戦うな
ベゼルカーはキランを見つめた。
キランも見返す。
およそ二秒間――
誰も動かなかった。
次の瞬間、ベゼルカーが突進した。
**ズゥン! ズゥン! ズゥン!**
キランの目が見開かれる。
「うおっ!」
スラスターが点火した。
**ゴォッ!**
キランが上空へ飛び上がった直後、ベゼルカーの拳が背後の壁へ叩き込まれた。
**ズガァァン!**
コンクリートが爆ぜる。
マッハが彼の隣を飛ぶ。
「十分すぎるほど注意を引くことには成功したようです!」
「それが狙いだった!」
キランは壁にできた巨大な穴を見る。
「もう後悔し始めてるけど!」
ベゼルカーが振り向く。
キランのプラズマキャノンが照準を合わせた。
レイモンドは、彼が何をしようとしているのか即座に悟った。
「キラン、やめろ!」
遅かった。
**バシュッ! バシュッ!**
二発のプラズマ弾がベゼルカーの胸部に命中した。
機械がよろめく。
キランが笑う。
「ほらな?」
ベゼルカーが姿勢を戻す。
装甲が動いた。
機械のプレートが胸部を覆うように再配置される。
マッハのセンサーが点滅した。
「……まずいですね」
キランがもう一度撃つ。
**バシュッ!**
プラズマ弾がベゼルカーに命中する。
今度は――
何も起こらなかった。
プラズマは装甲の表面で無害に拡散した。
キランの笑顔が消える。
「……あ」
レイモンドが駆け寄る。
「だからずっと言ってるだろ!」
ベゼルカーの目が光った。
**プラズマ兵器解析完了。**
**防御適応完了。**
キランはゆっくり後退する。
「じゃあ、ギアのアップグレードも役に立たないってことか」
「あいつ相手じゃな」
レイモンドは首を振る。
「いずれ、何もかも通用しなくなる!」
ベゼルカーが腕を上げた。
武器が展開される。
マッハがエネルギーの急上昇を検知した。
「避けて!」
**ブォォン!**
キランが急降下する。
攻撃が廊下を貫いた。
兵士たちが左右へ飛び退く。
キランは空中で回転した。
「よし!」
姿勢を立て直す。
「別の作戦が必要だ!」
防衛線の後方からハイタワー将軍が叫ぶ。
「重火器を出せ!」
レイモンドの目が見開かれた。
「やめろ!」
兵士たちが巨大な砲を運び込む。
レイモンドはハイタワーへ振り向いた。
「俺の話、何一つ聞いてないのか!?」
ハイタワーは無視した。
「撃て!」
**ドゴォォン!**
砲弾がベゼルカーへ直撃した。
爆発がその巨体を飲み込む。
煙が廊下を埋め尽くした。
キランは見つめる。
一瞬――
何も動かなかった。
一人の兵士が笑った。
「やったぞ」
レイモンドの険しい表情は変わらない。
「いや、やってない」
煙の中に赤い光が一つ浮かんだ。
そして、もう一つ。
ベゼルカーが歩み出る。
装甲は焦げていた。
損傷もしている。
だが、健在だった。
兵士たちの笑顔が消えた。
装甲の下で機械部品が動く。
損傷箇所が変形する。
補強される。
適応する。
キランは信じられないという顔で見た。
「今のまで学習したのか?」
レイモンドが彼を見る。
「だから逃げろって言ってる意味が分かったか?」
ベゼルカーが突進する。
「下がれ!」
兵士たちが散開した。
ベゼルカーが砲へ激突する。
**ガァン!**
巨大な兵器が廊下の向こうへ吹き飛んだ。
ハイタワーは間一髪で避ける。
キランがスラスターを噴射した。
横からベゼルカーへ体当たりする。
**ドガッ!**
「ぐっ!」
衝撃でキラン自身が車椅子から投げ出されそうになった。
ベゼルカーはほとんど動いていない。
ゆっくりと首だけをキランへ向けた。
