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リミックス

「分かった」

キランはレイモンドを見る。

「ありがとう」

三人が出発しようとした、その時――

ギアが咳払いをした。

「それと、いい知らせがある」

キラン、マッハ、レイモンドが一斉に振り返る。

ギアは、これからキランには理解できないことを説明しようとしている時によく見せる、得意げな表情を浮かべていた。

「あいつらの怪物がどういう仕組みなのか、たぶん分かった」

全員の注意が向いた。

ギアはタブレットを手に取った。

画面には、ものすごく雑なイラストが表示されている。

ターンテーブル。

音波。

怪物。

キランは画面を見つめた。

「……これ、お前が描いたの?」

「そこはどうでもいい」

ギアは怪物を指さした。

「怪物そのものはホログラムだ」

キランが頷く。

「そこまでは分かってる」

「光で作られた像にすぎない」

ギアは続ける。

「触感もない」

今度はイラストの音波を指さした。

「そこで音楽の出番だ」

マッハはすぐに興味を示した。

キランは――

すでについていけなくなりそうだった。

「音楽じゃなくて、音波だと考えろ」

ギアは図を拡大する。

「十分な力を持った音波なら、実体がある物体のような感覚を作り出せる」

キランが瞬きをする。

「つまり、ホログラムに音波を重ねることで――」

「ジェラルド」

ギアが止まった。

キランはじっと彼を見る。

「俺は英語教師だ」

自分を指さす。

「機械工学の専門家じゃない」

その名前を聞いたギアの目元が引きつった。

「簡単に説明してくれ」

ギアはタブレットを下ろした。

「音楽がなければ」

一拍。

「怪物もいない」

キランが笑った。

「最初からそう言えよ」

ギアが睨みつける。

キランはレイモンドを見る。

それからマッハ。

表情が真剣になった。

「準備しよう」

**ヴァリアント**

クラブは満員だった。

建物中に音楽が轟いている。

巨大なダンスフロアではストロボライトが激しく明滅していた。

若者たちが光り輝くホログラムディスプレイの下に集まり、その間をウェイトレスたちがドリンクを運んでいる。

その中心では――

ナオミとDJ Kre8が音楽を操っていた。

ナオミは入口を見る。

「まだ来てない?」

DJ Kre8が確認する。

「見えねえな」

ナオミは眉をひそめた。

ダンスフロアの人が減り始めている。

帰る者。

テーブルへ戻る者。

ナオミはライブ配信の視聴者数を確認した。

「ちょっと盛り上げないと」

DJ Kre8が笑う。

「定番のアレでもやる?」

ナオミの機嫌が即座に良くなった。

「いいね」

DJ Kre8が曲を変更する。

ナオミがコントロールを調整した。

**ズン・ズン・ズン・ズン!**

ターンテーブルから光が溢れ出す。

そして――

巨大なサイバー・バタフライたちが観客の頭上に現れた。

人々が足を止める。

巨大な光る蝶たちがクラブの中を優雅に舞い、その翼の周囲を音符が漂っている。

観客が歓声を上げた。

人々が再びダンスフロアへ押し寄せる。

あちこちでスマホが掲げられた。

ナオミがにやりと笑う。

「そうこなくっちゃ!」

その時――

入口が開いた。

三つの人影が入ってくる。

キラン。

マッハ。

レイモンド。

キランは周囲を見回した。

頭上にはサイバー・バタフライ。

その下では、人々が何事もないかのように踊っている。

「よし」

キランは唾を飲み込んだ。

「ここだな」

レイモンドを見る。

「気楽にいこう」

レイモンドは店内を見渡した。

「分かれよう」

ターンテーブルを見る。

「そのほうが広く動ける」

キランが頷く。

「俺たちは左へ行く」

反対側を指さす。

「お前は右だ」

レイモンドは人混みの中へ消えた。

キランとマッハは反対方向へ進む。

だが、まだそれほど進んでいないうちに――

「おい!」

DJ Kre8の目が見開かれた。

「あれ見ろよ!」

ナオミも二人を見つけた。

満面の笑みが浮かぶ。

「おっ」

マイクへ手を伸ばした。

「パーティータイム!」

サイバー・バタフライが消滅した。

観客たちは困惑して周囲を見る。

ナオミの声がクラブ中に響き渡る。

「オーケー、Jスクワッド!」

全員が彼女を見る。

「ダンスフロアを空けてもらえるかな!」

音楽が変わった。

人々が徐々に中央から離れていく。

