魔族の恨み
思わぬメルの発言に、ジーガを含めた魔族は目を見開いた。そうした状況の中で彼女は続ける。
「魔力を探ったところ、力を封じるというよりは呪いの類いで、力を発しようとしても強制的それを解除する、みたいな魔法が掛かっているようです」
「解除するには何が必要だ?」
俺が問うとメルは一考し、
「……やるにしても、それなりに準備はいりますね。もっとも、私も断定したことは言えません。あくまで可能性の話です」
「時間はどれくらい掛かる?」
「準備ができればいつでも。単純な解除魔法よりは、土地などの魔力を利用した魔法の方が、この場合は成功率が上がると思います」
「……話についていけないんだが」
ここでオリヴァーが口を開いた。
「勇者トキヤ、貴殿は解除できるとして、ジーガと会うことにしたのか?」
「かもしれない、程度の考えだよ。けど、メルは俺と共に魔王に挑んだ魔法使いだ。彼女がいなければ俺は間違いなく魔王を倒すことも――いや、挑むことだってできなかっただろう。彼女の実績を理解していたからこそ、いけるのではと根拠もなく考えただけさ」
俺はそう述べた後、ジーガへ目を移す。
「現状ではあくまで可能性の話になるが……封じた力を元に戻せるかもしれない。乗るか?」
「……まさか勇者トキヤにそう言われるとは、想像もしていなかったな」
ジーガは苦笑しながら応じる。
「可能性があるのなら、それにすがりたい。もし元に戻ることができたのであれば、この戦いを通し報いることを誓おう」
「だ、そうだ……メル、オリヴァーやファルビアと話をして、必要なものを早急に揃えてくれ」
「わかりました」
メルは承諾し、ジーガを助けるための行動を開始した。
オリヴァーはメルから必要な物資について聞いた後、それを調達し始めた。
物資の内容によっては、大陸へ戻る必要がある……そんな予想もしていたのだが、幸いながらそういうことにはならず、準備は速やかに進んでいった。だが、その一方で一つ問題が出てきた。魔王の側近達……魔王の城で動きがあった。
オリヴァーはそれを「ジーガの行動が自分達に害をなすのではないかと判断したため」と結論づけた。ジーガに対して施した魔法を解除されるかも、という懸念まで考えがいっているかは不明だったが、少なくともオリヴァーの味方についたことで、側近達は反応を示した。
そして彼らの行動はわかりやすかった……ジーガがどこにいるのかくらいはわかっていたはずだが、それがオリヴァーの屋敷であることから直接的に攻撃はしてこず、代わりに彼の領地を攻撃するという方針をとった。
「悪魔がジーガの領地へ向け動いている……それを迎撃するために動かなければならない」
オリヴァーはそう告げ、彼に従う魔族達はそれに同意した。結果、悪魔が動き出したタイミングで行動を始め、俺もまた彼の領地へ向かうこととなった。
とはいえこれまでと違うのは、メルとフィリスについては留守番……というか、ジーガの力を封じている魔法の対処を優先し、俺とヘレナだけが向かうこととなった。
「準備はおおよそ完了しました。トキヤがここに戻ってくるまでには、終わっていることでしょう」
「わかった。メル、悪魔は周囲にいないが油断だけはしないように」
「はい」
そうして俺とヘレナは他の魔族と共にジーガの領地へと向かうことに。
その道中で、ヘレナは俺へ向け口を開いた。
「魔王の側近……最初から魔族ジーガを狙うことだってできたかもしれないのに」
「水面下でジーガと交渉していたのかもしれない。力を戻してやるから協力しろ、とかな」
「自分達でやったことなのに……」
「側近達は自分達で魔族のことをコントロールしたいみたいだし、力によって屈服すると思っていたんだろう。けれど魔族ジーガは、オリヴァーを選んだ」
「それだけ魔王の側近に対する恨みがあるってことかな」
「さすがに十年前の戦争まで魔王ではなく側近達が絵図を描いたとなったら、反発しないわけにはいかないだろう……魔族ジーガの力が戻り、悪魔の対策ができたら今度こそ情勢は有利に傾く……とはいえ、有利になっただけだ。戦いは、実際に始まってみなければわからない。決戦まで全力を尽くし準備を進めないといけないな」
「……私達も、やれることはやっていると思うけど、大丈夫かな?」
「ヘレナの方は、単独で魔族に挑みかかるとかしなければ問題ないと思うぞ」
「そこまで私も無茶はやらないって」
彼女の言葉に俺は笑う。と、ここでとうとうジーガの屋敷が見えたのだが、
「……丁度、悪魔も来たな」
空に多数の黒い影。飛行している姿を見て俺は呟く。
「数はそれなりか……上空から強襲してくる以上、さすがに無傷での対応は難しいか?」
そんな見解を述べた時だった。周囲にいた魔族が何事か叫び、戦闘準備を始めた。




