出不精の魔族
話し合った数日後、俺はオリヴァーから魔族ジーガと話をすることができた、という報告を屋敷内で聞いた。
推測した通り、魔族ジーガは魔王の側近によって力を封じられたらしい。そして、それを恥じ引きこもっていたと。
力を封じたからといって、側近達が攻撃をしてこない保証はなかったのだが……その封印はかなり強固なものらしく、オリヴァーとしても詳細を知った段階では「厳しいかもしれん」と考えたらしい。
「ともあれ、一度話し合いのために私の屋敷を訪れることになった。もし直接的に協力できないとしても、彼の強化能力について伝授してもらうだけでも、大きな力になるだろう」
「……戦いによる犠牲をそれで、減らせるかな?」
「ああ、そこは間違いないだろう」
……とはいえ、望んだ展開ではないだろうな。オリヴァーの言葉に俺は頷き、
「俺や仲間はどうすればいい?」
「ジーガにも話は通してある。一度会ってみないか?」
「強制ではないのか?」
「ジーガ自身はどちらでもいいというスタンスだ。陛下に忠誠を誓っていたため、恨みの一つでもあるかと思っていたんだが……」
そういうわけでもないと。まあ、俺にとってもどちらでもいいかと思う話なのだが――ここで俺は、ある直感を抱いた。
それは、もしかすると俺と仲間がジーガと出会うことになれば……事態は、良い方向に向かうのではないか、と。
「わかった、なら一度会ってみるよ」
「そうか? ならば、ジーガにも話を通しておこう」
そう言ってオリヴァーは返答した。
数日後に、俺はジーガとオリヴァーの屋敷で顔を合わせることとなった。その場には仲間達もおり、屋敷の入り口で話をすることに。
魔族ジーガは中肉中背で、ややボサボサの黒髪を持った、容姿的にも地味な魔族であった。基本美形が多い魔族なのだが、たぶん自身の見た目に頓着がないのだろう。
「……そちらが、勇者トキヤか」
そしてどこか怯えていそうな雰囲気をのぞかせながらジーガが口を開く。黒衣姿なのだが、その高級そうな服装もなんだか着られている……というか、ちょっとばかり猫背なのか。だからそういう印象を与えてくる。
見た目は完全にマヌエラのような研究者タイプだな……そんな心の呟きをしながら、俺は彼に応じる。
「戦場で遭遇したことはあるか?」
「いや、ない。俺はずっとこの島に引きこもっていたから」
「島どころか、自分の領地からもほとんど出なかっただろう」
と、横にいるファルビアが言及。なるほど、出不精の魔族というわけだ。
「しかし、もっと堂々としていろジーガ。お前はこれから、今回の戦争における立役者になるのかもしれんぞ」
「……残念ながら、それは無理だよ。側近達に力を封じられてまともに研究すらできていなんだ」
「研究も、か?」
「魔力を外部に出せないからな」
「確かにそれでは研究も不可能だな……では、力を封じられて以降は何をしていた?」
「頭の中で理論をこねくり回す日々だったよ。それを実践できないのがもどかしかったが、やることもなかったからな」
「……ほう、ならば側近達を倒せる策は浮かんだか?」
「できるかどうかはわからないけど、そういう強化法を試すことはできる」
「こう言っているが、オリヴァーどうだ?」
横にいる彼へファルビアが問うと、
「ジーガ、その理論を誰か介して表に出すことはできるのか?」
「可能だけど、時間が掛かるぞ。一つ一つやり方を試すだけでも、時間を消費する」
「もし封じられた力が元に戻れば、間に合うのか?」
「それならたぶん……時間がないのは俺もよくわかっているよ。正直、俺の理論によって対抗策を講じるのは、間に合わない」
「……そうか。しかし、何もやらずに諦めるわけにもいかないんだ」
と、オリヴァーは主張する。
「戦いに勝利できるか、そして同胞達の犠牲がどれだけ少なくできるかの瀬戸際でもある。ひとまず足掻かせてはもらう」
「構わないけど……」
「――こっちの陣営に与するのは、確定なのか?」
俺が何気なく問い掛ける。それに対しジーガは、
「まあ、力を封じた側近達に付き従う理由はないな」
「魔王の真実を聞いてどう思った?」
「……騙されたという感覚はあるけど、それでも技術を提供したのは俺自身の意思だ。利用されたのは癪だが、だからといって全ての責任を側近達に押しつけるつもりはない」
……十年前の戦争の犠牲については、自分もその一端を担っていると彼自身は考えている、か。
魔王に忠誠を誓ってはいるが、その上でオリヴァーの味方をすると決断した……ここについては間違いないようだ。ならば、
「……メル」
「はい」
「会話の最中、魔力を探っていたと思うが……どう見る?」
話がメルに向けられたことで、魔族達は眉をひそめた。一体何の話をしているのか……そんな疑問が満ちた時、メルは俺へ向け口を開く。
「――結論から言うと、ジーガさんの力を取り戻せるかもしれません」




