全員で帰る
**ズガァァァン!**
レイモンドは地面へ叩きつけられた。
耳鳴りがする。
砂埃が空洞を飲み込んだ。
数秒間、何も見えなかった。
「リヴァース!」
返事はない。
レイモンドは肘をついて身体を起こした。
肺が焼けるように痛む。
「クラウド!?」
「いるぞ!」
左のどこかから声がした。
「ヘンドリックス!?」
「ゴホッ……ああ!」
少しずつ視界が戻る。
洞窟の壁には巨大なクレーターが穿たれていた。
数メートル先にリヴァースが倒れている。
「リヴァース!」
レイモンドが慌てて駆け寄った。
リヴァースが呻く。
「大丈夫だ」
「本当か?」
「大丈夫だって言ってる」
レイモンドは腕を掴み、彼を起こした。
近くでは――
クラウドが民間人の女性を立たせていた。
ヘンドリックスは数人の子供たちと砂埃の間に立っている。
誰も直撃は受けていなかった。
ベゼルカーの攻撃は外れた。
本当に、紙一重で。
レイモンドは煙の中を見る。
赤い目が二つ浮かび上がった。
胃が沈む。
ベゼルカーが前へ出る。
**ズゥン。**
リヴァースがライフルを構えた。
「全員、俺たちの後ろへ!」
民間人たちが慌てて空洞の奥へ逃げる。
クラウドがベゼルカーへ照準を合わせた。
「で……」
レイモンドを見る。
「……誰かアイデアある?」
ヘンドリックスが武器を確認する。
「ああ」
銃を構えた。
「撃つ」
レイモンドは彼を見つめた。
「弾が効かなくなったの見てなかったのか?」
「他に何かあるか?」
ベゼルカーが突進する。
「ない!」
四人が一斉射撃した。
**ダダダダダダッ!**
弾丸がベゼルカーへ命中する。
装甲がすべて吸収した。
レイモンドが後退する。
「トンネルへ向かえ!」
四人は撃ちながら後退する。
ベゼルカーは止まらない。
リヴァースが通信機へ叫んだ。
「司令部、こちらリヴァース!」
ノイズ。
「KB-735K35が敵対行動を開始した!」
返事はない。
「ハイタワー!」
ようやく――
『命令は任務を完遂することだ』
リヴァースは通信機を見つめた。
「……何?」
『民間人はレッドハット戦闘員と関係している』
レイモンドの目が見開かれる。
リヴァースの表情が険しくなった。
「非戦闘員です」
『敵軍を支援している』
「ここには子供もいるんだぞ!」
間。
そしてハイタワーが答えた。
『任務を完遂しろ』
通信が切れた。
クラウドが呆然とする。
「今、あいつ……」
「ああ」
リヴァースが通信機を下ろす。
「言った」
ベゼルカーは近づき続けている。
リヴァースは仲間たちを見る。
そして、背後で怯える家族たちを見る。
決断には一秒もかからなかった。
「任務変更だ」
レイモンドは待った。
「この人たちを脱出させる」
ヘンドリックスが頷く。
クラウドが険しい笑みを浮かべた。
「今度こそ、まともな命令だ」
レイモンドがライフルを構える。
「全員で帰る」
リヴァースが彼を見る。
ほんの一瞬――
笑った。
「全員で」
奥へ続くトンネルは狭かった。
それが幸いした。
ベゼルカーも全速力で突進することはできない。
だが――
**ズガァァン!**
どうやら壁は、大した障害ではないらしい。
洞窟が揺れる。
民間人たちが悲鳴を上げた。
レイモンドが振り返る。
ベゼルカーがまた岩壁を突き破った。
「止まるな!」
クラウドが家族たちを誘導する。
「こっちだ!」
ヘンドリックスは後方に残っていた。
「レイ!」
レイモンドが振り返る。
「トンネルを崩せると思うか?」
レイモンドが上を見る。
ひび割れた岩。
緩んだ支柱。
いけるかもしれない。
「爆薬は?」
ヘンドリックスが笑う。
「ようやく俺の得意分野だな」
爆薬を二つ取り出す。
リヴァースもすぐ理解した。
「やれ」
ヘンドリックスが壁へ仕掛ける。
「三十秒!」
レイモンドはベゼルカーを見る。
近づいている。
近すぎる。
「三十秒もないぞ!」
