バランから来たもの
唸り声が室内に響き渡った。
**グルルルルル……**
レイモンドは動かなかった。
ベゼルカーも。
何センチもの厚さがある強化ガラスを挟み、ただ互いを見つめていた。
キランは二人を交互に見る。
彼はこれまで、レイモンドが犯罪者と対峙する姿を見てきた。
ロボット。
爆発。
ザイラとジャリック・ラインハルト。
建物が崩れ落ちる中でもレイモンドはキランの隣に立ち、死の危険すら面倒事程度に扱ってきた。
だが今――
その手は震えていた。
「レイモンド?」
返事はない。
キランが近づく。
「レイモンド」
ようやくレイモンドが瞬きをした。
それでも視線はベゼルカーから離れない。
「ここを出るぞ」
ハイタワー将軍が眉をひそめる。
「まだ始めたばかりだ」
レイモンドが彼を見る。
「出るって言ったんだ」
キランは、彼がそんな声を出すのを聞いたことがなかった。
怒りではない。
恐怖。
ハイタワーはまるで動じなかった。
「君を呼んだのは、協力が必要だからだ」
「俺の協力?」
レイモンドが笑った。
だが、そこには何一つおかしなことなどなかった。
「*あれ*を連れ戻しておいて、俺に協力しろって?」
キランがハイタワーを見る。
「よし」
ベゼルカーを示す。
「そろそろ誰か、何が起きてるのか説明してくれないか?」
ハイタワーは無視した。
注意はレイモンドだけに向いている。
「KB-735K35を回収したのは、およそ三週間前だ」
「どこで?」
「バラン」
レイモンドの表情が険しくなった。
ハイタワーは続ける。
「地質調査チームが、崩落した岩盤の約二十メートル下に埋まっているのを発見した」
レイモンドがゆっくりと首を振る。
「……ダメだ」
「大きく損傷していたが、稼働可能な状態だった」
「ダメだ」
「技術班が修復のため、ここへ輸送した」
レイモンドがハイタワーへ詰め寄る。
「埋めたままにしておくべきだった」
ハイタワーの目が細くなる。
「あれには何十億クレジットもの軍事技術が投入されている」
「そんなもん知るか!」
キランがびくりとした。
近くにいた兵士たちも同じだった。
レイモンドがガラスの向こうを指さす。
「あれは、あの洞窟に埋めたままにしておくべきだったんだ!」
ハイタワーの声は冷静なままだった。
「自制しろ、兵士」
レイモンドが固まる。
顎に力が入った。
「俺はもう、あんたの兵士じゃない」
室内が静まり返った。
ハイタワーは彼を見つめる。
そして――
「そのようだな」
レイモンドは今にも殴りかかりそうだった。
キランは少しだけ近づいた。
本当にレイモンドが殴ると思ったわけではない。
たぶん。
マッハはキランの近くにいた。
センサーは今もベゼルカーを解析している。
「将軍」
マッハがハイタワーを見る。
「先ほど、このユニットは自己進化するとおっしゃいましたね」
「そうだ」
「具体的には、どういう意味でしょう?」
ハイタワーはようやくレイモンドから目を逸らした。
「ベゼルカーは、戦闘中にあらゆる刺激をリアルタイムで解析するよう設計されている」
観察窓の隣にあるディスプレイが点灯した。
設計図。
戦闘データ。
損傷記録。
適応モデル。
「敵が銃撃すれば……」
ハイタワーがディスプレイへ触れる。
「……その武器に耐える方法を学習する」
別の図が現れる。
「敵が特定の戦術を使用すれば、それを解析し、適切な対抗手段を構築する」
キランは画面を見つめた。
「つまり、誰かがこいつと戦うたびに……」
「殺すことが難しくなる」
キランは再び窓の向こうを見る。
「誰が*そんなもの*をいいアイデアだと思ったんだ?」
ハイタワーはその質問を気に入らなかったようだ。
