付けいる隙
五日後――ファルビアが決戦日を推測してからは、味方陣営も大きく動き始めた。多数の魔族がオリヴァーの屋敷を訪れ、状況を確認しファルビアが策を提示し……それを幾度となく繰り返した後、オリヴァー達はいよいよ動き始めた。
魔族ジーガは研究をなおも進め、さらに悪魔の対策を推し進めるとして屋敷に滞在。彼を防衛するための戦力を残した上で、オリヴァーは戦場となる平原へと向かう。俺と仲間達はそれに追随し、当該の場所へ辿り着いた時点でかなりの魔族が集い、既に多数の魔物が展開していた。
「圧巻の光景だな」
魔物を見ながら俺は呟く。自分たちに襲いかかってくるのではなく、背を向けいずれ来る敵に備えている様を見た感想だった。
「向かってくる悪魔の数も相当みたいだから、間違いなく死闘になるな」
「……やれることは、やったつもりだ」
後方からオリヴァーの声。振り返ると、重々しい表情をした彼が立っていた。
「ジーガの対策についても可能な限り施した。同胞達が持つ武器などに力を付与している」
「……間に合ったということか」
「付け焼き刃であることは否めない。側近達はジーガが敵に回った時点で色々と対策も施しているだろう」
話をしている間に、ファルビアが俺達に近寄ってきた。
「オリヴァー、暗い顔をしているな。そんな様子では、勝てるものも勝てなくなるぞ」
「……悲観的になってしまっているのは事実ではあるな。ファルビア、勝率はどのくらいあると思っている?」
「戦力的な事情を鑑みると、七割程度はあると見ている。しかしそれは、あくまで現状判明している戦力などを考慮した上での話だ」
そう語るとファルビアは腕を組んだ。
「敵にはわからないことが多い。例えば、大陸からやってきた多種族がどの程度の力を持っているのか、などだ。さらに悪魔の対策がどこまで機能するのかなど、相手に有利に働けば、確実に勝率は下がっていくだろうな」
「……確率が上がる要素はないか」
「こちらに状況を好転できる材料は少ないからな……考えられるとすれば」
そう言いながらファルビアは俺を見た。対するこちらは肩をすくめる。
「言いたいことはわかるけど……俺達は戦争の一局面は打開できる。でも全体の流れをどこまで変えられるかはわからないし、あまり期待はしないでくれよ」
「……そうだな。とにかく、手持ちにあるものでどうにかしていくしかない。ただ、不利な局面でも打開できる策があるとすれば――」
「敵の指揮官を叩く、だな」
俺が横やりを入れる。ファルビアはそれに首肯し、
「勇者トキヤも、その戦略ならば大局を変えることができると考えているか?」
「……十年前の戦争でも、敵の頭を倒して勝利を収めることはあったよ。けれどそれは小規模な戦争が大半だったし、何より戦争後半から終盤にかけては成功しなくなっていた。敵も大陸側の戦術に気付いて警戒するようになったからな」
最初はそれこそ、魔族側が油断して最前線とかに出ていたから上手くいったけど、戦争終盤はそうもいかなくなった。
戦争そのものが大規模になったのも、理由の一つではある。さすがに多数の魔族や魔物が入り混じる戦場では、指揮官だけを狙って倒すというのは非常に困難である。
ただ……俺はまだ見えぬ敵の全容を想像しつつ、言及する。
「敵は警戒している……けれど、向こうも多種族などを混ぜた急造の軍だ。指揮官を狙うということに際して、付けいる隙はあると思う」
「……確かに、そうだな」
ファルビアはそう頷きつつ、
「勇者トキヤ、仲間を含めた役割についてはこちらに任せてもらっていいな?」
「ああ、そこは任せた」
「ならば、まずは本陣にいて状況を窺ってもらいたい」
「……遊撃するにしても、相手の出方を見てから判断するというわけか。それでいいのか?」
問い掛けにオリヴァーは小さく頷いた。
「ああ……それに、この戦いはあくまで魔族同士の戦いだ。先陣を切るのは私達……そこについては、全員の認識が一致している」
……まあ、俺が先頭に出て戦うこと自体、何をやっているとオリヴァーに文句を言う存在がいてもおかしくないか。俺達はあくまで補助的な役割。今後のことを……それこそ、魔王の側近を倒した後のことを考えれば、オリヴァー達が真正面から倒さなければ、集った魔族達を認めることはできないだろう。
オリヴァーとしては、自身が魔王になるといった姿は想像もしていないだろうし、ここで絶対的な力を見せる必要はないが、さすがに陣頭に立ち戦った姿は示さないといけないわけだし……彼としてはどう動くか苦慮しているところだろう。
「……来たぞ」
ファルビアから声がした。見れば、悪魔の軍勢が平原へ進んでくる光景が見えた。いよいよ始まる……そう思う間に、味方側も布陣を開始した。