前方からクラウドが叫ぶ。
「じゃあ、ゆっくり歩けって頼め!」
「名案だ!」
レイモンドがベゼルカーへ発砲する。
「おい!」
機械の目が彼を捉えた。
レイモンドは即座に後悔した。
「俺を捕まえてみろ!」
ベゼルカーが加速する。
レイモンドは走った。
「やっぱ悪手だ! 悪手だった!」
クラウドが大笑いする。
「作戦があるんじゃなかったのか!?」
「これが作戦だよ!」
「最悪の作戦だな!」
「黙れ!」
爆薬の位置を通過する。
ヘンドリックスが起爆装置を握った。
「五!」
ベゼルカーがトンネルへ入る。
「四!」
レイモンドが走る。
「三!」
ベゼルカーが手を伸ばす。
「二!」
レイモンドが飛び込む。
「一!」
**ズガァァァァン!**
トンネルが崩落した。
岩石が落ちる。
背後に巨大な岩壁ができた。
沈黙。
全員が止まった。
砂埃が漂う。
レイモンドは仰向けになる。
「頼むから、成功したって言ってくれ」
クラウドが上から覗き込む。
「成功したぞ」
レイモンドが笑う。
その時――
**ズゥン。**
笑顔が消えた。
ヘンドリックスが瓦礫を見る。
「嘘だろ」
**ズゥン。**
小石が転がり落ちる。
**ズゥン。**
崩れた岩に亀裂が走った。
リヴァースの表情が沈む。
「行くぞ」
**ズガシャァァァン!**
巨大な装甲の手が瓦礫を突き破った。
人々が悲鳴を上げる。
レイモンドは呆然とした。
「冗談だろ……」
ベゼルカーが崩落したトンネルを破壊して出てくる。
装甲はまた変化していた。
補強。
適応。
ヘンドリックスは、なぜか腹を立てているようだった。
「あれ、結構な量の爆薬だったんだぞ」
「文句は後だ!」
全員が走った。
やがてトンネルが二手に分かれた。
一方はさらに地下へ。
もう一方は地上へ向かって上っている。
リヴァースが地図を確認する。
「上の通路は古い換気口につながってる」
レイモンドが家族たちを見る。
「全員通れるか?」
「ほとんどは」
一人の女性が小さな子供を抱いている。
「残りは?」
リヴァースは狭い部分を見る。
それから人々を見た。
「何としてでも通す」
クラウドが先へ進む。
「さあ、行け!」
民間人たちが登り始めた。
レイモンドは分隊とともに後方へ残る。
ベゼルカーの足音が洞窟に響く。
近い。
さらに近い。
クラウドがレイモンドを見る。
「なあ」
「何?」
「もしここから出られたら――」
「出られたら、じゃない」
クラウドが瞬きをする。
レイモンドが言い直す。
「ここから出たら、だ」
クラウドが笑った。
「分かったよ」
ライフルを構える。
「ここから出たら……」
ニヤリとする。
「……最初の一杯、お前のおごりだからな」
レイモンドが笑った。
「ああ」
ヘンドリックスがこちらを見る。
「俺は高いやつ頼むぞ」
「お前はいつもそうだろ」
リヴァースが首を振る。
「まず生き延びてからにしないか?」
クラウドが肩をすくめる。
「同時進行」
ほんの一瞬――
彼らはいつもの自分たちに戻っていた。
四人の兵士。
四人の兄弟。
そして、ベゼルカーが現れた。
「敵襲!」
四人が一斉射撃する。
弾丸はほとんど効かない。
だが、それでよかった。
目的はベゼルカーを倒すことではない。
足止めすること。
一秒一秒が重要だった。
「あと何人だ!?」
レイモンドが叫ぶ。
クラウドが脱出口を見る。
「九人!」
ベゼルカーが腕を振るう。
ヘンドリックスが身をかがめる。
拳が壁へ叩き込まれた。
「八!」
レイモンドがベゼルカーの顔へ撃つ。
頭が後ろへ跳ねる。
「七!」
リヴァースが手榴弾を投げる。
**ドォン!**
ベゼルカーが爆発に飲まれる。
「六!」
機械が煙の中から現れた。
「なんで何やっても死なねえんだよ!?」
「五!」
怯えた父親が娘を狭い通路へ押し上げる。
「四!」
ベゼルカーがヘンドリックスを掴んだ。
「ヘンドリックス!」
