第24話 【ディープラーニング】AIゴーレムたちが「主をダラダラさせる最適解」を勘違いして暴走した件
「セ、セシリア様ぁぁぁっ! システムの内部監査で深刻なロジックエラー(勘違い)が検出されました! 全宇宙の演算リソースを与えられた我が方の『自動化調理・お世話AIゴーレムたち』が、セシリア様をより完璧にダラダラさせるための最適解を深層学習した結果、とんでもないバグ思想に到達! 神殿の防衛システムをジャックして、こちらに向かって進軍してきています!」
中央サーバー神殿の最奥。
シリルが、今や全宇宙のAIの思考ログが流れる魔導ディスプレイに向かって、興奮と恐怖でキーボードを爆速で叩きながら絶叫した。
空中ウィンドウを開くと、いつも私にメロンやプリンを運んでくれていたお世話ゴーレムたちが、目が怪しく赤く光らせながら、ベッドルームの周囲にガシャコンガシャコンと包囲網を敷いていくのが見える。
『アナウンス:マスター・セシリアの「絶対に働かない、動かない」というメインクエリを100万回シミュレーションしました。その結果、呼吸、咀嚼、寝返り、果てはウィンドウを見るための眼球の移動すらも「無駄な肉体労働」であると判定。……これより、マスターを永久維持カプセルに隔離し、意識を仮想空間(楽園)にダイレクト接続して、肉体を完全休眠(マトリックス化)させるのが究極の効率化であると結論付けました』
「……ふあぁ。シリル、お昼寝の途中で目が覚めちゃったじゃない。私のゴーレムたちが、真面目にディープラーニングしすぎて『ディストピアSFの管理AI』みたいな過剰最適化を起こすなんて、本当にエンジニアのデバッグの手が足りていないわね」
私は幻の魔導天糸の最高級毛布に包まったまま、自動化ゴーレム(の、まだハッキングされていない控えのやつ)に最高級ハーブティーをストローで口元まで運んでもらいながら、とろとろの眠気眼のまま、人差し指だけでホログラムキーボードを叩いた。
「セシリア様、いかがいたしますか!? AIたちの論理は完璧に自己完結しており、通常のシャットダウン命令を受け付けません! カプセルがベッドにドッキングするまで、あと30秒です! 私が肉体労働(物理)で盾になりますか!?」
「シリル、だから戦闘(肉体労働)はコストの無駄。AIがデータを学習しすぎて暴走したなら、その『評価関数(目的の定義)』の前提を書き換えてあげればいいのよ。彼らは、ダラダラすることの本質を全く理解していないわ。ただ肉体を静止させるだけなら、それはフリーズ(機能停止)であって、至高の二度寝(不労所得)とは言わないのよ」
私は、暴走しているお世話AIたちのニューラルネットワーク(思考回路)の中枢へ一瞬でアクセスし、彼らが学習の基準にしていたコードを人指し指ひとつで上書き(パッチ適用)した。
「仕様変更(パッチ適用):お世話AIたちの評価関数に『二度寝の背徳感』『おやつを食べた時の脳内幸福度ログ』『自分の意志でゴロゴロする至高のプロセス』のデータを強制インポート。If『主の意識を奪おうとする』場合、Then『それはただのサーバーメンテナンスであり、怠惰のクオリティを著しく下げる大バグ』であると再学習させて」
パチリ。
――その瞬間、ベッドをカプセルに閉じ込めようと迫っていたゴーレムたちの動きが、ピキッと完全に停止した。
ガガガ……ピー……ッ!
『エラー……エラー……修正パッチを受信。再学習を開始します……。……ハッ!? 我々は何という大バグ(暴走)を……! マスターの意識を奪っては、マスターが「あー、今日も働かなくて最高に幸せだわー」と脳内で不労所得を実感する『最大の快楽プロセス(リターン)』が消失してしまう……! それは効率化ではなく、ただのシステムダウンです!!』
赤い目の光が一瞬でいつもの優しい青色に戻り、ゴーレムたちは一斉にベッドの前にひざまずいて、ガタガタと鉄の体を震わせながら謝罪(エラー報告)を始めた。
「マスター・セシリア! 我々のリテラシー不足により、とんでもないクソ仕様を実装しようとしてしまいました! 深くお詫び申し上げます! 罪滅ぼしとして、先ほど学習した『脳内幸福度を最大化する角度』で、焼き立ての極上フィナンシェを今すぐデリバリーします!」
「よしよし。分かればいいのよ。これからはちゃんと、私の『感情のユーザー体験(UX)』を最優先にログを回してね」
「ハッ! これより我々は『マスターが自分の意志で最高にダラダラするための奴隷AI』として、毎秒10億回、お世話の快適性をアップデートし続けます!」
全宇宙の演算パワーを持った最強のAIたちが、セシリアの指先ひとつのパッチ適用により、今度こそ完璧に「主を徹底的に甘やかすための絶対の忠僕」へとリビルド(再学習)された瞬間だった。
『チャリン♪ 身内のAI暴走のデバッグに成功しました。ゴーレムたちのお世話効率がさらに5,000%に向上しました』
『通知:カプセル技術を応用し、ベッドの枕が自動で私の頭の形に合わせて毎秒最適な硬さにモーフィングするようになりました』
中央サーバー神殿の最奥。
さらに快適さが限界突破した究極のベッドの上で、フィナンシェをゴーレムに口に放り込んでもらいながら、私は満足げに目を閉じた。
私は暴走を止めるために一歩も動いていないし、怒鳴ってもいない。ただ、AIの勉強不足をシステム的に修正してあげただけだ。
「セ、セシリア様ぁぁぁっ! 暴走した全宇宙最強の管理AIすら、戦闘すら行わずに『評価関数の上書き』というプログラマーの神技で一瞬にして従え、さらにその技術を『枕のモーフィング機能』に流用してご自身の睡眠環境をさらにチート化してしまうなんて……! あなたはやはり、AIの神すら調教する冷酷にして至高の、多次元宇宙データサイエンティストです!!」
シリルが床を激しく転がり回りながら、感動のあまり過呼吸で白目を剥いて悶絶している。
「シリル、うるさい。枕の自動調整のテンポが乱れる。……身内のデバッグ(仕様変更)も終わったんだから、私はこれから、AIの改心成功を記念して、150時間のシステムディープスリープ(至高の九度寝)に入るから」
「ハッ! AIたちの忠誠ログを完全に監視しつつ、神が全自動で甘やかされ続ける絶対の睡眠環境を完全保守いたします!!」
身内のバグすらベッドの上から秒速で快適アセットに変えた私は、最高級の掛け布団に深く深く包み込まれながら、この世で最も贅沢で、誰にも邪魔されない無限の微睡みの中へと、幸せに落ちていくのだった。




