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感謝のしるし

バロンズ地区。

それから間もなく。

アラスターは怒りを抱えたまま、歩道を車椅子で進んでいた。

キランの言葉が頭から離れない。

お前なんか怖くない、アラスター。

アラスターの手に力が入った。

キランには分かっていない。

誰にも分かっていない。

何年もの間。

彼は創り続けてきた。

設計し。

組み上げてきた。

それなのに。

自分の作品を他人に奪われ。

そいつが称賛を浴びた。

そして今度はキラン――

アラスターが本当に尊敬していた相手まで――

悪いのは自分だと決めつけた。

隠れ家へ続く角を曲がる。

そして。

止まった。

目が見開かれる。

小屋が。

なくなっていた。

いや――

ほとんど、なくなっていた。

かつて工房だった場所には、黒焦げになった梁と、いまだ煙を上げる残骸だけが残っている。

そして、そのすぐ外には――

警官たち。

アラスターは即座に後退した。

近くに身を隠し。

耳を澄ます。

「勘弁してくれよ」

一人の警官が不満そうに言った。

「今日だけで四件目だぞ」

もう一人が肩をすくめる。

「バロンズだぞ。何を期待してる?」

「それもそうだな」

アラスターの表情が暗くなる。

当然だ。

自分の工房が丸ごと焼け落ちた。

何年もかけた研究が消えた。

それでも。

ここはバロンズだから――

誰も気にしない。

「まあ、こっちはもう終わりでいいだろ」

「ああ」

警官たちはホバークラフトへ乗り込んだ。

数秒後――

姿を消した。

アラスターは待った。

そして。

ゆっくり姿を現した。

廃墟へ入る。

すべてが。

壊れていた。

コンピューター。

ハードドライブ。

試作品。

何日も。

何週間も。

何度となく夜を徹して設計した機械。

アラスターは焼け焦げた装置の一つを拾い上げた。

黒く炭化した金属が。

指の中で崩れ落ちる。

顔が怒りで歪んだ。

「これで、分かっただろう」

アラスターが固まった。

残骸となった入口から。

サヴァントが姿を現した。

アラスターは壊れた装置を地面へ投げ捨てた。

サヴァントが周囲を見渡す。

「キリアンがやったんだろう?」

アラスターの怒りがさらに強くなる。

「あんたの言ったとおりだった」

両手を拳にする。

「俺もあいつにとっては、ただのクズなんだ」

自分の発明品の残骸を見る。

「しかも、これじゃマドックスを狙うことすらできない。機材は全部壊れた」

サヴァントがかすかに笑う。

「そうとも限らない」

背後へ手を伸ばした。

そして。

あるものを取り出す。

アラスターの目が見開かれた。

ヘルメット。

プロフェッサー・テックのヘルメットだった。

焼け焦げてはいる。

だが――

原形を保っている。

機能も生きている。

サヴァントが差し出した。

アラスターはゆっくり受け取る。

粗削りな機械の顔を見つめた。

かつて感じていた迷いは。

もう。

消えつつあった。

キランは正体を知った。

キランは隠れ家へ侵入した。

自分の技術は失われた。

それでも。

マドックスは今も。

アラスターの技術を自分のものとして使い続けている。

サヴァントは。

怒りが彼を呑み込んでいく様子を見つめていた。

「さあ、復讐してこい」

アラスターはヘルメットを強く握った。

「喜んで」

その日の午後――

ギアのガレージ。

「どうしてアラスターがこんなことをするのか分からない」

キランは、ギアが車椅子用の新しい装置を作業しているのを見つめていた。

隣にはマッハ。

少し離れたところでは。

アルフィーとグリッチが、回収した設計図をホログラムディスプレイで調べている。

「あいつ、マドックスを狙うことしか考えてない」

ギアは顔も上げなかった。

「思春期の鬱憤を甘く見るな」

キランが眉をひそめる。

「マドックスに自分の作品を盗まれたって言ってた」

突然。

アルフィーが口を挟んだ。

「そ、それ……本当かもしれない」

キランが振り返る。

「何?」

アルフィーが回収した設計図の一つを拡大する。

キランは。

そのデザインにすぐ気づいた。

アーキテクト。

いや――

少なくとも。

エキスポでマドックスが披露した技術と、極めてよく似たもの。

アルフィーが日付を指さす。

「こ、この設計図、三年前の日付になってる」

キランは見つめた。