キランの目が見開かれる。
「……どうも」
ベゼルカーが車椅子の前部を掴んだ。
「やば」
マッハが即座に攻撃する。
「彼を離せ!」
ベゼルカーの腕へ体当たりした。
何も起きない。
ベゼルカーがキランを持ち上げる。
車椅子ごと。
突然、キランは床から数メートルの高さへ持ち上げられた。
「レイモンド!」
ベゼルカーが彼を投げ飛ばす。
**ブォン!**
キランは廊下の向こうへ吹っ飛んだ。
マッハが追う。
キランのシールドが展開する。
**ズガァァン!**
セキュリティドアを突き破った。
さらにもう一枚。
**ガシャァン!**
ようやく――
車椅子が床へ叩きつけられた。
キランが呻く。
「いてて……」
マッハが隣へ飛んでくる。
「キラン!」
車椅子のシステムが明滅する。
キランは咳き込んだ。
「大丈夫」
マッハがスキャンする。
「あなたの『大丈夫』の定義は非常に興味深いですね」
キランは破壊された出入口を見る。
ベゼルカーが来る。
ゆっくりと。
**ズゥン。**
**ズゥン。**
**ズゥン。**
キランが唾を飲み込む。
「何かアイデアある?」
マッハの表情が珍しく真剣になった。
「あります」
キランは待つ。
「逃げましょう」
キランは彼を見つめた。
そして――
「採用」
スラスターが点火した。
二人はクリーガー軍事基地を疾走する。
ベゼルカーが追う。
速くはない。
速くある必要がなかった。
キランがどの廊下へ逃げ込んでも――
ベゼルカーは間にあるものを破壊して一直線に進んでくる。
壁。
セキュリティドア。
バリケード。
何一つ長くは足止めできなかった。
キランが後ろを見る。
**ズガァァン!**
また壁が崩壊する。
「こいつイカれてるだろ!」
マッハが隣を飛ぶ。
「厳密には、設計通りに機能していると思われます」
「そのほうが最悪だよ!」
キランが角を曲がる。
前方に兵士たち。
武器を構えている。
「撃つな!」
キランが叫ぶ。
「撃つ――」
**ダダダダダダッ!**
銃撃が彼の頭上を飛んだ。
キランが身を低くする。
弾丸がベゼルカーへ命中する。
装甲が即座に解析を開始した。
キランが呻く。
「強くしてどうするんだよ!」
兵士たちが射撃を止めた。
遅すぎた。
ベゼルカーが突進する。
キランが振り向く。
「どけ!」
全員が散開した。
機械が陣地を突き破る。
キランは別の出入口へ飛び込んだ。
その時――
マッハが後ろを見る。
「キラン」
「何?」
「追ってきていません」
キランは速度を落とした。
後ろを見る。
何もない。
足音もない。
唸り声もない。
爆発もない。
ただの静寂。
キランは嫌な予感がした。
「どこ行った?」
レイモンドには分かっていた。
彼は別の廊下に立っていた。
一人で。
照明が明滅する。
エグゾスーツはない。
クリーガー軍事基地へ来る時、必要になるとは思っていなかった。
何年ぶりだろう。
彼は再び、バランにいた頃の若い兵士に戻ったような気がした。
装備不足。
恐怖。
暗闇の中で、何かに見つけられるのを待っている。
**ズゥン。**
レイモンドは目を閉じた。
来た。
**ズゥン。**
目を開ける。
ベゼルカーが角から姿を現した。
赤い目が彼を捉える。
「レイモンド」
レイモンドは動かなかった。
ベゼルカーが近づく。
「レイモンド・ハリソン」
レイモンドの呼吸が速くなる。
記憶が脳裏を駆け巡った。
笑っているクラウド。
文句を言っているヘンドリックス。
隣に座るリヴァース。
銃声。
血。
暗闇。
崩落する洞窟。
