第15話 【完全自動化】世界が私のベッドを中心に回り始めたので、私は永遠に二度寝する
「セシリア様、システムログ(世界情勢)の定期報告です。我が『ソラリス・全自動プラットフォーム』の市場占有率は、大陸全土で100%を達成。ルミナス王国、隣国のバルドル帝国、ならびに聖大教会は、すべて我がシステムの下部組織(子会社)として完全に最適化され、世界から戦争、飢餓、インフラのバグ(貧困)が完全にデバッグ(消滅)されました!」
あばら屋――ではなく、今や大陸の頭脳となった『中央サーバー神殿(元のあばら屋を囲むように自動ビルドされた超巨大建築)』の最奥。
シリルが、今や世界最強のシステム保守となった誇りを胸に、目が血走ったいつもの最高に輝く笑顔でキーボードを叩きながら報告してきた。
対する私はといえば――。
もちろん、最初からあったあのふかふかのキングサイズベッドの上から、一歩も動いていない。
変わったことと言えば、ベッドのシーツが絹の100倍の肌触りを誇る「幻の魔導天糸」になり、部屋全体の室温・湿度・酸素濃度が24時間体制で私の脳波に合わせて自動最適化されるようになったことくらいだ。
「……ん、そう。世界が平和になったのなら、余計なバグ対応(仕事)が減って何よりだわ」
私は、自動化ゴーレムが絶妙な角度で差し出してくる特製ストローから、最高級マナ果実のフローズンスムージーをチュウチュウと吸いながら、気怠げに呟いた。
「はい! 現在、全人類が『セシリア様のアカウント』を維持するために毎月定額でお布施を払い、病気になれば自動でポーションが届き、お腹が空けば自動で白いパンがデリバリーされる仕様になっております! 人類は今、働くという肉体労働から完全に解放され、あなたを『全自動の女神』として崇拝しています!」
『チャリン♪ 本日の不労所得(システム利用料)、合計 8,500,000,000 G が口座に入金されました』
空中ウィンドウに表示される、もはや国家予算という概念すら超越した天文学的な数字。
私はただベッドの上でゴロゴロし、スムージーを飲み、寝返りを打っていただけだ。
追放された当初は「動かずに生きていきたい」という極めて個人的な怠惰から始めた自動化だったけれど、気付けば世界の方が私のベッドを中心に回るようになっていた。
資本主義の原理と、効率化のコード。それさえ完璧に組んでしまえば、人は汗を流さなくても、世界を救い、世界の頂点に君臨できるのだ。
「セシリア様! これでこの大陸は完全勝利に終わりました! 次のロードマップ(仕様書)ですが、海を越えた『暗黒大陸』のサーバー開拓、あるいは空に浮かぶ『天空魔導都市』のアカウント囲い込み(M&A)など、いくらでもシステムを拡張できますよ! さあ、次はどこを自動化しましょうか!?」
シリルが新しい仕様書を両手に掲げ、狂気的な熱量でベッドサイドに詰め寄ってくる。
「シリル、うるさい。画面の輝度をあと10%下げて。……私はもう、世界のアップデートなんて興味ないわ」
私はふかふかの高級枕を抱きしめ、毛布を頭まですっぽりと被った。
「私の究極の目的は、最初から変わっていないもの。……『絶対に働かない、汗をかかない、動かない』。世界が全自動で回るようになったんだから、私はこれから、永遠の定期メンテナンス(飽きるまでの二度寝)に入るわ」
「は、はいぃぃぃっ! 己の怠惰を貫くことで世界を救い、救った世界すらも放り出して二度寝に没頭する……! ああ、これぞ究極の効率化、これぞ至高のシステム統括者(CEO)の姿……! 脳のメモリが溶けていきます!!」
シリルの暑苦しい大歓声を完全にシャットアウト(ミュート)し、私は極上のベッドの温もりに身を委ねた。
外の世界では、私の作ったゴーレムたちが今日も完璧に、全自動で世界を豊かに回し続けている。
何もしなくても、勝手にお金が入り、勝手に世界が平和になる楽園。
私は満足げに口元を緩ませながら、この世で最も贅沢な不労所得の波に揺られて、深い深い、終わりのない微睡みの中へと沈んでいくのだった――。