代わりにレイモンドが答える。
「軍だよ」
キランが彼を見る。
レイモンドの目はベゼルカーから離れていない。
「戦場に放り込めば、戦う相手が一人も残らなくなるまで戦い続ける兵器が欲しかったんだ」
ハイタワーの表情が険しくなる。
「KB-735K35は、人間の犠牲を減らすために設計された」
レイモンドが苦々しく笑った。
「ああ」
ようやくハイタワーを見る。
「それで、結果はどうだった?」
沈黙。
キランは、自分が何年も前から続いていた口論の真ん中へ突然放り込まれたような気分だった。
そしてどうやら――
その中心にいるのがベゼルカーらしい。
「なんでレイモンドなんだ?」
キランが尋ねた。
ハイタワーが彼を見る。
「レイモンドの協力が必要だって言ったよな」
キランはレイモンドを示す。
「なんで?」
ハイタワーは少し迷った。
そして――
「このユニットとの長時間にわたる直接戦闘を生き延びた唯一の人間だからだ」
キランはゆっくりとレイモンドを見た。
マッハも同じだった。
レイモンドは目を逸らした。
キランの胃が締めつけられる。
「……何?」
ハイタワーは続ける。
「ハリソンが当時提出した報告書には、不完全な部分がある」
レイモンドが勢いよく振り向いた。
「俺の報告書には、あんたらが知るべきことは全部書いた」
「結果はな」
ハイタワーが一歩近づく。
「どうやってその結果に至ったかは書かれていない」
レイモンドの拳が固く握られた。
「俺は何も成し遂げてない」
「ハリソン――」
「俺の部隊は全滅したんだ!」
その言葉が室内に炸裂した。
全員が黙り込む。
キランは彼を見つめた。
レイモンドは荒い息をしている。
ハイタワーは何も言わなかった。
レイモンドは再びガラスの向こうを見る。
声が低くなる。
「俺はあいつに勝ったんじゃない」
長い沈黙。
「生き延びただけだ」
キランの表情が和らいだ。
突然――
レイモンドがなぜバランについて話そうとしなかったのか分かった。
少なくとも、その一部は。
もっと聞きたかった。
だが、ここはその場所ではない。
ハイタワーがいる前では。
ベゼルカーがこちらを見ている前では。
ハイタワーはディスプレイへ向き直った。
「技術班は、ユニット本来の機能のおよそ八十七パーセントを復旧させた」
レイモンドの目が見開かれる。
「起動させたのか?」
「何が起きたのか理解する必要がある」
「ダメだ」
レイモンドが彼へ詰め寄る。
「停止させろ」
「それはできない」
「できるようにしろ!」
ハイタワーは冷静だった。
「安全装置は設置してある」
レイモンドは彼を見つめる。
そして笑った。
「あんな拘束具で止められると思ってるのか?」
将軍は収容室を見る。
ベゼルカーの両腕は巨大な機械式ロックで固定されている。
両脚は床に固定。
さらに台座の周囲にはエネルギーバリア。
「あの拘束装置は、このユニット専用に――」
「止められない」
「三週間、問題なく機能している」
レイモンドが近づく。
「なら三週間、運が良かっただけだ」
キランはベゼルカーを見た。
何かが気になった。
あの機械は、ずっとレイモンドを見ている。
一度も目を逸らしていない。
「マッハ」
「気づいています」
ハイタワーが二人を見る。
キランは眉をひそめた。
「あいつ、レイモンドを追ってる」
ハイタワーが窓の向こうを見る。
ベゼルカーの頭がわずかに動く。
レイモンドを追って。
キランが車椅子を数メートル横へ動かした。
機械は無視。
マッハが動く。
反応なし。
レイモンドが動く。
ベゼルカーの目が追う。
キランの胃が沈んだ。
「覚えてるんだ」
ハイタワーは興味を示した。
「そのようだな」