持ち上げる。
ヘンドリックスは機械の目を見た。
「……スナット」
レイモンドが撃つ。
クラウドも撃つ。
リヴァースも撃つ。
ベゼルカーが振り向く。
ヘンドリックスは手榴弾をその胸部へ直接押しつけた。
笑う。
「受け取れ」
**ドォン!**
ベゼルカーが彼を離した。
ヘンドリックスが地面へ落ちる。
レイモンドが掴む。
「三!」
「……痛え」
「当たり前だろ!?」
「二!」
最後の女性が登る。
足が引っかかった。
「助けて!」
クラウドが駆け寄る。
ベゼルカーが立ち直った。
レイモンドには見えた。
「クラウド!」
クラウドが女性の足を引き抜く。
「行け!」
女性が通路の奥へ消える。
「一!」
クラウドが振り向いた。
ベゼルカーは、すでにそこにいた。
レイモンドの目が見開かれる。
「やめろ!」
ベゼルカーの腕が振るわれた。
**ドガッ!**
クラウドが吹き飛んだ。
身体が洞窟の壁へ激突する。
激しく。
「クラウド!」
レイモンドが走る。
クラウドが崩れ落ちた。
レイモンドは隣へ膝をつく。
「おい」
反応なし。
「クラウド」
身体を掴む。
「ほら」
何もない。
「立てよ」
リヴァースが近くで止まった。
表情が変わる。
レイモンドはクラウドを揺さぶる。
「なあ……」
ヘンドリックスがゆっくり武器を下ろす。
レイモンドの声が震えた。
「まだ酒、飲みたいんだろ?」
クラウドは動かない。
「クラウド……」
ベゼルカーが近づく。
**ズゥン。**
リヴァースがレイモンドを掴んだ。
「行くぞ」
レイモンドが振り払う。
「嫌だ」
「レイモンド」
「嫌だ!」
リヴァースがさらに強く掴む。
「もう死んでる!」
レイモンドが固まった。
その言葉は、ベゼルカーのどんな攻撃よりも深く突き刺さった。
「そんな……」
ベゼルカーが迫る。
ヘンドリックスが発砲する。
「行くぞ!」
リヴァースがレイモンドを引き離した。
レイモンドは後ろを見つめる。
クラウドは洞窟の床に横たわっていた。
動かない。
ほんの数分前まで一緒に笑っていた男。
帰ったらレイモンドに酒をおごらせると勝手に決めていた男。
もういない。
ベゼルカーはその身体の横を通り過ぎた。
見下ろしもしない。
何も感じずに。
レイモンドの悲しみが怒りへ変わった。
ライフルを構える。
「この野郎――」
リヴァースが銃口を叩き下ろした。
「やめろ!」
レイモンドが睨む。
「民間人を守るんだ!」
その言葉で止まった。
リヴァースが脱出通路を指さす。
「クラウドが時間を稼いでくれた」
声が強くなる。
「無駄にするな」
レイモンドは最後にもう一度だけ振り返った。
そして――
走った。
生き残った民間人たちは地上へ到着した。
夜になっていた。
砂漠が周囲に広がっている。
レイモンドが最後に這い出る。
リヴァースはすぐに人数を数え始めた。
ヘンドリックスが洞窟の入口を見る。
「輸送手段が必要だ」
レイモンドが通信機を掴む。
「司令部」
返事なし。
「司令部、こちらハリソン」
ノイズ。
「民間人がいる。至急、救出用の輸送手段を要請する」
ようやく――
ハイタワーが答えた。
『任務内容に民間人の救出は含まれていない』
レイモンドは通信機を見つめた。
ヘンドリックスの口が開く。
リヴァースもゆっくり振り向いた。
レイモンドは慎重に言った。
「輸送手段が必要だ」
『却下する』
信じられなかった。
「ここは敵地だぞ!」
『君たちは与えられた作戦目標を放棄した』
「その作戦目標が民間人を殺し始めたんだ!」
『KB-735K35は設定された脅威パラメータの範囲内で行動していた』
レイモンドは黙った。
「俺たちもだ」
沈黙。
そして――
ハイタワーの声がさらに冷たくなる。
『基地へ帰還しろ』
レイモンドは家族たちを見る。
負傷している者もいる。
子供たちは泣いていた。
この状態で何キロも砂漠を歩かせることなどできない。
