美しい
「ま、ま、間違いなく!」
グリッチがにやりと笑った。
隣でアルフィーも頷く。
永遠にも感じられた時間を経て、ようやく目の前の危機は去った。
プロフェッサー・テックは倒された。
アラスターは警察に拘束された。
マドックスは生きている。
グリッチも元通り。
そしてキランは――
疲れ果てていた。
レイモンドが彼を見る。
「これからどうする?」
キランは少し考えた。
そして、小さく笑った。
「考えがある」
**シトロン国立公園**
今日キランが経験してきたすべてと、この公園との違いは、もはや笑ってしまうほどだった。
爆発なし。
プラズマ砲撃なし。
殺人テクノロジーなし。
高層ビルから落ちてくる億万長者もなし。
ただ――
静かだった。
人々が曲がりくねった小道を歩いている。
木々はそよ風に優しく揺れ。
周囲の庭園には花々が咲き誇っていた。
そして、その中で――
ミカイラ・マッキントッシュが植物に丁寧に水をやっていた。
その姿は、心の底から穏やかに見えた。
キランが近づく。
「よう、久しぶり」
ミカイラはすぐに振り返った。
その顔がぱっと明るくなる。
「ホットロッド!」
じょうろを置いた。
「来てくれたのね」
キランは笑った。
「ああ!」
その瞬間、ある考えが頭をよぎる。
「俺、遅刻してないよな?」
「全然」
よかった。
今日という一日を過ごした後で、ミカイラとの約束にまで遅刻していたら、もはや最後の仕打ちとしか思えなかっただろう。
キランが近づく。
ミカイラの笑顔はそのままだった。
だが――
少しだけ薄れた。
彼女はキランをじっと見る。
キランは笑顔を保とうとした。
どうやら、まったく誤魔化せていなかったらしい。
「大丈夫?」
キランは瞬きをした。
ミカイラが顔を近づける。
「なんか変よ」
「いや」
キランはあまりにも早く答えた。
「大丈夫だ」
ミカイラが見つめる。
キランも見つめ返す。
「ふーん……」
これはよくない「ふーん」だった。
ミカイラはゆっくりとマッハへ顔を向ける。
「マッハ……」
キランの目がわずかに見開かれた。
やめろ。
絶対にやめろ。
「なんだか、私をごまかそうとしてる気がするんだけど」
キランはマッハを見る。
*言うな。*
マッハはミカイラを見た。
「その通りです」
キランの口が開いた。
裏切り者。
マッハは一切ためらうことなく続ける。
「キランは今日、大変な一日を過ごしました」
キランはうつむいた。
「ただ、本人は弱音を吐くのが嫌いなだけです」
ミカイラの表情がすぐに柔らかくなる。
「あら……」
キランは突然、花がものすごく興味深いものに思えてきた。
同情されたくなかった。
アラスターのことも話したくなかった。
今はまだ。
自分の生徒が手錠をかけられ、連行されていく光景が、まだあまりにも鮮明に残っていた。
怒りも。
失望も。
罪悪感も。
一日中、かつて助けたいと思っていた相手と戦っていた。
そして勝ったにもかかわらず――
勝利した気分にはなれなかった。
その時――
ミカイラの手が、そっと彼の肩に置かれた。
キランは動きを止めた。
肩に置かれた手を見る。
それから彼女を見る。
ミカイラは微笑んでいた。
哀れむような笑顔ではない。
心配するようなものでもない。
もっと温かくて。
どこかいたずらっぽい。
「じゃあ、私が元気にしてあげよっか」
キランは彼女を見つめた。
そして――
笑った。
今度は、本物の笑顔だった。
背後では、マッハがゆっくりと得意げな顔になっていた。
キランはそれに気づいた。
目を細める。
マッハの笑みがさらに広がった。
キランは声を出さずに口だけ動かした。
*やめろ。*
マッハは何も言わなかった。
言う必要もなかった。
ミカイラが歩き始める。
キランも後を追った。
二人は庭園のさらに奥へ進んでいく。
ミカイラがキランの腕に自分の腕を絡ませた。
キランの身体から力が抜ける。
久しぶりに――
何も考えないことを自分に許した。
プロフェッサー・テックも。
サヴァントも。
マドックスも。
ウィーラーズも。
今はただ、ミカイラだけ。
庭園だけ。
シトロン・シティが自分を殺そうとしてこない、ほんの数分間の静かな時間だけ。
ミカイラは誇らしげに周囲を見渡した。
「それで……」
微笑む。
「この庭園、どう思う?」
キランは花々を見渡した。
鮮やかな植物が幾列にもわたって周囲に広がっている。
シトロン・シティ原産のものもあれば。
別の地域から運ばれ、大切に育てられたものもある。
蝶たちが、その間をのんびりと舞っていた。
ほんの一瞬――
キランは他のすべてを忘れた。
「美しいな」
ミカイラが微笑む。
「ありがとう」
キランは彼女を見る。
庭園のことを言ったつもりだった。
少なくとも――
そのはずだった。
どうやらミカイラは、キランが自分を見ていることに気づいたらしい。
その笑顔が、ほんの少しだけ大きくなった。
キランはすぐに花へ視線を戻した。
後ろを飛ぶマッハは、まだ得意げな顔をしている。
キランはもう気にしなかった。
好きなだけ得意げにしていればいい。
今日という一日を乗り越えたのだから――
今くらいは、この時間を楽しみたかった。
明日になれば、また新しい悪党が現れるかもしれない。
また災害が起こるかもしれない。
また解決不可能に思える問題が待っているかもしれない。
サヴァントは今もどこかにいる。
そしてアラスターが、彼の影響を受ける最後の人間ではないこともキランには分かっていた。
だが。
それは明日の問題だ。
今夜――
キラン・キリアンは、美しい庭園を、美しい女性と一緒に歩いていた。
そして、今だけは――
それで十分だった。