レイモンドは、その好奇心を共有していなかった。
「だから帰るべきだって言ってるんだ」
その時――
収容室のスピーカーから機械音声が響いた。
歪んでいる。
低い。
壊れたような声。
「レ……レ……」
全員が固まった。
ベゼルカーの顎が動く。
「レイ……」
レイモンドの顔から血の気が引いた。
「停止させろ」
ハイタワーが制御装置へ向かう。
ベゼルカーの赤い目がさらに強く輝いた。
「レイ……モンド……」
キランは呆然とした。
あの機械は彼の名前を知っている。
レイモンドが後ずさる。
「止めろ!」
ベゼルカーが拘束具を引っ張った。
**ガァン!**
観察室全体が振動する。
兵士たちが即座に武器を構えた。
ハイタワーが操作盤を押す。
「鎮静システム」
ガスが収容室へ噴出した。
ベゼルカーの姿が濃い白煙の中へ消える。
唸り声が弱くなった。
そして止まる。
沈黙。
レイモンドはガラスの向こうを見つめていた。
呼吸が少しずつ落ち着いていく。
ハイタワーが彼を見る。
「だからこそ、君が必要なんだ」
レイモンドが振り返る。
「君に対する行動反応を分析する必要がある」
レイモンドの顔が歪んだ。
「俺はあんたらの実験用モルモットじゃない」
「違う」
ハイタワーはベゼルカーを見る。
「君は、あれの敵だ」
レイモンドは何も言わなかった。
キランはその答えが気に入らなかった。
まったく。
その後――
三人はクリーガー軍事基地の別区画へ案内された。
レイモンドが先を歩く。
キランとマッハが後に続いた。
軍がベゼルカーの追加診断を行う間、ハイタワーは三人に一時的な宿舎を用意していた。
観察室を出てから、レイモンドは一言も話していない。
やがて――
キランは耐えきれなくなった。
「部隊全員……?」
レイモンドが足を止める。
キランはすぐに、自分の聞き方を後悔した。
「いや……」
声を柔らかくする。
「話したくなければ、話さなくていい」
レイモンドは前を見つめた。
「いや」
キランは待つ。
レイモンドは再び歩き始める。
「ここでは話さない」
それで十分だった。
今は。
交差する廊下へ差しかかった。
兵士の一団が通り過ぎる。
その一人がレイモンドに気づいた。
目を見開く。
「ハリソン?」
レイモンドが止まる。
兵士が笑った。
「マジか」
近づいてくる。
「来てるって聞いたぞ」
レイモンドは無理に小さな笑みを作った。
「元気だったか?」
「まあな」
兵士がキランを見る。
次にマッハ。
「友達か?」
「家族だ」
キランがレイモンドを見る。
レイモンドは見返さなかった。
兵士が笑う。
「会えてよかったよ」
そのまま廊下の向こうへ去っていった。
レイモンドは再び歩き出す。
キランも後を追う。
数秒後――
「家族、ねえ?」
レイモンドがため息をつく。
「始めるな」
キランが笑う。
「何も言うつもりなかったけど」
マッハが彼を見る。
「絶対に何か言うつもりでした」
「裏切り者」
ほんの一瞬だけ――
レイモンドが笑った。
だが――
**ビィィィィィッ!**
赤い警告灯が点滅する。
笑顔が消えた。
基地中に警報が鳴り響いた。
**警告。**
**収容システム障害。**
レイモンドがその場で止まった。
キランの目が見開かれる。
マッハが即座に緊急通信へアクセスした。
「第七地下区画でセキュリティ侵害」
レイモンドが振り返る。
第七地下区画。
あの観察室。
「そんな……」
兵士の声がインターコムから響き渡った。
「全警備部隊、収容区画へ急行! 対象KB-735K35、活動中!」
レイモンドの表情が変わる。
「キラン」
キランが彼を見る。
レイモンドの声は、恐ろしいほど真