三年前。

アルフィーが続ける。

「ぼ、僕は何百万クレジットも動かす会社のCEOじゃないけど……」

キランを見る。

「……マドックスの社員が、それより前にし、試作品を完成させてたとは思えない」

マッハが設計図を分析する。

「では、彼の主張にはある程度の根拠があるということですね」

グリッチが頷く。

「そ、そうみたい」

キランの胃が重くなる。

だからといって。

アラスターがしたことが正当化されるわけではない。

無関係な人々を脅すことも。

マドックスを殺そうとすることも。

正しくない。

だが――

嘘をついていたわけでもなかった。

「最低だな」

キランはもう一度日付を見る。

「高校生から発明を盗む奴がいるか?」

マッハが静かに答えた。

「金銭は、非常に強い動機になり得ます」

ようやくギアが作業を終えた。

「それが本当なら……」

完成した装置を持ち上げる。

「……なおさら、こいつが必要になるな」

ギアはキランの車椅子へ装置を取り付け始めた。

キランが笑う。

「なんだよ。俺を信じてないのか?」

「信じてない」

キランが固まった。

ギアはそのまま作業を続ける。

「回収した設計図のおかげで、奴の信号を妨害する装置を作れた」

キランの表情が変わった。

「これをつけていれば、奴はマッハを操れない」

マッハは明らかに安心した様子だった。

キランは――

そうでもない。

「本当に?」

ギアがゆっくり彼を見る。

「前にも欠陥品作ったことあるだろ、ジェラルド」

ギアの目が細くなった。

「その名前で呼ぶな」

装置を固定する。

「それに、ちゃんと動く」

キランが何か言い返すより先に――

「キラン・キリアンさんでいらっしゃいますか?」

全員が振り返った。

「え?」

入口には。

一人の女性型ロボットが立っていた。

その周囲には数人のボディガード。

彼女が一歩前へ出る。

「自己紹介させていただきます」

完璧に事務的な口調だった。

「私はアニ。マドックス様の専属秘書を務めております」

キランが瞬きをする。

アニは続けた。

「本日は、マドックス様に代わりまして、あなたをご招待するために参りました」

微笑む。

「感謝のしるしとお考えください」

キランはマッハを見る。

次にギア。

アルフィー。

そして。

アニへ戻る。

「えっと……」

大企業のCEOがロボット秘書を直接送り込んで、自分を招待する。

そんな経験には。

まったく慣れていなかった。

「……分かりました」

それから間もなく――

キランとマッハは。

ニコラス・マドックスのオフィスへ入った。

「来たか!」

マドックスがデスクの後ろから立ち上がった。

満面の笑みを浮かべる。

「私の救世主!」

キランは即座に居心地の悪さを覚えた。

「そこまでじゃないですよ」

「そのうえ謙虚ときた」

マドックスは近くのドリンクステーションへ向かう。

「何か飲むか?」

「いえ、結構です」

マドックスは自分の分だけ注いだ。

「信じられないかもしれないが……」

笑みが少し薄れる。

「……命を狙われたのは、これが初めてではない」

キランが彼を見る。

「理由に心当たりは?」

マドックスが一口飲む。

「成功だよ、キリアン君。」

デスクへ戻る。

「私の業界では、成功を手に入れるためなら人間がどこまでやるか、君が知れば驚くだろう」

キランは考えた。

「なるほど」

そして。

表情を引き締める。

「でも、それだけじゃない気がします」

マドックスが止まった。

「どういう意味だ?」

キランは。

何を聞くべきか分かっていた。

「理由は分かりませんが……」

マドックスの表情を注意深く観察する。

「……プロフェッサー・テックは、あなたが自分のアイデアを盗んだと思ってる」

マドックスの表情は。

ほとんど変わらなかった。

「そうか」

キランは。

その反応が気に入らなかった。

あの設計図を見たあとでは。

そこに記された日付を見たあとでは。

そして。

アラスターの言葉が、本当に嘘ではなかったかもしれないと知ったあとでは。

マドックスは椅子へ深く腰を下ろした。

「誰かにそう言われるたびに一クレジットもらえていたなら……」

軽く笑う。

「……私はもう一日だって働く必要はないだろうな」

キランは笑わなかった。

なぜなら今回は――

証拠があった。

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