↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
72/209

ウイルスを追え

「何か分かった?」

キランは、ノートパソコンのキーボードを猛烈な勢いで叩くアルフィーの指を見つめていた。

コンピューターからグリッチへ何本ものケーブルが伸びている。

そのグリッチのアバターは。

見ていて不安になるほど不安定なままだった。

ある瞬間は普通に見える。

だが次の瞬間――

バヂッ!

身体が歪み、デジタルノイズの塊へと崩れる。

アルフィーは画面から目を離さなかった。

「ま、まだ」

キラン、マッハ、ギア、レイモンドは近くに集まり、ディスプレイを流れていく大量のコードをどうすることもできず見守っていた。

キランには。

まるで意味が分からない。

だがアルフィーにとっては――

どうやら迷路のようなものらしい。

そして今。

その出口を探している。

「し、侵害されてるシステムは見つけた……」

アルフィーが別のコマンドを入力する。

画面に複数のコードが表示された。

いくつかの経路は緑。

だが。

ほかは――

赤。

「……でも、発生源を見つけるのが難しい」

グリッチがまた痙攣した。

キランは眉をひそめる。

プロフェッサー・テックには、本当に酷いことをされたらしい。

アルフィーはさらに画面へ顔を近づけた。

「こ、こんなの見たことないよ」

さらにコマンド。

さらにコード。

さらに増える赤い経路。

「これ作った奴、よ、よっぽど暇だったんだな……」

キランはマッハと顔を見合わせた。

あまり良い兆候には聞こえない。

そのとき――

アルフィーの表情が変わった。

指が突然止まる。

笑みが浮かんだ。

「……でも、ぼ、僕の超絶テクには敵わない!」

最後のキーを勢いよく叩いた。

カチッ!

