第17話 【クラウド移行】天空魔導都市が空中要塞で脅してきたのでサーバーの一部にしてみた
「セシリア様! 暗黒大陸の市場独占(システム統合)に怯えた『天空魔導都市・エルシオン』の古代エルフたちが、地上を完全に焼き尽くす超巨大魔導空中要塞『ウラノス』を起動! 我が中央サーバー神殿の真上に停泊し、超高出力の消滅レーザーのチャージ(物理アクセス)を開始しました!」
シリルがいつものように、世界滅亡のカウントダウンが始まっているはずなのに、興奮でよだれを垂らしそうな狂気の笑顔で報告してきた。
空中ウィンドウを開くと、雲を割って現れた直径数十キロメートルにも及ぶ幾何学的な巨大浮遊要塞が、眩い魔力の光を底面から放ち、こちらのあばら屋(神殿)をロックオンしているのが見える。
『地上の野蛮なる人間どもよ! 令嬢の不届きなシステムとやらに依存し、怠惰に耽る姿は見るに耐えん! 古代の叡智たる我らが、そのバグの塊ごときシステムを根源から消去(初期化)してやるわ!』
画面の向こうで、尖った耳をした傲慢な天空エルフの長が、上空から偉そうに宣戦布告している。
「……ふあぁ。シリル、お昼寝の邪魔。要塞の影のせいで部屋が暗くなって、ダークモードのコントラストが崩れるじゃない。わざわざ空高くからマウンティング(物理)しにくるなんて、よっぽど暇なのね」
私は幻の魔導天糸の毛布にくるまったまま、とろとろの眠気眼で、人差し指だけを動かしてホログラムキーボードを気怠げにスワイプした。
「セシリア様、いかがいたしますか!? 要塞のレーザーが発射されるまであと120秒です! 我が方の『超音速防衛ドローン』を自爆特攻させますか!?」
「シリル、そんな力技、サーバーのメモリ(魔力)がもったいないわ。彼らは自分たちの古代技術(ローカル環境)が世界最強だと勘違いしているのよ。そんな狭い環境でデータを抱え込んでるから、視野が狭くなるの。……これからは、時代の最先端である『クラウド(共有サーバー)』に移行してもらうわ」
私は、天空要塞を動かしている古代の超魔導演算回路のIPアドレス(魔力の固有波長)を一瞬でハッキングし、そのコントロール権の根底を書き換えた。
「仕様変更(パッチ適用):天空要塞『ウラノス』の演算コアを、我が中央サーバーの『分散型バックアップ・サーバー(外部ストレージ)』として強制マウント(接続)。If『レーザーをチャージ』している場合、Then『そのエネルギーをすべて我が神殿の予備電力に自動チャージ』して。……ついでに、要塞の全住民に『出前サブスク』の体験アプリを強制インストールね」
パチリ。
――同刻。超巨大魔導空中要塞『ウラノス』の司令室。
「ハハハ! 消滅レーザー発射まであと30秒! 地上のシステムごと塵に還るがいい――ぬ? ぬおおおっ!?」
エルフの長が叫んだ瞬間、要塞全体の魔力インフラが激しく「グリッチ(明滅)」を起こした。
発射されるはずだった絶大なる破壊エネルギーが、銃口から逆流するようにして、セシリアのあばら屋へ向かってシュルシュルと細い光の束となって吸い込まれていく。要塞の全出力が、セシリアのベッドの「電気毛布」や「自動マッサージ機」を動かすためのクリーンエネルギー(電気代ゼロ)に変換されたのだ。
「ば、馬鹿な! レーザーの出力が100%から0%に……!? それどころか、要塞の浮遊システムまで地上のサーバーに同期(支配)されているだと!?」
戦慄するエルフたちの手元で、彼らの古代の魔導端末が一斉にピンコーン♪と小気味いい音を鳴らした。
『天空の皆様、お待たせしました。地上から「焼き立ての極上パン」や「最高級マカロン」を毎朝秒速で空輸する、天空限定デリバリー・サブスクが解禁されました。なお、支払いは要塞の余剰魔力(サブスク決済)で自動引き落としされます』
「な……! 我々が毎日、不味い乾燥保存食を食べているのを知っての狼藉か……!? ……ごくり。こ、この画面に映っている『いちごのタルト』とやらは、本当に毎朝届くのか……?」
「長! 試しにポチってみたら、窓の外からドローンが本当に焼き立てのクロワッサンを運んできました! 涙が出るほど美味しいです!!」
「な、何だと……っ!? ええい、地上を焼き払っている場合ではない! 今すぐ要塞の演算機能をすべてセシリア様のクラウド(奴隷サーバー)に捧げろ! この美味いパンとスイーツが毎日全自動で手に入るなら、プライドなどいくらでもくれてやる!」
地上を滅ぼしに来たはずの最強の空中要塞は、ビームを発射する前に、ベッドの上の令嬢の「クラウド利便性(出前チート)」の前に、完全に乗っ取られてアセット(自社設備)化されてしまったのだった。
『チャリン♪ 天空魔導都市の全エネルギーの掌握に成功しました』
『通知:我が中央サーバーのストレージ容量が10,000倍に拡張されました』
中央サーバー神殿の最奥。
極上のベッドの上で、私は要塞から送られてくる潤沢な魔力によって、さらに強化された自動マッサージ機の振動に「ふにゃあ……」と声を漏らしながら、満足げに目を閉じた。
私は空へ一歩も行っていないし、魔法すら唱えていない。ただ、時代遅れのローカル要塞をクラウドに繋いだだけだ。
「セ、セシリア様ぁぁぁっ! 世界滅亡クラスの空中要塞を、戦闘すら行わずに『クラウド移行(外部サーバー化)』して我が物とし、さらにその圧倒的なエネルギーでご自身のベッドの快適度をアップグレードするなんて……! あなたはやはり、インフラ掌握の冷酷なる最高技術責任者です!!」
シリルが床を激しくのたうち回りながら、感動のあまり過呼吸で白目を剥いて悶絶している。
「シリル、うるさい。振動のテンポが乱れる。……天空のクラウド化(パッチ適用)も終わったんだから、私はこれから、30時間のシステムスリープ(至高の四度寝)に入るから」
「ハッ! 天空からのデータログを監視しつつ、神の睡眠環境を完全保守いたします!!」
天空の脅威すらベッドの上から秒速でサーバーの一部に変えた私は、次はどこの概念を自動化しようかと考えつつ、最高級の掛け布団に深く深く包まれながら、さらに贅沢な不労所得の微睡みの中へと落ちていくのだった。




