第12話:復讐ではなく勝利へ――新ドラマ主演争奪戦、最終オーディション
週刊誌とネットニュースは、連日「朱音マリアの逆襲劇」で持ち切りだった。
各メディアが“被害者の録音テープ公開”という一報を繰り返し流し、
東條遼真は広告降板、出演予定ドラマの再検討、スポンサーの撤退と――
目に見えて「終わって」いく。
だが、マリアはそれを冷静に見つめていた。
「潰すためじゃない。……私は、前に進むために立ってる」
マネージャーが運転する車の中、窓の外を見つめながら、マリアはぽつりと呟いた。
今向かうのは、地上波・全国ゴールデンタイム新ドラマ『暁の声』主演最終オーディションの会場。
演技派俳優・白河レンとのW主演作で、脚本は朝ドラを手がけた名脚本家。
――芸能界で“真の女優”として再スタートを切るための、大きすぎるチャンスだった。
会場に入ると、見知った顔ぶれが揃っていた。
・事務所のゴリ押し枠と噂される人気若手女優
・SNSでバズり続けているインフルエンサー女優
・清純派アイドルから転身を狙うモデル出身女優
それぞれに“業界の武器”を持ち、立場を背負っていた。
その中でマリアは、唯一――「実力」だけでここに立っている存在だった。
最終選考は公開形式。
各候補者が、白河レンと「別れのシーン」を即興で演じる。
審査員席には、脚本家・監督・プロデューサー、そして各テレビ局の幹部たち。
厳しい眼差しの中、マリアの番が来た。
舞台に立ち、正面に白河レンが立つ。
彼は静かにマリアを見つめ、ひとことだけ言った。
「さよならだ、リサ。君はもう、僕の隣にはいられない」
――ここで、即興。
マリアは一拍、目を閉じて息を吸うと、静かに言葉を返した。
「……そう、だね。あなたが望む世界に、私はもういない」
「……」
「でもね、私はずっと、あなたの隣にいたくて努力してきたんだよ。
才能がないって言われても、夢ばっかり見てるって笑われても……」
その声が震える。だが、言葉は止まらない。
「それでも、隣に並べるくらいにはなったと思ってた。……でも、それでも足りなかったんだね」
白河レンが目を見開いた。
この空気。これは“即興”ではない。
演技の中に、**本物の“痛み”と“怒り”と“再生”**が混ざっている。
マリアの頬を、ひとすじの涙が伝う。
「さよなら。でも私、あなたの隣じゃなくて――自分の場所に行く」
静寂。
そして、拍手。審査員席から、一人、また一人と立ち上がって拍手を送る。
その中心にいた脚本家が、ぽつりとつぶやいた。
「……これだ。リサは、こういう女の子なんだよ。誰よりも弱くて、誰よりも強い」
控室に戻ると、マリアのスマホにメッセージが届いた。
【速報】朱音マリア、主演決定。『暁の声』W主演女優に内定。
彼女はスマホを握り、深く息を吐いた。
「復讐のために舞台に立った私が……。今、“勝ちたい”と思ってる」
その瞬間――彼女の戦いは、もう“復讐”ではなかった。
朱音マリアは、芸能界の光を掴む“勝者”になろうとしていた。




