戦うか、従うか
「……この、手紙についてだが」
言葉を選ぶように、オリヴァーは話し始める。
「間違いなく妃様の筆跡であり……これが貴殿の懐にあったということは、紛れもなくあの御方は……」
「俺としては、そういうことなのだろうとしか言えないな」
実際は生きているけど……。
「ただ、魔王の妃がどうなったのか目撃したわけではない以上、真実は闇の中だ」
「……そうだな。ともかく確実に言えることは、妃様は陛下の真実を知り、外へ希望を託した」
そう告げるとオリヴァーは俺と視線を重ねる。
「妃様が手紙を託した者が代弁者であるなら、貴殿がまさしく陛下の側近達を打倒してほしい……そういう願いなのかもしれん」
「……俺達の目的は、あくまで真実を知ることだ。ただ、大陸に戦争を仕掛けようとする魔王の側近達の動きを看過できないのもまた事実」
そう述べると俺は、オリヴァーに告げる。
「大陸から戦力を持ってくることはできない……天王達の国家は十年で立て直したが、それでも魔族との全面戦争をするだけの余力はない。だから俺にできることは――」
「反乱を起こした魔族の支援をすることだけ、か」
オリヴァーの言葉に俺は頷く。
「もっとも、俺は進んで乱を引き起こす気はないよ。あくまで目的は戦いの真実を知ることだ……その手紙には真実の一切が書かれていたはずだが、それでも魔王の側近達の行動、その全てを知るには足らない」
「……今、陛下の状態がどうなっているかを知らなければ、真実とは言えないというわけか」
「そうだ」
「……陛下、いや、側近達に仕立て上げられた偽の陛下か。それが今どのような状態なのか……ただそれを知るには、城へ入り込む必要があるな」
「正直なところを言うと、ここについては魔族に手紙を渡してから考えようと思っていたんだ。ここが成功して協力を取り付けないと、考えても仕方がないからな」
「なるほど、な……手紙の内容から、陛下の側近には大罪がある。十年前の戦争……それすらも側近達の計略によるものであれば、私達は騙されながら犠牲を積み上げたことになる。この事実は、到底許しがたいだろう」
「なら、どうする?」
「しかし、私だけでは結論づけることはできない……従って、貴殿の方針もまだ決められないということでいいな?」
「ああ、そうだな」
返事にオルヴァーは頷くと、
「少し、待ってもらえないだろうか。無論、結論を出すまで貴殿らの身の安全は保証する」
「それはありがたいが……具体的にどうするんだ?」
「現在、陛下の側近達の命令に反発する同胞は多くいる。その全てと繋がりがあるわけではないが……多くの者と連絡できる」
「なるほど、顔をつきあわせてどうするか相談すると」
「そうだ」
「会議の席に俺達はいない方がいいだろうな……ただ、話をしないわけにはいかないだろう」
「手紙のことを出した時点で、貴殿らのことも語る。反発は多少なりともあるかもしれないが……この手紙の存在が何より大きい。問題になる可能性は低いだろう」
重々しく語るオルヴァー。その顔には明確な覚悟があった。
少なくとも、相談した結果誰も味方にならなかったとしても、彼は魔王の側近と戦うことを決断したのだろう。俺としてはひとまず目的に大きく近づいたと言えるが……ここから先は、魔族達の決断次第となる。
すなわち――戦うのか、従うのか。
「呼びかけによって集うのはどのくらい時間が掛かる?」
「集まることは数日でできる。よって、少しだけ待ってもらうが……その少しで結論は出る。その間は――」
「悪魔が来ないか見張りをするよ」
俺の言葉にオルヴァーは「すまない」と応じ、
「あの悪魔については、わからないことが多い。油断はまったくできない存在だ」
「メル、どう思う?」
「討伐した魔力など、残留している痕跡から能力の検証を行いましょう」
そう彼女は語る。俺はそれに頷いた後、
「会議が行われるまでの数日あるし、悪魔が来ないか見張る以外にも、周辺に悪魔がいないかなど調査も請け負うよ」
「本当か? それは非常に助かるが……」
「ただ、俺達はあくまで部外者だ。無茶はできないし、万が一事情を知らない魔族と遭遇したらまずいことになるから、おとなしくしているのも手だが……」
「そこについてはこちらが対策しよう。ただ無理はしなくていい」
「……確認だが、俺達のことは、側近に気付かれているよな?」
「先ほどの戦いでおそらくは。しかし、だからといって勇者トキヤがここにいると公表することは大きな混乱を招くため、多少様子を見るはずだ」
そう告げた後、オリヴァーは俺と再び視線を重ね、
「側近達は妃様の手紙を知らない……勇者トキヤが恩を売って私を味方につけたとしても、それ以上のことはできないと考えるはずだ。その間に、私が同胞を招集し手紙を提示する……そこから先はどうなるかわからない。だが……少なくとも、現状から大きく事態は動くはずだ――」




