魔族の覚悟
「……俺達としては、より詳細な情報を得たいと考えている。その中で、魔王に関し詳しい話が聞ける存在はいるか?」
そう言いつつ、俺はオリヴァーを見据え、
「あなたは魔王に近しい存在だったみたいだから、あなたの話を聞くということでも構わないんだが……」
「私は確かに陛下の城の中で仕事をしていた身だが、より詳しい……それこそ、陛下に近しい存在は他にいる。例えば、陛下の妃様などがあげられるが」
「……今も魔王の城にいるのか?」
「先日、亡くなられたと発表され……が、同胞達によって謀殺されたのでは、とも言われている……これも、表だって言う同胞はいないが」
「そう語られる根拠はあるのか?」
こちらが聞き返すと、オリヴァーは一時沈黙した後、
「具体的な証拠などはない。ただ陛下の姿が見られない中で、命令だけが飛んでくるような状況である以上、もしこの命令が陛下の側近によるものだとしたら……陛下の妃は反発するだろうし、その結果――」
「状況的に、謀殺されているかもしれないと」
重々しくオリヴァーは頷く。ふむ、これなら――
「あなたは魔王の妃と親交はあったのか?」
「城にいた以上、会話をする機会はあったな。とはいえプライベートな話をするようなことはなかった。交わした内容は主に執政に関することだ」
「執政? 魔王の妃は政治に関与していたのか?」
「妃様自身は政治を動かしているわけではなく、陛下の代行者として色々と動いていただけだ」
「代行者……か」
「あの御方はそれこそ、平穏を求める方だった。陛下は苛烈な性格ではあったが、二十年前、貴殿と戦うまでは戦争を引き起こすようなことはなかったのは、妃様の存在も大きかったように思う。もっとも」
と、オリヴァーはそう語りながらも肩をすくめ、
「それはあくまで表立っての話だ。側近達から話を聞き、謀略により動いていたのは間違いない」
「あなたはそうした謀略に関わりが?」
「残念ながらそういう分野に携わることはなかった」
「そうか……」
彼の言葉を聞き、俺は踏ん切りがついた。
「……俺は魔族の領域を訪れるより前に、ジャルヴァ家の魔族アベルと、別の魔族と顔を合わせ、手紙を託された」
「別の魔族?」
「その者は、魔王の妃……その従者であると語っていた」
俺の言葉にオリヴァーは目を見開く。
「次いで、妃より手紙を託された……事の真相全てを記した物であると」
そう言った後、俺は懐から手紙を取り出す。その時点で、オリヴァーは明らかに目の色を変えた。
「その封に刻まれた魔法は……」
「わかったみたいだな。妃の従者が言うには、この封自体が極めて特殊なものであり、これを示せば誰が封をしたのかわかると」
「ああ、そうだな……それはまさしく、妃様が封をした物だ」
オリヴァーは手紙から目線を離すことなく告げる。
「それには、真実が書かれていると?」
「……俺はこの手紙を従者から託されたのは事実だが、その内容についてはおおまかな話を聞いただけで、詳細はわからない」
そう俺はオリヴァーへ応じる。
「封を切れば当然、魔族へ渡しても信用してもらえないだろうからな……ただ、妃の従者はいくらか魔王の妃から話は聞いていた。その内容だけでも……魔族の領域をひっくり返すには十分だろうと思う」
「――手紙を託せる魔族を探していた、というわけか。それで、ジャルヴァ家の推薦もあって私に今、手紙を渡そうとしていると」
オリヴァーの言葉に俺は頷いた。
「妃の従者から話を聞いて、何をすべきか道は見えている……が、あなたが俺の目論見通りに動くとは限らないし、どうなるかは未知数だ。けれど、現状を変えなければならないのもまた事実」
「ああ、そうだな……その手紙の内容を改めるのは、私でいいのか?」
「……おそらく、この手紙には全てを覆す内容があるかもしれない」
俺はそう言いながら手紙を一瞥する。
「だからこそ、手紙を託す以上は……覚悟があるのかを問いたい。俺達にとってこれは、一度しか使えない切り札でもある。こちらの目的を成就させるものである以上は、確認しておきたい」
「覚悟……今の陛下を否定する事実があったとして、変革する覚悟があるかと」
「そうだ」
オリヴァーは手紙を見据えながら、思考する。俺は待つ構えをとり、仲間達も彼の言葉を待つ。
少なくとも、こちらの言葉を無下にする様子はないが……やがて、
「いいだろう、手紙を確認してもいいか?」
「ああ」
「……ただ、私に貴殿が考えるような結果を生み出せるかはわからないぞ」
「そこは百も承知だよ」
手紙を渡す。オリヴァーはゆっくりとした動作で、封を切る。
「内容はここで確認させてもらうが、いいか?」
「ああ」
返事にオリヴァーは封筒から手紙を取り出し、読み始める。
その間は、無表情であった。感情を表に出さないよう努めているようにも見え……やがて一読した後、口を開いた。




