↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
96/225

兄弟

遠くに鉱山施設が見えてきた。

古い。

放棄されている。

長年の砂漠の砂に半ば埋もれていた。

だが、レイモンドには――

楽園にすら見えた。

「あそこだ!」

リヴァースが指さす。

「全員、中へ入れろ!」

生き残った民間人たちが走る。

動ける者が、動けない者を助けた。

親たちは子供を抱える。

負傷者同士で支え合う。

レイモンドはリヴァースとともに後方へ残った。

そして、二人と民間人たちの間を――

ベゼルカーが進んでくる。

**ズゥン。**

**ズゥン。**

レイモンドの手の中でライフルが震えていた。

恐怖ではない。

疲労だった。

弾薬はほとんど残っていない。

装甲も損傷している。

全身の筋肉が悲鳴を上げていた。

リヴァースも大差ない。

レイモンドが横目で見る。

「残弾は?」

リヴァースが確認する。

「足りない」

「爆薬は?」

「二つ」

レイモンドはベゼルカーを見る。

「最高だな」

リヴァースがかすかに笑う。

「軍に入りたいって言ったのはお前だろ」

レイモンドが睨む。

「あんたが俺を勧誘したんだろ!」

「細かいことはいい」

こんな状況なのに――

レイモンドは笑った。

短く、一度だけ。

それだけだった。

次の瞬間、ベゼルカーが加速した。

「敵襲!」

二人が発砲する。

**ダダダダダッ!**

弾丸が装甲へ命中する。

何も起きない。

レイモンドが右へ動く。

ベゼルカーは即座に向きを変えた。

レイモンドが止まる。

分かっている。

逆方向へ切り返す。

それすら先読みされた。

「リヴァース!」

「見えてる!」

機械はもう、武器に適応しているだけではなかった。

*彼ら自身*に適応している。

レイモンドが上を狙って撃つ。

ベゼルカーが頭部を守る。

リヴァースが下を撃つ。

最初の弾が届く前に、ベゼルカーは姿勢を変えた。

レイモンドの目が見開かれる。

「俺たちの攻撃パターンを覚えてる」

「なら変えろ!」

「何に!?」

「何でもいい!」

レイモンドが撃つのをやめた。

ベゼルカーがためらった。

ほんの一瞬だけ。

レイモンドは見逃さなかった。

「待て」

リヴァースが見る。

「何だ?」

レイモンドは鉱山施設の天井へ発砲した。

**ダダダッ!**

金属製の支柱が弾ける。

ベゼルカーが音の方向へ向いた。

レイモンドの目が見開かれる。

「これだ」

「何が?」

「あいつは俺たちを予測してる」

レイモンドが指さす。

「だったら、予測できないことをすればいい」

リヴァースは理解した。

残った爆薬の一つを投げる。

ベゼルカーへではない。

その背後へ。

**ドォン!**

爆発に機械が反応する。

振り返った。

レイモンドは反対方向へ走る。

「行くぞ!」

リヴァースも続いた。

初めて――

二人はベゼルカーを惑わせた。

ほんの一瞬。

だが、その一瞬で十分だった。

鉱山施設の中では――

民間人たちが古い処理区画に集まっていた。

その中に一人のレッドハット兵がいる。

若い。

レイモンドとほとんど歳も変わらない。

片腕を負傷していた。

武器はない。

レイモンドが入ると、兵士はすぐ身構えた。

レイモンドがライフルを構える。

若い男が彼を見つめた。

どちらも動かない。

やがて、レイモンドが銃を下ろした。

「出口はいくつある?」

兵士が瞬きをする。

「何?」

「出口だ」

レイモンドが施設内を指す。

「いくつある?」

兵士はためらう。

そして――

「輸送用トンネルがある」

リヴァースがレイモンドの後ろから入ってくる。

「どこにつながってる?」

「南」

「距離は?」

「三キロ」

レイモンドが首を振る。

「遠すぎる」

兵士は続ける。

「採掘用のトロッコがある」

リヴァースが見る。

「動くのか?」

「たぶん」

レイモンドは笑いそうになった。

「たぶん?」

兵士が肩をすくめる。

「ここは二十年前に放棄されたんだ」

外で――

**ズガァァン!**

施設全体が揺れる。

埃が落ちる。

子供たちが悲鳴を上げた。

レイモンドは入口を見る。

ベゼルカーが来た。

「“たぶん”で十分だ」

古い採掘用トロッコは、誰かが少し強くくしゃみをしただけで崩れそうだった。

レイモンドは見つめる。

「これが脱出用の乗り物?」

レッドハット兵が操作席へ乗り込む。

「他に案でも?」

レイモンドが入口を振り返る。

**ドォン!**

また壁が崩れた。

「ない」

家族たちが乗り込む。

リヴァースが手伝う。

レイモンドは操作盤へ向かった。

「どれくらいかかる?」

兵士が必死に操作する。

「電源セルが死んでる」

レイモンドの顔が引きつる。

「動くかもしれないって言っただろ!」

