第11話:録音テープの告白――マリア、業界の闇に一石を投じる
舞台女優・朱音マリアがゲスト出演するラジオ番組――
それは、業界では注目を浴びる“演技×人生”を語る特番として組まれていた。
だが、その夜。
放送された内容は、業界に爆弾を落とすものとなった。
パーソナリティの穂積が、やや緊張した声で切り出す。
「……本日は、今注目の女優・朱音マリアさんにお越しいただいています」
「よろしくお願いします」
マリアは落ち着いたトーンで答えた。
いつものように――しかしその声の奥には、静かな怒りと覚悟があった。
番組後半。
「もし、これまでに誰かに言えなかったことがあれば……」という問いに、マリアは一拍の沈黙を置き、ゆっくり語り出した。
「……私は16歳の時、とある現場で全てを失いました。
才能がないと断じられ、声を潰され、誇りを捨て、居場所を奪われました。
でも、ひとつだけ……残っていたものがあります」
パーソナリティが固唾をのむ。
「“その瞬間の声”です。録音です」
スタジオが静まり返る。
「流しても……?」
穂積が念を押す。
「ええ。“もう一度、舞台に立つ覚悟”を示すために――これは必要です」
《……お前は主役の顔じゃない。俺の顔に泥塗るなよ》
《東條さん、それって……》
《もう終わりだよ、茉莉。お前はここまでだ》
――男の声。
くぐもっているが、明らかに“東條遼真”と分かる口調。
静まり返るスタジオ。
同時に、ラジオを聴いていたネットユーザーたちの反応が、SNS上に爆発的に広がる。
「……ガチで録音残ってたんかよ」
「遼真終わったな。完全に加害者じゃん」
「あの会見、全部嘘だったってこと?」
「逆にマリア……よく耐えてたな」
「“復讐”じゃなくて、“正義”だよ、これは」
その夜のうちに、Twitter(X)のトレンドに
「#朱音マリア」「#東條遼真」「#録音テープ」
がすべてランクイン。
スポーツ紙、まとめサイト、芸能系ニュースが一斉に報道を始めた。
マリアは放送終了後、何も言わずに控室で一人、イヤモニを外した。
「……震えてた?」
マネージャーが問う。
「はい。でも、今はもう――恐くない」
16歳のとき、何も守れなかった自分。
でも、今の私は、言葉で戦う術を持っている。
私を捨てた男が、嘘をついて、綺麗な顔で“業界”に居座るのなら――
その仮面を剥がしてやるだけだ。
――その頃。
東條遼真の事務所では、幹部が顔を青ざめさせていた。
「……録音されてたって……本当か?」
「会見内容と完全に矛盾してる。これ、名誉毀損じゃなくて、逆に訴えられるぞ」
「スポンサーが離れる……これは、やばい……!」
そして、遼真本人はというと――
自室のテレビで、ネット配信ニュースの速報を呆然と見つめていた。
《【速報】朱音マリア、録音テープ公開で“業界の闇”を暴露――東條遼真の発言が波紋》
画面の中の自分の笑顔が、まるで他人のように見えた。
「……なんで……」
手は震え、汗が止まらない。
“加害者”が“被害者の顔”をするとき、世界はしばし騙される。
だが、“記録”は真実を裏切らない。
マリアはその事実を、静かに世間に示した。
復讐は、次の段階へ――“彼を超える演技”と“作品”でトドメを刺す。
その決意が、彼女の眼差しに灯っていた。




