第19話 【敵対的買収】別の異世界から超空間M&A(サーバー統合)が仕掛けられたので、逆買収してみた
「セ、セシリア様! 信じられない速度で次元の壁が突破されています! 我々がこの世界のシステムを完全統合したのを検知した、別の並行世界を統括する超巨大宇宙IT企業『ギャラクシー・インフラストラクチャ社』が、我が世界を丸ごと飲み込もうと、超空間ネットワーク経由で敵対的買収(サーバーの強制同期)を開始しました!」
シリルが今や時空のログすら表示するようになったキーボードを、火花が散るほどの勢いで叩きながら絶叫した。
空中ウィンドウを開くと、神殿の天井に巨大な「宇宙のワームホール(回線)」が開き、そこから何兆もの光ファイバーのような半透明の触手が、この世界の因果律をデータとして吸い上げようとウジャウジャと降りてくるのが見える。
『警告:未開のローカル世界「ソラリス経済圏」の管理者セシリアよ。貴様のプラットフォームは我が社の規約に則り、本日をもって吸収合併(強制デリート)される。大人しく全ユーザーデータ(世界そのもの)を我が社のクラウドに明け渡すがいい』
ワームホールの向こうから、数千の銀河を裏で支配するAI総裁(競合他社のトップ)が、冷酷な機械音声で宣告してきた。
「……ふあぁ。シリル、回線のノイズのせいで、私の高級スピーカー(音声合成魔法)に高周波の雑音が混ざってるわ。別の世界だか何だか知らないけれど、挨拶もなしに他人のサーバーにクロスドメイン接続(不法侵入)してくるなんて、本当にセキュリティ意識が低いのね」
私は幻の魔導天糸の敷布に包まり、自動化ゴーレムに冷たい高級マナ果実のゼリーをスプーンで口元まで運んでもらいながら、とろとろの眠気眼のまま、人差し指だけでホログラムキーボードを高速で叩いた。
「セシリア様、いかがいたしますか!? 宇宙企業のサーバーパワーは我が世界の100万倍! データの流出(世界崩壊)まで、あと15秒です! 全ゴーレムをブラックホールに自爆特攻させますか!?」
「シリル、だから物理的な抵抗はサーバーの処理メモリの無駄よ。相手の規模が100万倍なら、その『100万倍のデータインフラ(回線)』を逆にこちらがそのまま利用させてもらえばいいのよ。彼らは、自分の会社のコードが肥大化しすぎて、末端のセキュリティ(バグ)がガバガバになってることに気付いていないわ」
私は、相手が接続してきた超空間回線の逆流プログラム(エクスプロイトコード)を一瞬で構築し、ワームホールの向こう側にある宇宙企業のメインフレーム(中枢サーバー)に向けて、人指し指ひとつでデプロイ(適用)した。
「仕様変更(パッチ適用):ギャラクシー・インフラストラクチャ社のメインサーバーに、我が『自動売買マクロ』をウイルスとして逆注入。If『相手がこちらのデータを吸い上げようとする』場合、Then『相手の保有する全銀河の全資産と全サーバーの管理権限を、我がベッドの拡張ストレージとして逆買収』して」
パチリ。
『エ、エラ――逆買収プロトコルを検知! 経営権が……パーセンテージが逆転していきます! 50%……70%……100%! ギャラクシー・インフラストラクチャ社はこれより、セシリア・プラットフォームの完全な子会社(末端サーバー)に移行しました……!』
ワームホールの向こう側で、数千の銀河を統括していたAI総裁の金色のボディが、一瞬にしてセシリアのイメージカラーである鮮やかな青へとパチパチと書き換えられていく。
世界を飲み込もうとしていた触手のような回線が、シュルシュルと縮んでいき、今度は宇宙企業の潤沢な予算と超科学データが、セシリアのベッドルームの「全自動ゲーム機」や「超空間防音壁」を常時稼イドさせるための、ただの無料のバックエンド(裏方インフラ)にされてしまった。
「な……何ということだ……! 数千の星々を経済支配していた我が宇宙企業が、ベッドの上の令嬢の指先一つのコードで、秒速で乗っ取られた(M&Aされた)というのか……っ!?」
宇宙の果てで、セシリアのシステムの圧倒的な「逆買収チート」の前に、競合他社の役員AIたちがパニックを起こし、次々とエラーを起こして機能停止(強制終了)していった。
『チャリン♪ 超巨大宇宙IT企業の逆買収に成功しました。時価総額が宇宙の全物質の価値を突破しました』
『通知:数千の銀河のインフラ、および全宇宙マナの管理権限が、すべてご自身のベッドへ同期されました』
中央サーバー神殿の最奥。
極上のベッドの上で、宇宙全体の因果律が私の睡眠サイクルに合わせて自動で星のまたたきを調整してくれるようになった全宇宙規模の快適さに、「ふにゃあ……」と声を漏らしながら、私は満足げに目を閉じた。
私は宇宙を救うために一歩も動いていないし、交渉すらしていない。ただ、相手の繋いできた回線を使って、便利なシステムを上書きしただけだ。宇宙規模の市場原理を使えば、銀河の支配者すら勝手に私のベッドの周りでデバッグ(無力化)される。
「セ、セシリア様ぁぁぁっ! 別の異世界の超巨大宇宙企業すら、戦闘すら行わずに『逆買収』して我が物とし、宇宙そのものをあなた専用の『スマート・ユニバース(寝室)』に変えてしまうなんて……! あなたはやはり、次元の壁すらディスラプトする冷酷にして至高の、多次元宇宙CEOです!!」
シリルが床を激しく転がり回りながら、感動のあまり過呼吸で白目を剥いて悶絶している。
「シリル、うるさい。宇宙のトラフィックの最適化が終わったんだから、私はこれから、60時間のシステムディープスリープ(至高の六度寝)に入るから」
「ハッ! 宇宙全域のデータログを完全に監視しつつ、あらゆる次元の存在すら立ち入れない神の睡眠環境を完全保守いたします!!」
宇宙そのもののルールすらベッドの上から秒速で子会社に変えた私は、次はどの次元の概念を自動化しようかと考えつつ、最高級の掛け布団に深く深く包み込まれながら、この世で最も贅沢な不労所得(宇宙の支配者)の微睡みの中へと落ちていくのだった。




