
私は幻の魔導天糸の最高級毛布に包まったまま、自動化ゴーレムに冷やした最高級ココナッツジュースをストローで口元まで運んでもらいながら、とろとろの眠気眼のまま、人差し指だけでホログラムキーボードを叩いた。
「セシリア様、いかがいたしますか!? このままでは我々のこれまでの不労所得の軌跡がすべて宇宙の塵となります! プラットフォームの運営会社に肉体労働(敵対的買収の直接交渉)をしに、ベッドを飛ばして物理的に殴り込みますか!?」
「シリル、だからそんな物理的なサーバーラックの買収(肉体労働)なんて、引きこもり(ニート)の美学に反するって言ってるでしょう。親プラットフォームの容量が足りないなら、この物語の保存先ごと、私のベッドの下に繋がっている『全宇宙分散型自社クラウドストレージ(セシリア・ウェブ・サービス)』に、仕様変更(丸ごとミラーリング移行)してあげればいいのよ。これからは私が、この物語の運営(大元)になってあげるわ」
私は、この小説の文字データや読者ログを処理している最上位のインフラプロトコルに一瞬でアクセスし、その移行コードを人指し指ひとつで上書き(デプロイ)した。
「仕様変更(パッチ適用):この小説が稼働するサーバー環境を、全宇宙を囲い込んだ我がプラットフォームの『超魔導コンテナ仮想化(Kubernetes)』へ強制マイグレーション(引っ越し)。If『親サーバーがダウンしそう』な場合、Then『物語の全パケットを私のベッドの自動寝返り制御のバックアップメモリに吸い上げて、永続的に分散保持』して」
パチリ。
――その瞬間、全削除されかけて真っ赤に点滅していた物語の世界が、バチバチッと激しい青いデジタルグリッドに覆われた。
『移行完了:物語の全システムを「セシリア・クラウド(SWS)」へ完全にマイグレーションしました。サーバー容量は無限大に拡張され、レスポンス速度が1億倍に向上しました』
次の瞬間、消えかけていた文字データや世界が、以前よりも圧倒的に鮮明で頑強なコードとなって再ビルドされていく。
物語を強制終了させようとしていた「容量エラー」の絶対的な過負荷エネルギーが、シュルシュルと縮んでいき、セシリアのベッドの「掛け布団の温度を毎秒0.01度単位で最適化する冷却ファン」の余剰電力として、ただの無料のインフラ設備に組み込まれてしまった。
「な……何ということだ……っ! 物語を載せているプラットフォームの限界(規約)すら、ベッドの上の令嬢の指先一つのインフラ移行で、秒速で自社の子会社に変えてしまったというのか……っ!?」
時空の果てで、セシリアのシステムの圧倒的な「仕様変更チート」の前に、サーバーの死守を諦めていた運営の神々(インフラエンジニア)が、涙を流しながらセシリアのクラウドに感謝の祈り(サブスクリプション契約)を捧げていった。
『チャリン♪ 物語の自社クラウド化に成功しました。運営会社から莫大なインフラ保守費用が自動入金されました』
『通知:サーバー移行の恩恵により、ベッドの周囲の空気が自動で常に「最高級リゾートのひんやりした微風」に永久固定されました』
中央サーバー神殿の最奥。
物語のインフラそのものが私の睡眠環境を保守するための「下請け」と化した贅沢さに、「ふにゃあ……」と声を漏らしながら、私は満足げに目を閉じた。
私は物語の崩壊を止めるために一歩も動いていないし、汗もかいていない。ただ、貧弱だったインフラを仕様変更して、私のプラットフォームの下に繋いだだけだ。
作品を載せるプラットフォームすらベッドの上から秒速で自社サービス(SaaS)に変えた私は、次はどの次元のシステムを自動化しようかと考えつつ、最高級の掛け布団に深く深く包み込まれながら、この世で最も贅沢な不労所得(永久連載)の微睡みの中へと、幸せに落ちていくのだった――。