「だから“かもしれない”って!」

「動いてないじゃねえか!」

リヴァースが二人の間へ入る。

「外部電源は使えるか?」

兵士が考える。

「たぶん」

レイモンドが呻く。

「またその言葉か」

リヴァースがレイモンドの装備を指す。

「お前のスーツ」

レイモンドが自分を見る。

軍用エグゾアーマーには緊急用電源セルが搭載されている。

すぐに意味を理解した。

「それ使ったらスーツが死ぬぞ」

「たぶんな」

レイモンドはため息をつく。

「だろうな」

セルを取り外す。

接続する。

トロッコのシステムがちらついた。

**バチッ。**

何も起きない。

レイモンドが睨む。

「頼むぞ……」

照明が点灯した。

**ウィィィン。**

トロッコが起動する。

レイモンドが笑う。

「よし!」

民間人たちが歓声を上げる。

その瞬間――

**ズガシャァァァン!**

ベゼルカーが施設の入口を突き破った。

歓声は消えた。

「行け!」

レッドハット兵がトロッコを作動させる。

動き始めた。

ゆっくり。

あまりにもゆっくり。

レイモンドが見つめる。

「冗談だろ……」

少しずつ速度が上がる。

ベゼルカーがトンネルへ入ってきた。

リヴァースが撃つ。

「行け!」

レイモンドも加わる。

残った弾薬をすべて叩き込む。

それでもベゼルカーは進み続ける。

トロッコが加速する。

レイモンドは最後尾の車両へ向かって後退した。

「リヴァース!」

「今行く!」

ベゼルカーが手すりを掴んだ。

金属を引き剥がす。

そして投げる。

「伏せろ!」

レイモンドが身をかがめる。

**ギャァン!**

手すりが頭上を飛んでいった。

だが、リヴァースは避けきれなかった。

装甲へ直撃する。

**ドガッ!**

壁へ叩きつけられた。

「リヴァース!」

レイモンドが駆け寄る。

ベゼルカーが迫る。

トロッコはどんどん遠ざかっていく。

レイモンドはリヴァースを掴んだ。

「立て!」

リヴァースが呻く。

「脚が……」

レイモンドが見る。

脚部の装甲が潰れていた。

「来い」

引き起こす。

リヴァースが叫んだ。

「ぐあっ!」

「悪い」

レイモンドは肩を貸す。

「ここから出るぞ」

二人は足を引きずりながらトロッコへ向かう。

ベゼルカーとの距離が縮まる。

レイモンドはトロッコまでの距離を見る。

遠すぎる。

間に合わない。

リヴァースも分かっていた。

「レイ」

「嫌だ」

「レイモンド」

「嫌だ」

リヴァースが身体を離した。

レイモンドはまた掴む。

「やめろ」

「お前は行け」

「置いていかない」

「向こうに着いたら、民間人を守る奴が必要だ」

「レッドハットの奴がいる」

「レイモンド」

「もう兄弟を置いていかない!」

リヴァースが彼を見つめる。

背後から――

ベゼルカーが迫る。

**ズゥン。**

突然、リヴァースがレイモンドを殴った。

**ドガッ!**

レイモンドがよろめく。

「何しやがる!?」

リヴァースが胸元の装甲を掴む。

「よく聞け」

その声は震えていた。

「全員を救うなんて無理なんだ」

レイモンドの目に涙が浮かぶ。

「全員で帰るって言っただろ」

リヴァースが笑う。

「俺たちは馬鹿だった」

レイモンドは首を振る。

「違う」

「ああ」

リヴァースは弱々しく笑った。

「馬鹿だったよ」

遠ざかるトロッコを見る。

「でも、あの人たちは帰れる」

レイモンドは彼を見つめる。

リヴァースは認識票を外した。

レイモンドの手へ押し込む。

「あの人たちを帰してやれ」

レイモンドは手元を見る。

そして顔を上げる。

「嫌だ」

リヴァースが彼をトロッコの方向へ突き飛ばした。

「行け!」

レイモンドはよろめきながら追いかける。

そして振り返った。

リヴァースは一人で立っていた。

その背後にはベゼルカー。

リヴァースの装甲には二つの爆薬が残されている。

レイモンドは理解した。

顔から血の気が引く。

「やめろ……」

リヴァースが笑った。

「最初の一杯は、まだお前のおごりだからな」

「リヴァース!」

リヴァースが天井へ発砲する。

トンネルが揺れた。

レイモンドは引き返そうと走る。

「リヴァース!」

リヴァースが起爆装置を押した。

「全員で帰る」

**カチッ。**

**ズガァァァァァァァン!!!**

トンネルが消えた。

レイモンドは前方へ吹き飛ばされる。

「うわああっ!」

岩。

金属。

埃。

炎。

すべてが崩れ落ちる。

衝撃波がレイモンドを最後尾のトロッコへ叩き込んだ。

激しく身体を打ちつける。

そして――

暗闇。

「レイモンド!」

誰かが身体を揺する。

「起きろ!」

レイモンドが目を開けた。

耳鳴りがする。

レッドハット兵が覗き込んでいた。

「聞こえるか?」

レイモンドは瞬きをする。

