テクノキネシス
キランは激しく地面へ叩きつけられた。
**ガガガガガガッ!**
車椅子が舗装路の上を滑り、ようやく停止する。
数秒間。
世界そのものが彼の周囲で回転しているようだった。
キランはうめき声を漏らした。
頭が痛い。
背中も痛い。
そして、たった今プロフェッサー・テックにマッハを乗っ取られ、大勢の人間を撃たされかけた直後とあって――
神経のほうも、とても無事とは言えなかった。
キランは頭をさすった。
「大丈夫か、マッハ?」
隣でマッハのアバターが明滅する。
明らかに動揺していた。
かなり。
「おそらく」
マッハがキランを見る。
「あなたは?」
「俺は大丈夫」
キランは身体を起こそうとした。
そのとき――
「動くな!」
キランが止まった。
マッハも止まった。
二人の周囲をC.C.P.D.の警官たちが取り囲んでいる。
全員が武器を構え。
すべての銃口がキランへ向けられていた。
キランはそれを見つめた。
「……たぶん」
一人の警官が近づく。
「両手を見えるところに――」
「武器を下ろせ!」
全員が振り向いた。
パトロールを連れたアダムが近づいてくる。
珍しいことに。
今だけはアダム・ヘンリーの姿が心強く見えた。
「こいつじゃない」
警官たちが困惑する。
アダムはパトロールを指さした。
「あのクリンカーが、グローブを使って何かしてやがった。パトロールもやられた」
パトロールはいまだに酷い有様だった。
損傷した身体から、ときおり火花が弾けている。
「こいつらにも同じことが起きてた」
アダムがキランとマッハを示した。
「時間を無駄にしてないで、あの化け物を探せ!」
警官たちは武器を下ろした。
そして。
エキスポ会場の各所へ散っていく。
キランは息を吐いた。
かなり危ない状況だった。
アダムを見る。
「助かったよ」
アダムが横目で見る。
「一瞬、お前が――」
「言うな」
キランが瞬きをする。
アダムが顔を近づけた。
「言ったら逮捕する」
マッハが眉をひそめる。
「何の容疑で?」
アダムは真正面からマッハを見た。
「その間抜け面だ!」
マッハの口が開いた。
アダムは飛び去った。
パトロールも後を追う。
キランは二人を見送った。
やっぱり。
そういう奴だった。
ほんの一瞬。
恐ろしいことに、アダムがまともな性格になったのかと思ってしまった。
ギアが急いで駆け寄ってきた。
「ずいぶんと*刺激的*だったな」
プロフェッサー・テックが逃げた方向を見る。
「あれは何だったんだ?」
キランは首を振った。
「分からない」
マッハの表情には、まだ不快感が残っていた。
キランが彼を見る。
「でも、レイモンドには報告したほうがいい」
「同意します」
それから間もなく――
ギアのガレージには、いつもの機械音が響いていた。
奥では整備士たちがホバークラフトを修理している。
その中で。
キランは起きたことをすべて説明した。
レイモンドが彼を見つめる。
「マジかよ」
首を振った。
「俺が一日休んだだけで、*全部*めちゃくちゃになるのか」
キランはため息をつく。
「ああ」
操作部を握る手に。
わずかに力が入った。
「あのとき……本当に、あの人たちを撃たされると思った」
思い出すだけでも吐き気がした。
マッハが俯く。
ギアはそれに気づいた。
近くへ移動する。
「あいつに操られてたとき……」
マッハが顔を上げる。
「……どんな感じだった?」
マッハは考える必要すらなかった。
「最悪でした」
声が小さくなる。
「抵抗できなかっただけではありません。内部の配線がすべて焼かれているような感覚がありました」
キランの表情が険しくなる。
マッハには人間のような物理的な神経系はない。
それでも。
プロフェッサー・テックがやったことは。
確実にマッハを傷つけていた。
ひどく。
ギアが考え込む。
「興味深い」
レイモンドが眉を上げた。
キランもギアを見る。
「こんなことができる技術なんて、今まで見たことがない」
ギアはゆっくり歩き始めた。
すでに頭の中では。
問題を分解している。
分析している。
本来なら不可能なはずの現象を。
どうにか理解しようとしている。
「一種の……」
少し間を置いた。
「……テクノキネシスか?」
レイモンドが腕を組む。
キランはエキスポでの出来事を思い返した。
プロフェッサー・テックがレーザーを止めたこと。
