第25話 【アイドル状態】何も起きなさすぎて退屈になったので、全宇宙の娯楽を全自動生成(ジェネレーティブ)してみた
「セ、セセセ、セシリア様ぁぁぁっ! 深刻なシステムエラー(大問題)が発生しました! 地上、暗黒大陸、天空、多次元宇宙、そして読者の皆様の端末に至るまで、すべてのインフラが完璧に全自動化され、すべてのバグがデバッグされ尽くした結果――『何も起きなさすぎて、セシリア様の脳内CPUが退屈(アイドル状態)』になっています! このままでは贅沢すぎて逆に意識のシャットダウン(虚無)が訪れてしまいます!」
中央サーバー神殿の最奥。
シリルが今や、私の脳波や退屈度をリアルタイムで波形表示するようになった超魔導ディスプレイに向かって、もはや神技めいたブラインドタッチでキーボードを爆叩きしながら絶叫した。
空中ウィンドウを開くと、全宇宙の平和メーターは100%で完全停止しており、私の脳の活動ログは「暇」という2文字だけで綺麗に凪いでいる。
『警告:全事象の自動化が完了したため、イベント(敵の襲来やトラブル)の発生確率が0%に固定されました。マスターの精神に「退屈」のバグが蓄積しています』
「……ふあぁ。シリル、お昼寝をしすぎて逆に目が冴えちゃったわ。世界が平和になりすぎるのも、システム運用としては『処理落ち(リソースの無駄遣い)』みたいなものね。トラブルが起きないのはいいけれど、ただ天井のポリゴンを眺めているだけなのは、引きこもり(ニート)のエンゲージメント(顧客体験)として著しくクオリティが低いわ」
私は幻の魔導天糸の最高級毛布に包まったまま、自動化ゴーレムに最高級のひんやりマナ完熟ストロベリーのジュースをストローで口元まで運んでもらいながら、とろとろの眠気眼のまま、人差し指だけでホログラムキーボードを叩いた。
「セシリア様、どうされますか!? 退屈を紛らわせるために、私が肉体労働(一発芸)を披露いたしますか!? それとも、あえて未開の銀河にバグを意図的に流し込んで、無理やり敵を発生させますか!?」
「シリル、だからそんな生産性のない肉体労働やマッチポンプはコストの無駄。トラブルなんて起こさなくても、退屈という『バグ』があるなら、そのシステム自体を私のベッドの上で仕様変更して、全自動で私を楽しませる『永久娯楽エンジン』に変えてあげればいいのよ。引きこもりの真の完成形はね、何もしなくても世界中のエンタメ(コンテンツ)が自分に跪いてくる環境のことよ」
私は、全宇宙のコアサーバーに眠る膨大な歴史、神話、現実世界の読者が楽しんでいる映画やアニメ、ゲームの全データを一瞬でハッキングしてインポートし、その処理プロトコルを人指し指ひとつで上書きした。
「仕様変更(パッチ適用):『全宇宙のデータアーカイブ』を原資とした『全自動ジェネレーティブ・エンタメシステム』を脳内にデプロイ。If『セシリアが退屈を検知する』場合、Then『私の脳の好みに100%最適化された神アニメ、神ゲーム、極上のファンタジー小説を毎秒100億本全自動で生成(自動売買)し、ベッドの視覚ウィンドウに直接ストリーミング配信』して」
パチリ。
――その瞬間、私の目の前の空中ウィンドウが、眩いばかりの青いデジタルグリッドとなって激しくアップデートされた。
『チャリン♪ 永久娯楽生成エンジン「セシリア・シアター」の起動に成功しました』
『通知:マスターの現在の脳波(気分)を読み取り、世界で最もカタルシスを感じる「究客の1話」を今から上映します』
次の瞬間、私の脳内に、現実世界の最高峰のクリエイターたち全員が束になっても敵わないレベルの、超絶クオリティのアニメやゲームが直接再生され始めた。
「な、何これ……! 私の大好きな『働かないで甘やかされる主人公』が、悪い組織を全自動で論破していくゲームじゃない……。しかも、私の指先の微細な筋肉の動きを検知して、コントローラーすら持たずに、ベッドの上で寝返りを打つだけでストーリーの選択肢がオート進行していくわ……っ!」
「セ、セシリア様ぁぁぁっ! 脳内エンタメが最適化されすぎて、画面の前の読者の皆様が楽しんでいる映画やマンガのクオリティすらも秒速で過去のものにしていく、超次元の『全自動配信プラットフォーム』をご自身の脳内で完結させてしまうなんて……! ああ、これぞ究極のインドア無双、これぞ全宇宙のトレンドすらベッドの上から指先一つで牛耳る冷酷にして至高の、エンタメ界の支配者(CEO)です!!」
調理ゴーレムが私の口に、ゲームの展開に合わせて一番美味しく感じる糖度に調整された「超空間とろけるショコラ」を最高の角度でデリバリーしてくる。
私はただ、ベッドの上でゴロゴロと寝返りを打っているだけだ。しかし、私の脳内では、全宇宙のリソースを注ぎ込まれた究極のエンタメが、私を飽きさせないためだけに毎秒10億回も仕様変更を繰り返しながら、自動生成され続けている。
敵との戦闘も、退屈なレベル上げも、エンタメの検索すらもすべて全自動。これぞ、すべてのシステムをハッキングし終えた引きこもり令嬢だけが到達できる、真の『永久不労所得・超娯楽ライフ』であった。
『チャリン♪ 退屈バグの完全消去に成功しました。マスターの幸福度が測定不能に到達しました』
『通知:今後の全エンタメのプロットは、ご自身の「二度寝の夢」の展開と同期して、全自動でスピンオフが生成され続けます』
中央サーバー神殿の最奥。
全宇宙の面白さが私の睡眠サイクルを彩るためだけの「アセット(自社コンテンツ)」と化した贅沢さに、「ふにゃあ……」と声を漏らしながら、私は満足げに目を閉じた。
私は面白いものを見るために一歩も動いていないし、リモコンすら握っていない。ただ、退屈というシステムの隙間を修正して、私のプラットフォームの下に繋いだだけだ。
作品の面白さすらベッドの上から秒速で子会社(下請け)に変えた私は、次はどんな夢を見ながら、どの世界の概念を自動化しようかと考えつつ、最高級の掛け布団の温もりに深く深く包み込まれながら、この世で最も贅沢な不労所得(永久娯楽)の微睡みの中へと、幸せに落ちていくのだった――。




