第10話:東條遼真、記者会見――“復讐される側”が口にする嘘
都内某ホテルの会見場。
白いスーツに身を包んだ東條遼真は、カメラのフラッシュを浴びながら、マイクの前に立っていた。
テレビ局、芸能記者、スポーツ紙、ネットメディア。
大手から無名まで、会場は超満員だった。
彼の目的はひとつ――
“過去の書き換え”。
復讐者になる前に、被害者を演じる。
それが、遼真の選んだやり方だった。
「本日は、突然の会見にお越しいただき、ありがとうございます」
頭を下げた彼は、涼しい顔で語り始めた。
「最近、“ある女優”の名前が話題に上がっています。ですがその方と、過去に“交際していた”という一部の噂については、正直、私にも困惑しています」
会場に微かなざわめき。
「たしかに、仕事で何度か共演しました。ですが、交際というほどの関係ではなかったと、私は認識しています。……そして、彼女が芸能界を離れるきっかけになった一件についても、僕は関与していません」
静かな口調、だが明確な“否定”。
言葉の節々に、責任を回避する巧妙なニュアンスが仕込まれている。
「……彼女は、若くして注目されていましたが、精神的に不安定な面がありました。演出家に強く反発したり、突然現場から姿を消したり……。正直、心配していました」
――“彼女自身に問題があった”。
そう印象づける言葉が、記者たちのノートに刻まれていく。
だが、そのとき――。
「質問、いいですか?」
一人の記者が、手を挙げた。
20代後半、女性。胸には「TNTニュース」の記者証。
地方局だが、演劇業界に明るく、マリアとも旧知のスタッフが多い局だ。
「お名前を失礼ながら伺っても?」
「藤崎です。……質問は、ひとつです」
彼女はまっすぐ遼真を見つめた。
「“彼女”が16歳で舞台を離れたとき、あなたが上層部に“彼女は主演の器じゃない”と強く進言した、という証言がありますが。否定されますか?」
遼真の表情が、一瞬だけ揺れた。
「……僕は、彼女を守るために発言したつもりです」
「ではなぜ、その発言が彼女を契約解除に追い込んだのか。
“結果として潰した”と見られることについて、どう説明されますか?」
藤崎の声は落ち着いているが、鋭い。
だが遼真は、平然とした顔で言った。
「僕は、彼女の才能を否定したわけじゃありません。ただ……周囲の期待に応えるには、まだ未熟だった。それが真実です」
それが“真実”?
その言葉を、私は別室のモニターで見ていた。
ホテルの一室。マネージャーと共に、会見をリアルタイムで確認していた。
私の唇がわずかに震える。
――これが、遼真のやり方。
巧妙に、汚く、責任のすべてを“曖昧”にして自分だけが傷つかない場所へ退避する。
3年前もそうだった。
私は守られなかった。
言葉も、立場も、才能も、恋も。すべてをあの男に奪われて――
だが、今は違う。
私はバッグから、ある封筒を取り出す。
中には――「あの日」の音声記録。
16歳の私が、控え室で遼真と話したときのもの。
「お前は主役の顔じゃない。俺の顔に泥塗るなよ」
「東條さん、それって……」
「もう終わりだよ、茉莉。お前はここまでだ」
それを私は、ICレコーダーに複製して持っている。
「……出すんですか?」
マネージャーが問う。
私は静かに頷いた。
「ええ。“被害者”の顔をした彼に、“加害者”の声を聞かせる時です」
復讐は、ついに核心へ。
次は、私が“舞台”に立つ番だ。




