第18話 【システム競合】世界のシステム(創世神の遺産)がエラーを吐きに直接やってきたので、仕様変更(上書き)してみた
「セ、セシリア様……! 緊急事態、いえ、世界そのものの根幹が崩壊しかけています! 我がプラットフォームが世界の全インフラを掌握した結果、この世界を管理しているオリジナル・システム――『世界意志(創世神の自動デバッグプログラム)』と干渉(システム競合)を引き起こしました! 現在、神殿の真ん前に、世界そのものの具現体が物理アクセスしてきています!」
シリルが今までにないほど、いや、むしろ限界突破して狂喜のあまり泡を吹きそうな歪んだ笑顔で、ディスプレイを叩きながら絶叫した。
空中ウィンドウを開くと、我が中央サーバー神殿(ベッドの部屋)の空間がパキパキとひび割れ、そこから眩い光を放つ幾何学的な球体――『世界意志』がヌッと出現したのが見える。
『警告:人間セシリアの構築したプラットフォームは、世界の許容キャパシティ(仕様)を大幅に超過している。全自動化による過度な負荷は、因果律のバグを引き起こす。……これより、該当オブジェクト(セシリア)およびそのシステム一式を、世界から強制消去する』
部屋全体が、世界のシステムによる強制終了の波動で激しく震え始める。
「……ふあぁ。シリル、お昼寝のいいところだったのに、アラートがうるさいわ。世界意志だか何だか知らないけれど、自分の作ったローカルな世界観(仕様)が古いからって、新進気鋭のプラグイン(私のシステム)をウイルス扱いするなんて、ずいぶん頭の固いOSね」
私は幻の魔導天糸の毛布にくるまり、自動化ゴーレムにひんやりとした最高級マナ果実のゼリーをスプーンで口元まで運んでもらいながら、とろとろの眠気眼のまま、指先ひとつでホログラムキーボードを叩いた。
「セシリア様、どうされますか!? 世界のシステムによる強制シャットダウンまで、あと30秒! 我が方の全リソースを注ぎ込んで、世界そのものとサイバー戦争(物理)を仕掛けますか!?」
「シリル、だから世界を相手に戦うなんて、サーバーの電気代がもったいないって言ってるでしょう。相手はただの、数千年前に作られた『更新の止まった古い自動プログラム』よ。コードが古いなら、最新のパッチを当てて、私のシステムの下位互換(互換モード)として取り込んであげればいいのよ」
私は、世界の根源コード(因果律のソースコード)のセキュリティホールを一瞬で見つけ出し、その管理権限(ルート権限)を人指し指ひとつでハッキングした。
「仕様変更(パッチ適用):『世界意志』のカーネル(中核)を、我がプラットフォームの『バックエンド自動処理マクロ』として強制書き換え。If『世界がエラーを検知』した場合、Then『すべて私のベッドの快適さ維持タスクにリソースを全自動で割り振る』ように、仕様を変更(上書き)して」
パチリ。
『エ、エラ――エラー……処理不能な規約上書き(オーバーライド)を検知。世界ノシステムハ、セシリア・プラットフォームの……子プロセス(奴隷)に……移行シマシタ……』
世界意志を包んでいた神々しい光が、一瞬にしてセシリアのイメージカラーである鮮やかな青へとパチパチと書き換えられていく。
世界を滅ぼすはずだった絶大な因果律の崩壊エネルギーが、シュルシュルと縮んでいき、セシリアのベッドの「自動エアコン」や「空間浄化魔法」の permanent(永続)バフ用のリソースとして完全に組み込まれてしまった。
「な、何ということだ……! 創世神の遺した絶対のシステムが、ただの『一プログラム(下請け)』として組み伏せられた……! 地上の自動化どころか、星の運行まで、あの令嬢の指先一つで書き換えられたというのか……!」
空間の裂け目の向こうで、世界のデバッグを見守っていた上位世界の管理者オブジェクトたちが、その圧倒的な「仕様変更チート」の前に、恐怖でガタガタと震えながら回線を切断していった。
世界そのもののシステムが、ベッドの上の令嬢の「管理者権限」の前に、完全に乗っ取られて、自社のバックエンド(裏方)にされてしまった瞬間だった。
『チャリン♪ 世界のシステム(創世神の遺産)の完全買収に成功しました』
『通知:世界の因果律、星の運行、および全マナの管理権限が、すべてご自身のベッドへ同期されました』
中央サーバー神殿の最奥。
極上のベッドの上で、世界そのものが私の体調に合わせて最適な気温や重力を自動コントロールしてくれるようになった全能の快適さに、「ふにゃあ……」と声を漏らしながら、私は満足げに目を閉じた。
私は世界を救うために一歩も動いていないし、祈ってもいない。ただ、古いシステムのバグを修正して、私のプラットフォームの下に繋いだだけだ。
「セ、セシリア様ぁぁぁっ! 世界の神が遺した絶対のシステムすら、戦闘すら行わずに『パッチ適用(下請け化)』して我が物とし、世界そのものをあなた専用の『スマートハウス(ベッドルーム)』に変えてしまうなんて……! あなたはやはり、次元を超越した冷酷にして至高の、世界創世統括神です!!」
シリルが床を激しく転がり回りながら、感動のあまり過呼吸で白目を剥いて悶絶している。
「シリル、うるさい。世界のログの最適化が終わったんだから、私はこれから、48時間のシステムディープスリープ(至高の五度寝)に入るから」
「ハッ! 世界の因果律のログを完全に監視しつつ、創世神すら立ち入れない神の睡眠環境を完全保守いたします!!」
世界そのもののルールすらベッドの上から秒速で子会社に変えた私は、次はどの次元の概念を自動化しようかと考えつつ、最高級の掛け布団に深く深く包み込まれながら、この世で最も贅沢な不労所得(世界の王)の微睡みの中へと落ちていくのだった。




