戦場へ
戦場を見渡すと、中央付近――その場所にいた味方の魔物達が悪魔を蹴散らし、突撃を行っているところだった。悪魔の能力は最初に遭遇した個体と同じくらいだが、それでも魔物が押し込んでいる。
魔物も数を減らしているが、滅びた数は悪魔の方が多い……と、ここで悪魔が動きを変えた。後方にいた悪魔達が中央付近へと密集し、魔物の突撃を押しとどめようとする。
「……魔物の動きだが」
俺はその様子を見ながら考察する。
「状況を見て動き方を変えている……これは、指揮官による命令か?」
「その可能性は高いでしょう」
呟きに対し横にいるメルが応じた。
「戦況の変化で即座に動いているので、戦場にいる誰かが指示を送っているでしょう」
「ある程度の数をまとめて命令している、という解釈でいいんだよな?」
「はい、おそらくは……魔物を直接生成した魔族ならば個体ごとに命令をするなど複雑に指示を出すことも可能ですが、今回は魔王の側近が作成した悪魔を指揮する形なので、細かい命令はできないのでしょう」
「……とはいえ、この状況では大雑把な命令でも脅威だな」
悪魔達は固まり、魔物達を倒していく……突撃を行った個体は全滅し、戦況は一進一退の状況となる。
そうした中で、前線で指揮を執る神族やエルフについては……戦場では相変わらず魔力が荒れ狂っていたが、感覚的に少しずつ慣れてきたため気配を探ることができるようになってた。
「……前線で指揮はしているが、大きな動きはまだないな」
「神族やエルフのことですか?」
「ああ」
返事をした時、俺達のところへファルビアが近づくのが見えた。
「ファルビア、どうした? 出番がやってきたか?」
「現時点では拮抗しているため、まだ待ってくれ……思いのほか相手はおとなしい。前線は暴れる魔物を抑えるため、守勢に回っている雰囲気だな」
守勢――俺は改めて戦場を見る。全体的には突撃を仕掛ける魔物を悪魔が対抗し、対処しているような形であり、確かに敵側が守勢だ。
俺はそれについて一つ推測を立てる。
「敵は悪魔の指揮に慣れていない……か?」
「ああ、その可能性が高いだろう」
言及にファルビアは同意する。
「むしろ慣れるために最初はあえておとなしめだったのだろう……ここで勢いに乗って押し込めれば有利にできたが、そう上手くはいかないらしい」
「……突撃には失敗して魔物は失ったが、戦力は大丈夫か?」
「後方から断続的に魔物は生成している。術式自体にジーガの強化が入っているため、強さも前線にいる魔物と変わりがない……が、現状では魔物を生み出しても兵数を増やすには至っていない。敵も悪魔を順次補充しているからな」
そう語るファルビアの顔は厳しめではあったが……状況を見て、彼女はさらに考察する。
「だが、敵側も数を増やすのは難しいだろう……完全な互角だ。ここから事態を進展させるには、大きな一手が必要だ」
ファルビアは俺達を見る……そして彼女は策を語る。
「この状況ならば、敵の指揮官を叩くのが有効だろう」
「そうだな……敵側はどっしりと構え、こちらと相対している。なら、指揮官が動き回っているなどということもなく、位置を完璧に捉えれば、倒すことも難しくない」
最前線で魔物と共に突撃し、一気に決着をつける……戦況を考えれば、現実的な策だ。
「今、敵指揮官の居場所を探っている。位置を特定したら、勇者トキヤに頼みたい」
「わかった……魔物と共に攻撃を仕掛け指揮官を倒して回る、みたいな形か?」
「無論、騎士も帯同する。戦力を集中的に投入し、指揮官を倒していけば……綻びが生まれ、戦況はこちらに傾くだろう」
その時、ファルビアに近づく伝令の魔族が。何事か報告をすると、彼女は大きく頷いた。
「朗報だ。早速指揮官の位置をつかんだ。案内役の同胞を帯同させる。仕留めるべく動きたい」
「わかった。ようやく出番だな」
俺は告げると、メルへ視線を向けた。
「前線には俺とヘレナが出る。メルは状況に応じて援護してくれ」
「わかりました……とはいえ、私は本陣を守った方がいいでしょう。こちらの動きに対しカウンターも警戒しなければなりませんからね」
「そうだな……ファルビア、メルとフィリスを残していくが、それでいいか?」
「いや、フィリスも連れて行ってくれ。助力は彼女だけでいい。こちらはこちらでなんとかする」
――少しでも前線の戦力を増やし、確実に敵指揮官を仕留めようということか。
むしろ、拮抗した状況を前に進ませるために、この策は絶対に成功させなければならないという考えなのだろう。俺はファルビアの意図を理解した後、
「わかった……なら、ヘレナとフィリス、そして俺で敵の指揮官を討伐する」
「ご武運を」
メルの言葉に俺は一つ頷く。それと共にヘレナとフィリスが近寄ってくる。
「まずは前線にいる部隊と合流してくれ」
ファルビアの指示と共に、移動を開始――俺達もまた、戦場へと身を投じた。