レイモンドは無理やり記憶を振り払った。
「俺はもう、あの頃のガキじゃない」
ベゼルカーは前進し続ける。
レイモンドは拳を握った。
「もうお前なんか怖くねえ」
震える両手が、その言葉を否定していた。
ベゼルカーが止まる。
首を傾げた。
そして――
「リヴァース」
レイモンドが凍りついた。
顔から完全に血の気が引く。
ベゼルカーは覚えていた。
レイモンドだけではない。
彼らを。
全員を。
レイモンドの声が低くなる。
「やめろ」
「リヴァース」
「そいつの名前を言うな」
ベゼルカーの目が強く光る。
「リヴァース:排除済み」
レイモンドの恐怖が怒りへ変わった。
「黙れ!」
彼は突進した。
ベゼルカーは動かない。
レイモンドが拳を振るう。
顎へ直撃した。
**ガキッ!**
激痛が手を走る。
ベゼルカーの頭はほとんど動かなかった。
レイモンドは呆然とする。
次の瞬間、ベゼルカーが殴った。
**ドガッ!**
レイモンドが吹き飛ぶ。
壁へ激突した。
「ぐっ!」
ベゼルカーが近づく。
レイモンドは必死に立ち上がろうとする。
機械が拳を上げた。
その時――
**バシュッ!**
プラズマ弾が肩へ命中した。
ベゼルカーが振り向く。
廊下の反対側にキランが浮いていた。
レイモンドの目が見開かれる。
「クソッ、キラン!」
キランはキャノンを構えたまま。
「助けが必要そうだったから」
「出ていけって言っただろ!」
「俺が人の話聞かないの知ってるだろ!」
ベゼルカーが突進する。
キランが撃つ。
だが、もうプラズマは効かない。
攻撃は装甲から弾かれた。
「そうだった」
キランは後退する。
「忘れてた」
ベゼルカーが拳を振るう。
キランがかわす。
レイモンドには次の攻撃が見えた。
ベゼルカーの反対の手がキランへ伸びる。
速い。
速すぎる。
レイモンドの胃が沈む。
「キラン!」
ベゼルカーが殴った。
**ズガァァン!**
間一髪でキランのシールドが展開した。
だが衝撃で、そのまま天井を突き破る。
コンクリートが爆発する。
マッハが追った。
レイモンドは上を見つめる。
「やめろ!」
走り出した。
キランは上階の格納庫へ飛び出した。
車椅子が回転する。
「うわああああっ!」
マッハが隣を飛ぶ。
「姿勢制御!」
ようやく車椅子が安定した。
キランが息をつく。
その時――
**ズガシャァン!**
ベゼルカーが床を突き破って飛び上がってきた。
キランは呆然とした。
「嘘だろ……」
機械が着地する。
**ズゥン!**
航空機の整備員たちが逃げ出した。
キランが後退する。
ベゼルカーが近づく。
マッハのセンサーが高速で選択肢を探す。
「プラズマ、無効」
「うん」
「弾道兵器、無効」
「うん」
「エネルギーバリア、無効」
「分かってきたから、マッハ!」
ベゼルカーが突進する。
キランは後方へ飛ぶ。
マッハが突然、開いている格納庫の扉を見た。
「外へ!」
キランも理解する。
「広い場所なら!」
二人は空へ飛び出した。
ベゼルカーが格納庫の端まで走る。
そして跳んだ。
キランの目が見開かれる。
「おい、マジかよ!」
ベゼルカーが車椅子の底を掴んだ。
「うおっ!」
追加された重量でキランが引きずり下ろされる。
マッハがベゼルカーの腕を掴む。
「離せ!」
キランのスラスターが悲鳴を上げる。
それでも足りない。
地面が急速に迫る。
そして――
**ドォォン!**
三人とも基地の中庭へ墜落した。
キランのシールドが衝撃の大半を吸収する。
大半を。
「ぐっ!」
車椅子が地面を転がった。
マッハが近くへ着地する。
ベゼ