ナオミが笑う。

「今夜はなんと、スペシャルゲストが来てくれてまーす……」

キランが止まった。

「……嫌な予感」

ナオミがまっすぐ彼を指さす。

「キラン・キリアンと、そのギアボックス!」

全員の視線が集中した。

キランは無言で見つめる。

マッハが顔をしかめた。

「どうしても私をそう呼びたいようですね」

キランが呟く。

「みたいだな」

近くでは――

レイモンドが即座に観客へ紛れようとしていた。

ナオミは続ける。

「来ないかと思ってたよ!」

キランが彼女を見る。

「さあ、ダンスフロアまで転がってきな!」

人々が後ろへ下がり始めた。

道が開く。

キランはため息をつく。

「もう少しさりげなくできなかったのか……」

前へ進む。

マッハも続く。

やがて――

ダンスフロアの中央には、キランとマッハだけが残った。

ナオミとDJ Kre8はターンテーブルの後ろにいる。

クラブ中の人間が見ていた。

スマホが録画している。

ライブ配信も続いている。

ナオミがマイクへ身を乗り出した。

「始める前に何か言いたいことある?」

キランは周囲を見た。

まだ一般人が大勢いる。

こんなことをする必要はない。

「まだ誰も傷ついてない」

ナオミの笑顔がわずかに弱くなる。

キランは続けた。

「多少、物は壊れたけど……」

まっすぐ彼女を見る。

「……まだ普通の人生に戻れる」

ナオミは黙って見つめた。

「ここで終わりにしろ」

一瞬――

沈黙。

やがてナオミが笑った。

「悪くない提案だね」

キランの身体から少し力が抜けた。

「私たちも、そのつもり」

キランの表情が変わった。

DJ Kre8がにやりと笑う。

「その通り」

キランは突然、彼女の言葉の意味を理解した。

戦いを終わらせるのではない。

終わらせるのは――

*キラン自身。*

DJ Kre8がナオミを見る。

「リミックス、出していい?」

ナオミの顔が輝いた。

「もちろん!」

キランは眉をひそめる。

「リミックス?」

ナオミは両手をターンテーブルへ置いた。

「アンタのためだけに作ったの」

その笑みが不気味なものへ変わる。

「気に入ってくれるといいけど」

ノブをひねる。

そしてボタンを叩いた。

**ドォン!**

クラブ全体が揺れた。

ターンテーブルから光が爆発する。

キランは後退した。

「マッハ……」

「見えています」

二つの巨大な影が形を作り始めた。

一つは上へ伸びていく。

翼が広がる。

尾が現れる。

**サイバー・ドラゴン。**

だが、以前より巨大。

以前より強大。

そして、遥かに精巧。

その隣では――

一つの巨大な目が開いた。

**サイバー・サイクロプス。**

こちらも強化されている。

二体の怪物がキランとマッハを見下ろした。

一般客たちが悲鳴を上げる。

クラブはほぼ一瞬で空になった。

キランは上を見つめた。

「……やっぱりな」

サイバー・ドラゴンが息を吸い込む。

マッハの目が見開かれた。

「避けて!」

**ゴオオオオッ!**

炎がダンスフロアを焼き払う。

キランは空へ飛び上がった。

炎が紙一重で外れる。

テーブルが燃え上がった。

人々はなおも出口へ殺到している。

サイバー・サイクロプスがキランへ腕を振る。

キランは回避した。

マッハが隣を飛ぶ。

「さて」

マッハはターンテーブルを見る。

「あとは、どうやってあそこまで近づくかですね」

キランは二体の巨大な怪物を見る。

そしてナオミとDJ Kre8へ視線を移す。

「怪物を片側へ誘導しよう」

プラズマキャノンを構える。

「隙間を作れれば……」

砲身へエネルギーが集まる。

「……一気に近づける」

**ピュン! ピュン! ピュン! ピュン!**

キランが一斉射撃した。

サイバー・ドラゴンが咆哮する。

サイクロプスが突進した。

二体ともキランへ向きを変える。

狙い通り。

キランはクラブ内を一気に加速した。

「来い!」

怪物たちが追いかける。

その背後では――

少なくなった観客の中から、レイモンドが姿を現した。

ナオミとDJ Kre8は怪物を操ることに夢中で、彼に気づいていない。

レイモンドが近づく。

さらに近く。

その視線はターンテーブルだけを捉えていた。

キランは怪物を倒す必要などなかった。

レイモンドが音楽へ辿り着くまで――

奴らを引きつけておけばいい。

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