そのレーザーを逆方向へ飛ばしたこと。
パトロールの回路を破壊したこと。
マッハを操ったこと。
そこには。
一つだけ共通するものがあった。
「どうやってるのかは分からないけど……」
キランがギアを見る。
「……あいつが何かを操うたびに、グローブが光ってた」
ギアが足を止めた。
キランは続ける。
「たぶん、何か関係がある」
「可能性は高いな」
ギアは自分の機材へ視線を向けた。
「だが、仲間たちと話してみるまでは確かなことは言えない」
レイモンドが肩をすくめる。
「今できるのはそれくらいだな」
そして。
表情が真剣になった。
「それに、あいつが本気でマドックスを殺したいなら……」
キランを見る。
「……また来る」
誰も否定しなかった。
そのとき――
**ピロピロピロッ!**
キランが飛び上がるように驚いた。
「何だ、マッハ?」
マッハはすぐにアラームの意味を理解した。
「24/7ダイナーでアルフィーとグリッチに会う予定のリマインダーです」
キランが固まった。
目が見開かれる。
「あ」
恐ろしい事実に気づいた。
「スナット、忘れてた!」
即座に車椅子を出口へ向ける。
「行かないと!」
レイモンドが呆然と見る。
キランは慌てて説明した。
「アルフィーとグリッチが街に来てるんだ。会う約束してたの忘れてた。じゃ、また後で!」
「分かった」
レイモンドが後を追い始めた。
「でも俺も行く」
キランが止まる。
「なんで?」
「あのテック野郎が現れたときのためだ」
「そこまでしなくてもいいと思うけど」
キランは自分を示した。
「あいつの狙いは俺じゃない」
ギアが即座に口を挟む。
「狂人に理屈を求めるな」
キランはギアを見る。
それからレイモンドを見る。
そして。
ため息をついた。
「分かったよ」
再び動き始める。
「来てもいい」
レイモンドが笑う。
「よし」
三人はガレージの出口へ向かった。
ギアは去っていく彼らを見送る。
「俺が戦場で働いてる間に、せいぜい楽しんでこい」
まだ奥で働いている整備士たちを見る。
「いつもどおりにな」
キランが振り返った。
「そんな泣き言言うなよ、ジェラルド」
そのままドアの向こうへ消える。
ギアは彼が消えた場所を見つめた。
「……あいつ嫌い」
それから間もなく――
シトロン・シティの夜景の下。
24/7ダイナーのネオンが輝いていた。
建物は昔ながらのダイナーの雰囲気と、現代的なテクノロジーを融合させた造りになっている。
外壁を彩る無数のネオンサイン。
駐車スペースにはホバークラフト。
さらに上空では。
高層ビルの間を別のホバークラフトが飛び交っていた。
店内では――
キラン、マッハ、レイモンドがテーブルにつき。
その向かいには。
見慣れた二人が座っていた。
**アルフィー・アーチャー。**
SMAを持つ、オタク気質の若者。
そして隣には――
彼のVent。
**グリッチ。**
黒とライムグリーン。
いかにもハイテク。
そして。
名前どおりの存在。
アルフィーがキランを見つめる。
「ま、待って……」
身を乗り出した。
「つまり……お、お、お前ら、今じゃスーパーヒーローみたいなことしてるってこと?」
アルフィーの顔が輝く。
「め、めっちゃイケてるじゃん!」
キランが笑った。
「一応、頑張ってる」
レイモンドを見る。
「まあ、惨敗続きだけど」
レイモンドが即座に返す。
「お前と一緒にするな」
グリッチはマッハへ視線を向けた。
「そ、それで、い、今度の敵がプ、プ、プロフェッサー・テックっていうのか?」
マッハが頷く。
「はい」
表情を曇らせる。
「かなり悪質な人物です」
マッハは何が起きたのか説明した。
「どういう方法かは不明ですが、あらゆる種類のテクノロジーを自由自在に操うことができます」
少し間を置く。
「Ventも含めて」
グリッチの表情が変わった。
アルフィーが彼を見る。
そして――
何かに気づいた。
アルフィーはゆっくりキランへ向き直った。
「そ、それって……グ、グ、グリッチができることと、ちょっと似てない?」
キランが眉を上げる。
「どういうこと?」
グリッチが答えた。
「ウ、ウイルス」
キランが見つめる。
マッハの目もわずかに見開かれた。
そして突然――
**プロフェッサー・テックの不可能に思えた能力が、そこまで不可能なものではないように思えてきた。**