「置いてはいかない」
『命令だ、二等兵』
レイモンドの目が細くなる。
「なら、その命令には従わない」
通信を切った。
ヘンドリックスが彼を見る。
「今、将軍の通信を切ったのか?」
レイモンドは通信機をリヴァースへ渡した。
「電波が切れた」
リヴァースが笑いそうになる。
「通信状態が悪いな」
その時――
洞窟から咆哮が響いた。
**グルルルラァァァァァッ!**
全員が凍りつく。
レイモンドが振り向いた。
ベゼルカーが姿を現した。
装甲は埃まみれ。
身体には損傷。
それでも動いている。
まだ狩り続けている。
ヘンドリックスが民間人を見る。
そして、何も遮るもののない砂漠を見る。
「隠れる場所がない」
リヴァースが地形を確認する。
「ここから東に廃鉱山施設がある」
「距離は?」
「二キロ」
レイモンドがベゼルカーを見る。
「二キロなんて無理だ」
リヴァースが武器を構える。
「なら、時間を稼ぐ」
レイモンドは彼を見る。
リヴァースはヘンドリックスを見る。
そしてレイモンド。
「ここで食い止める」
ヘンドリックスが頷く。
レイモンドは頷かなかった。
「もうクラウドを失った」
リヴァースの表情が和らぐ。
「分かってる」
「もう誰も失いたくない」
「レイ――」
「全員で帰るんだ」
リヴァースは彼を見つめた。
レイモンドの目は濡れていた。
「あんたが言ったんだろ」
リヴァースは答えなかった。
三人とも、もう分かっていたからだ。
全員が帰ることはない。
それでも――
彼らは戦った。
レイモンドが撃つ。
ヘンドリックスが爆薬を投げる。
リヴァースが民間人たちを遠くの鉱山施設へ誘導する。
ベゼルカーは適応する。
何度も。
何度も。
何度も。
武器は一つずつ効かなくなる。
戦術は一つずつ通用する時間が短くなる。
レイモンドはようやく、ベゼルカーの本当の恐ろしさを理解した。
ただ強いだけではない。
あいつは、*彼ら自身*を学習していた。
癖。
陣形。
本能。
ヘンドリックスが左へ動けば――
ベゼルカーは先読みする。
リヴァースが注意を引こうとすれば――
無視する。
レイモンドが遮蔽物の後ろから撃とうとすれば――
発砲する前に遮蔽物そのものを攻撃する。
あいつは彼らの思考を学んでいる。
「レイモンド!」
振り向く。
遅かった。
ベゼルカーがヘンドリックスを掴んだ。
レイモンドの胃が沈む。
「ヘンドリックス!」
ヘンドリックスが暴れる。
「離せ!」
ベゼルカーの握力が強まる。
レイモンドが撃つ。
効かない。
リヴァースも撃つ。
効かない。
ヘンドリックスが二人を見る。
レイモンドが彼を知って以来、初めて――
その顔に恐怖があった。
「お前ら……」
ベゼルカーの握力がさらに強まる。
レイモンドが叫ぶ。
「離せ!」
ヘンドリックスとレイモンドの目が合う。
そして――
**ゴキッ!**
身体から力が抜けた。
レイモンドが止まる。
すべての音が消えたように感じた。
ベゼルカーが彼を離す。
ヘンドリックスの身体が地面へ落ちた。
レイモンドは見つめる。
クラウド。
そして今度はヘンドリックス。
ベゼルカーがこちらを向く。
赤い目が闇の中で燃えている。
レイモンドがライフルを構えた。
リヴァースが彼を掴む。
「レイモンド!」
レイモンドが振り払う。
「あいつを殺す!」
「無理だ!」
「絶対に――」
「無理なんだ!」
リヴァースがレイモンドを突き飛ばす。
レイモンドが彼を見る。
リヴァースは逃げていく民間人たちを指した。
「あの人たちはまだ生きてる!」
レイモンドの呼吸が荒くなる。
リヴァースが両肩を掴む。
「あいつらの死を無駄にしたくないだろ?」
レイモンドは自分の手に握られたクラウドの認識票を見る。
そしてヘンドリックスを見る。
リヴァースは続けた。
「あの人たちを逃がせ」
ベゼルカーが近づく。
リヴァースがライフルを構えた。
レイ