赤い経路が消えた。

画面全体が緑に染まる。

グリッチのアバターが安定した。

ノイズはない。

痙攣もない。

意味不明な単語も出てこない。

ただ――

グリッチがいる。

アルフィーはすぐに彼へ向き直った。

「グリッチ、ちょ、調子はどう?」

グリッチは自分の手を見る。

次に身体。

そしてアルフィー。

満面の笑みが浮かんだ。

「いつものグ、グ、グリッチな僕に戻ったよ!」

全員が安堵の息を吐いた。

キランはその瞬間まで、自分がどれほど緊張していたのか気づいていなかった。

「よかった……」

マッハがグリッチへ近づく。

「完全に正常稼働しているようですね」

グリッチが頷いた。

「う、うん!」

だが。

キランの安堵はすぐに罪悪感へ変わった。

アルフィーとグリッチへ近づく。

「本当にごめん」

表情が真剣になる。

「俺とマッハが、二人を巻き込むべきじゃなかった」

グリッチは肩をすくめた。

「き、気にしなくていいよ」

アルフィーも頷く。

「ぼ、僕たちが手伝いたかったんだから」

それでも。

キランの気分は晴れなかった。

自分の問題に二人を巻き込んだせいで。

プロフェッサー・テックのウイルスにグリッチが焼かれかけた。

だがアルフィーには。

キランがいつまでも罪悪感に浸るのを許すつもりなどないらしい。

むしろ――

また笑っていた。

「それに、ウイルスを、う、上書きしてる間に……」

アルフィーがノートパソコンを皆へ向けた。

「……ど、どこから来たのか突き止められた」

キランとマッハが固まった。

「本当に!?」

アルフィーがニヤリとする。

「うん」

いくつかのコマンドを入力する。

地図が表示された。

画面上に座標が点滅する。

レイモンドもすぐに近づいた。

キランから安堵の表情が消える。

今度は。

標的ができた。

「い、いいニュースは、そんなに遠くまで行かなくていいってこと」

アルフィーが地図を指さす。

「シ、シトロン・シティのすぐ外だよ」

マッハが座標を解析した。

「バロンズ地区です」

レイモンドの表情が。

わずかに変わった。

キランは気づかなかった。

まだ。

アルフィーは信号を追い続ける。

笑みが消えた。

「し、信号は強い……」

画面上のインジケーターが弱くなっていく。

「……でも、す、すごい速さで消えてる」

キランは即座に車椅子の向きを変えた。

「なら急ごう」

レイモンドが前へ出る。

キランは彼を見る。

「一緒に来る?」

レイモンドは。

その質問自体が馬鹿げているとでも言いたげな顔をした。

「俺を置いて行く気か?」

キランが笑う。

「だよな」

数分後――

シトロン・シティの輝く摩天楼が、徐々に背後へ遠ざかっていった。

キラン、マッハ、レイモンドは空を飛び。

郊外へ向かっている。

はるか下では――

アルフィーとグリッチが必死に追いつこうとしていた。

「おーい!」

遠くから聞こえるアルフィーの声は。

かろうじて届く程度だった。

キランが下を見る。

アルフィーとグリッチは遥か後方。

キランが笑った。

「ごめん!」

そのまま進み続ける。

景色は急速に変わっていった。

巨大な未来的高層ビルが消える。

眩しい広告もなくなる。

シトロン・シティ中心部の整備された街並みは。

荒れた建物へ変わっていった。

放棄された建造物。

ひび割れた舗装路。

街角に集まる人々。

中には。

ほかに行く場所すらないように見える者もいた。

レイモンドは。

次第に口数が少なくなっていった。

キランは周囲を見渡す。

「何を探せばいい?」

「分かりません」

マッハは、グリッチがナビゲーションシステムへ送った座標を確認した。

「グリッチが私のナビゲーターへアップロードした座標によれば……」

前を見る。

「……この角を曲がった辺りのはずです」

レイモンドが頷く。

「よし」

その声には。

明らかな緊張が混じっていた。

「やることだけやって、さっさと出よう」

「そのつもり」

キランが彼を見る。

何かがおかしい。

レイモンドの顎には力が入っている。

視線は何度も周囲の街並みへ動いていた。

だが。

好奇心ではない。

知っているのだ。

この場所を。

キランは少し速度を落とした。

「何か気になる?」

レイモンドはすぐには答えなかった。

「いつもよりちょっとピリピリしてるぞ」

キランが笑う。

「お前の場合、それって相当だからな」

レイモンドは笑わなかった。

代わりに――

下を見た。

崩れかけた建物。

放置された道路。

そこで苦しい生活を送る人々。

「この場所だ」

キランの笑みが消えた。

レイモンドは数秒間。

その街を見つめ続けた。

「お前には話したことなかったけど……」

表情が硬くなる。

「……俺はここで育った」

キランが彼を見る。

レイモンドは飛び続ける。

「軍に入るためにここを出たとき……」

もう一度。

バロンズ地区へ視線を向ける。

「……二度と戻らないって誓った」

ここで何があったのか。

キランには分からない。

レイモンドも。

今まで一度も話したことがなかった。

そして。

その表情を見る限り――

キランは聞かないことにした。

「心配するな」

隣を飛び続ける。

「長居はしない」

そのとき。

マッハが突然速度を落とした。

「実際……」

キランとレイモンドが前を見る。

朽ちかけた建物の間に。

一軒のボロボロの小屋が建っていた。

何の特徴もない。

むしろ。

笑ってしまうほど普通だった。

「……到着しました」

三人は降下した。

キランは建物を見つめる。

「ここ?」

マッハはもう一度座標を確認した。

「座標上は、ここです」

キランは小屋を見る。

次に周囲の街。

そして。

また小屋。

プロフェッサー・テック――

一対のグローブだけで高度なテクノロジーを乗っ取れる男が。

どうやら。

こんな場所を拠点にしていたらしい。

「よし」

キランは入口へ近づいた。

「何があるか見てみよう」

ドアが開く。

中は――

外観とはまったく違っていた。

ほぼすべての場所が機械で埋め尽くされている。

壁から垂れ下がる配線。

テーブルの上には、組み立て途中の実験装置。

見たこともない試作機の隣で、未来的なハードドライブが低い音を立てていた。

キランは見つめる。

「うん」

慎重に中へ入る。

「ここで間違いなさそうだ」

レイモンドも続く。

マッハは周囲のすべてをスキャンした。

そして――

キランは。

机の上に置かれたものに気づいた。

ヘルメット。

プロフェッサー・テックのヘルメット。

そして隣には――

グローブ。

キランの表情が険しくなった。

奴の隠れ家を見つけた。

だが。

プロフェッサー・テック本人はいない。

背後から足音が近づいてきた。

「はぁ……」

ようやくアルフィーがグリッチと一緒に入ってきた。

息を切らしながら笑っている。

「……み、みんな速すぎ!」

グリッチも後に続く。

「い、一瞬……」

アルフィーが笑う。

「……ぼ、僕たち抜きでプロフェッサー・テックを倒しちゃうかと思ったよ」

キランは空っぽの工房を見渡した。

「大したものは見逃してないよ」

視線が。

置き去りにされたヘルメットへ戻る。

「奴はいない」

アルフィーは。

大量の配線と未来的なハードドライブに囲まれたコンピューターに気づいた。

その瞬間。

落胆はどこかへ消えた。

「残念」

近づいていく。

「でも……」

アルフィーの目が輝く。

「グ、グリッチにコンピューターを調べてもらえば……」

グリッチがニヤリと笑う。

「……何か情報を引き出せるかも」

キランが頷いた。

「いいね」

プロフェッサー・テック本人には逃げられた。

だが。

奴は。

工房そのものを置き去りにしている。

そして。

この機械のどこかに――

自分たちが本当は何者を相手にしているのか、その答えが必ず残されているはずだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。