そして思い出した。

「リヴァース……」

起き上がろうとする。

兵士が止めた。

「寝てろ」

「リヴァース!」

レイモンドは後ろを見る。

背後のトンネルは消えていた。

残っているのは、巨大な崩落した岩壁だけ。

「嫌だ……」

トロッコから降りようとする。

兵士が押さえた。

「もういない」

「嫌だ!」

レイモンドが抵抗する。

「離せ!」

「もういないんだ!」

レイモンドが止まった。

握り締めた拳の中には、認識票が残っている。

クラウド。

ヘンドリックス。

リヴァース。

三組。

レイモンドはそれを見つめた。

兄弟たち。

ほんの数時間前――

酒の話をしていた。

故郷。

エアコン。

それが今では――

残っているのはレイモンドだけ。

指が認識票を握り締める。

彼はうつむいた。

そして泣いた。

数時間後――

軍の輸送車両が到着した。

生き残った民間人たちは無事にサージン地方を脱出していた。

医療班が負傷者を治療する。

レイモンドは装甲車の後部に一人で座っていた。

肩には毛布。

損傷した装甲はすでに外されている。

その手には、まだ認識票が握られていた。

ハイタワー将軍が近づく。

レイモンドは顔を上げなかった。

「ハリソン」

反応なし。

「KB-735K35の破壊を確認した」

レイモンドは地面を見つめたまま。

ハイタワーは続ける。

「洞窟の崩落によって、数千トンの岩石の下に埋まったと見られる」

それでも反応しない。

「地域の安全を確保次第、回収作業を開始する」

ようやくレイモンドが顔を上げた。

「……回収?」

ハイタワーが止まる。

レイモンドが立ち上がった。

「あれを掘り出す気か?」

「軍の所有物だ」

レイモンドは彼を見つめる。

「仲間が死んだ」

ハイタワーの表情は変わらない。

「分かっている」

「違う」

レイモンドが一歩近づく。

「あんたには分かってない」

拳を握る。

「クラウドが死んだ」

さらに一歩。

「ヘンドリックスが死んだ」

もう一歩。

「リヴァースが死んだ」

声が震える。

「それなのに、あんたが気にしてるのはあの機械だけか」

ハイタワーの顎に力が入る。

「彼らは入隊した時点で危険を承知していた」

レイモンドは彼を見つめた。

その瞬間、彼の中で何かが変わった。

かつてハイタワーへ抱いていた敬意は――

死んだ。

「やめろ」

ハイタワーが眉をひそめる。

「何をだ?」

「あいつらの名前を二度と口にするな」

レイモンドは彼の横を通り過ぎる。

「ハリソン」

レイモンドが止まった。

「君はまだ私の指揮下にある」

レイモンドが振り返る。

恐れてはいない。

もう、何も。

「長くはない」

**現在――ギアのガレージ**

誰も口を開かなかった。

レイモンドは床を見つめている。

キランは、これほど小さく見える彼を見たことがなかった。

いつも何があっても壊れそうになかった大男が――

椅子に座り、目に涙を浮かべている。

マッハは沈黙していた。

ギアの顔からも、いつもの冗談めいた表情は完全に消えている。

キランはようやく理解した。

ベゼルカーは、ただの敵ではない。

レイモンドから家族を奪った存在だった。

「レイモンド……」

レイモンドが顔を拭う。

「昔の話だ」

キランが眉をひそめる。

レイモンドが肩をすくめる。

「もう乗り越えた」

誰も信じなかった。

キランも。

マッハも。

ギアも。

おそらく――

レイモンド自身さえ。

ギアが腕を組んだ。

「で……」

全員が彼を見る。

ギアが咳払いする。

「お前らのことは愛してる」

キランが眉を上げる。

ギアはガレージの扉を指さした。

「でも頼むから……」

破壊されたエグゾスーツを見る。

次に、ボロボロになったキランの車椅子。

そして、自分の前に積み上がった膨大な修理作業。

「……俺の店から出ていけ」

沈黙。

レイモンドが彼を見る。

そして――

笑った。

心からの笑いだった。

小さく。

疲れ切っている。

それでも、本物だった。

キランが微笑む。

マッハも。

ギアが肩をすくめる。

「何だよ?」

「本気だぞ」

キランが出口へ向かう。

「行こう、レイモンド」

レイモンドが立ち上がった。

キランが振り返る。

ほんの一瞬――

レイモンドは損傷したエグゾスーツを見つめた。

そして後を追った。

だが、ガレージを出る時――

その手がポケットへ入る。

中には、三組の古い認識票。

ずっと持っていた。

何年もの間。

そして、シトロン・シティの光の下のどこかで――

ベゼルカーはまだ生きている。

まだ適応を続けている。

まだ狩り続けている。

そして今度は――

レイモンドには、あいつが誰を狙っているのか分かっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。